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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第74話 能ある鷹はなんとやら

 白い廊下の奥で、二人の影がぶつかり合った。鳴り響く警報とともに、ドバトは地面を蹴る。


 ラジンは、にやりと笑うと、両腕を広げて横に振る。見えない圧力が空気を歪ませた。


「──ッ!」


 危険を感じたドバトは、瞬時に後方へ跳ぶ。だが、その直後、凄まじい衝撃波が襲い、身体ごと横へ吹き飛ばされた。


 床を滑りながら、どうにか受け身を取って立ち上がる。


(コイツの能力が発動する時、必ず“腕を振る”動作が入ってる……癖か、意図的なフェイントかどっちかな?)


 ドバトは、腰のホルダーからナイフを抜き、無造作に投げた。


 ラジンが軽く腕を払う。次の瞬間、まるで透明な掌に叩き落とされたように、ナイフは床を転がった。


 だがそれこそが、狙いだった。


 ラジンが腕を振った瞬間、ドバトはすでに間合いを詰めていた。銀の閃光が走る。刀身がラジンの肩を斜めに裂き、血が飛び散る。


「くッ!」


 呻きながら、ラジンが再び腕を振る。


 ドバトは、即座に下がった。壁に反射した衝撃波が背後を掠める。


 肩を押さえながら、ラジンがドバトを睨みつける。


「ん〜。早く初くんを助けに行かなきゃだから死んでくれないと困るよ〜」


 とドバトの半笑いの声が響いた。


「はっ、笑わせんなボケ」


 ラジンは、ポケットから小さな球体を取り出し、床に叩きつけた。乾いた音とともに、濃い煙が一帯を包み込む。


(煙幕……逃げる気かな?)


 警戒しつつ耳を澄ませる。だが、足音が聞こえない。


「ッ!」


 次の瞬間、凄まじい衝撃が全身を襲った。透明な拳に殴り飛ばされたように、ドバトは転がる。床を擦りながら、何とか体勢を立て直す。


(……足音がしなかった。消音靴かな?)


 ドバトは、息を整え、目を閉じる。五感のすべてを研ぎ澄ませる。


(気配を……読む)


その頃、ラジンはサーマルゴーグルを装着していた。視界には、熱源として浮かび上がるドバトの輪郭。ゆっくりと間合いを詰めていく。


(これで終いや)


 腕が高く上がる。その瞬間、ドバトの身体が音を立てて動いた。


「ッ!」


 予測不能の突進。ラジンが腕を振るが、遅い。銀閃が走り、ラジンの胸から腹へと斜めに裂かれた。


 鮮血が煙の中に弧を描く。


「……なんで分かったんや」


 ラジンの声が掠れる。


 ドバトは、薄く笑って答えた。


「……感、かな?」


煙が徐々に晴れていく。露わになったラジンの身体は、血に染まっていた。膝をつき、項垂れる。


「もう、アカンわ……」


 ドバトは刀を下げたまま、ゆっくりと近づく。


 ラジンは両手を合わせ、震える声で懇願した。


「頼む……堪忍や。許してくれ……!」


 その言葉を信じたわけではない。だが、ドバトは歩みを止めずに問いかける。


「星はどこにいる?」


 その瞬間。


 合掌した両手。

 

 だが、わずかに中指の隙間が開いている。そこに圧が生まれる。


「さぁな!」


 音もなく、空気が弾けた。凄まじい速度の空気の塊が放たれ、ドバトの胸を貫いた。


「──ッ!」


 血が舞う。ドバトの身体が後方へよろめく。胸に穴が開き、息が漏れた。


 ラジンは、唇を歪めて呟く。


「これで……イーブンやな」


 冷たい廊下に、血の滴る音だけが残った。

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― 新着の感想 ―
>これで……言い分やな イーブンでしょうか?(^^)
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