表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/82

第71話 まるまるノコノコ

「な、何なんだ……お前たち……!」


 研究員は後ずさりながら、怯えた目でこちらを見た。その視線がノアちゃんに移った瞬間、驚くような顔をする。


「な、なんでスペアがこんな所に…!?」


 店長は無言で一歩踏み出し、刀の刃先を研究員の喉元へ滑り込ませた。


「ひッ……!」


 喉がひきつったような悲鳴が漏れる。


「君さ〜。どうして、こんな所にいるの〜?」


 軽い調子とは裏腹に、刃はぴくりとも揺れない。


「……ど、どうしても業務を終わらせたくて……」


 震える視線の先、机の上には起動したままのノートパソコンが置かれていた。未保存のデータが画面にびっしりと並んでいる。


「ふ〜ん」


 店長は、さらに一歩距離を詰めた。


「少し聞きたいことがあるんだけど〜。お話いいかなぁ〜?」


 研究員は涙目になり、何度も頷く。


「は…はい…。」


「まず、“インナーヒットマン”って一体何なの?」


 その言葉に、研究員の肩が跳ねた。


「な、なんで……その名前を……」


「いいから答えて?」


 刃が、わずかに皮膚に触れる。


「……インナーヒットマンは、所長たち研究チームが開発した薬だ。特殊な遺伝子を体内に注射することで、超人的な能力を得られる。適合しなければ……化け物になり、適合すれば……能力を得る」


 星もこの話をしていた。


『この薬で、私は神を作る』


 その言葉が、頭の中で何度も反響する。店長が、言葉を発する。


「ふ〜ん。その“特殊な遺伝子”は、どうやって手に入れてるの?」


「それは───」


ピッピッピッ!


 腰元から、電子音が鳴り響く。店長は片手でデバイスを取り出す。


「どうしたの?何かあった?」


 スピーカーから、切迫した声が漏れた。


『ヤバいっす!B4の奥に───』


 時は、セッカがB4へ向かった直後に遡る。セッカは、B4フロアの分厚い扉の前に立っていた。


「ここッスね!」


 軽く気合を入れ、ノブに手を伸ばした瞬間


バンッ!


 銃弾が扉をかすめる。

 

「む〜。危ないッスね〜」


 セッカは苦笑しながら、入口に袋を置き、そのまま中へ滑り込んだ。


 内部は、無機質で広い空間だった。奥には、ひときわ重厚な鉄の扉が鎮座している。


 敵兵は三名。間隔を空け、すでに銃口をこちらへ向けていた。


 銃声が連続して響く。


 セッカはコートを前に掲げ、弾丸を受け止めながら距離を詰める。防弾素材が、鈍い音を立てて衝撃を吸収した。


バンッ!


 一発が兵士の腹部を貫く。


 兵士が呻く間もなく、セッカは背後に回り込み、その身体を盾代わりに引き寄せた。


 銃撃が一瞬止んだ、


 弾切れになるまで、残る二人に射撃を浴びせる。胸と腹に命中し、兵士たちは次々と床に崩れ落ちた。


 セッカはその場を制圧すると、リロードしながら倒れた兵士たちを見下ろす。


「可哀想なんで、トドメ刺してあげるッス!」


 淡々と告げ、近づいて一人ずつ、頭部に銃弾を撃ち込んだ。


 静寂が戻る。


「はぁ〜……なかなか、銃うまくならないッスね〜」


 ため息を吐き、視線を鉄の扉へ向ける。


 扉の前に立つと、奥から言いようのない禍々しさが滲み出ているのを感じた。


 セッカは、入り口に置いた袋を持ってくる。


「いや〜。これ持ってきて正解ッス。やっぱ、これがないとッスよね」


 取り出したのは、大きな持ち手のついた電動丸ノコだった。


 予備の刃を背中に固定する。


 準備が完了し、鉄の扉のノブを引く。


 が──開かない。


 鍵が必要なようであった。


「ん〜。鍵、持ってるッスかね?」


 兵士の腰を探ると、鍵束が見つかった。


「お!やった〜!」


 鍵を一本ずつ試す。


 カチリ、と手応え。


「じゃあ、行きますッス!」


 鍵を回した瞬間、鉄扉が開く。


 中は、独房が続く廊下。


 解き放たれた実験動物たちが、一斉に呻き声を上げ、セッカへと殺到する。


「わぁ〜。凄いお出迎えッスね〜」


ギィイイイイイィィン!


 電動丸ノコの轟音が、B4フロアに響き渡った。


 セッカは、そのまま駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ