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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第75話 協力

 なんとか階段まで辿り着いた。息が荒く、足が重い。


 ノアちゃんをそっと降ろす。彼女は壁に寄りかかったまま、放心状態であった。


 僕は面を外し、彼女の顔を覗き込む。


「ノアちゃん……大丈夫?」


 しばらく沈黙が続いたあと、ノアちゃんは、ぽつりぽつりと言葉をこぼし始めた。


「インナーヒットマンはね……オリジナルの能力者の“子どもの死体”から作られるんだって」


 胸の奥が、きしむ。


「……それがどういう意味か、分かってる?」


 僕は何も言えなかった。


「インナーヒットマンには……わたしの兄妹が入ってるの。それも知らずに、わたしだけ……のうのうと生きて……」


 今にも泣き出しそうな顔だった。僕は、その目を真っ直ぐに見つめる。


「ノアちゃんは、悪くないよ.....」


「……」


 沈黙が続いた。


 やがて、僕は静かに問いかけた。


「……ノアちゃん。ママに会いたい?」


 彼女は、小さく頷いた。


「……力を貸してくれる?」


 一瞬の間のあと、はっきりと。


「…………うん」


 その手を握り、ゆっくりと階段を上る。今できることを考える。


 今できることを考えて、全力でやる。


 考えて、考えて──結論は一つだった。


 星を見つける。それが、インナーヒットマンとセラさんに辿り着く唯一の鍵。


 やけに1階までの階段が異様に長く感じた。


 一階に着き、壁に背を預ける。そこで、ふと気づく。


 店長から渡されたデバイス。


「……もしかして」


 淡い期待を抱きながら起動すると、画面に星の位置情報が映し出された。


 この扉の、すぐ先。


───星の位置情報がデバイスに載ってるんだったら教えてよ…。


 心の中で毒づきながら、再び面をつける。


「ノアちゃん……」


 彼女が顔を上げる。僕は着ていたコートを脱ぎ、ノアちゃんにかけた。


「行ってくる」


 彼女は黙って頷いた。


 僕は、扉を一気に蹴開け、なかへ突入した。


 長い廊下。無数の兵士。


 全員、防弾ヘルメットとマスク。狙えるのは、目元だけ。


「……ヤバ」


 そう思った瞬間、全身に銃弾が叩き込まれた。


 防弾スーツ越しでも分かる。骨が砕けるような衝撃。


 歯を食いしばり、引き金を引く。


 一人。また一人。


 目元を撃ち抜き、倒していく。


 だが敵の弾丸の一発が僕の喉元をかすった。


 鋭い痛み。血が溢れ、視界が揺らぐ。


 敵は、まだ十数人。


 更に弾丸の一つが面に当たった。衝撃が脳に走り、面に大きなヒビが入った。


 僕は、その場に膝をつく。


 銃声が、遠い。


 それでも、最後の力を振り絞って銃を構えた。


 その瞬間

 

 全員の動きが、止まった。


 僕は、その隙に引き金を引き続ける。


 次々と、全員の目元を撃ち抜く。なのに倒れない。


 兵士たちは、まるで“固定”された人形のように立ち尽くしていた。


 5秒ほど経っただろうか。


 突然、全員が電池切れの機械のように崩れ落ちた。


 廊下は、一瞬で血の海になった。


 ゆっくり後ろを振り向く。


 息を切らしながら、ノアちゃんが立っていた。


 その場に、俺は崩れ落ちた。


「大丈夫?」


 ノアちゃんが駆け寄ってくる。


 僕は、かすれた声で言う。


「ごめん……ノアちゃん。能力、使わせちゃって……」


「……いいのよ」


 僕は、ふらつきながら立ち上がる。


「本当に大丈夫? その……血……」


 喉元から血が滴っていた。


「大丈夫。それより、早くママを探そう」


 朦朧とする意識の中、デバイスを開く。星は、この先の曲がり角。


 足元に転がる兵士の死体。


 ポーチから覗く手榴弾を見つけ、念のため拝借する。


 ポケットに入れたところで、ノアちゃんがコートを差し出した。


「返すわ。歩きにくいもの」


「ありがとう」


 コートを着直し、曲がり角の壁に背を預ける。銃に弾を込める。


 深呼吸。


───星を捕まえる。絶対に。


 僕は、銃を構えた。


そこには────誰も、いなかった。

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