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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第70話 実験室

 やけに明るい廊下がどこまでも続いていた。左右には同じ形の扉が規則正しく並んでいた。


 僕は歩みを止め、少し後ろを振り返った。


「ノアちゃん、もう目を開けていいよ」


 背中からそっと降ろす。ノアちゃんは床に足をつけると、きょろきょろと周囲を見渡した。


「ここは……実験室ね」


「実験室?」


「薬の研究とかをしている場所」


「なるほど……」


 その時、少し離れた場所で店長が振り返り、軽い調子で言う。


「じゃ、手分けして確認してこよ〜」


「了解です」


 右側を店長、左側を僕とノアちゃんが担当することになり、扉を一つずつ開けていく。


 ノアちゃんと一つずつ扉を開いて中を確認する。


 「第2実験室」と書かれたプレートの部屋を覗くと、中はひどい有様だった。机は倒れ、器具は床に散乱し、何かが暴れ回った後のように荒れ果てている。人の気配は微塵もなく、研究員たちが慌てて逃げ出した様子だけがはっきりと残っていた。


 部屋を確認しながら、僕はふとノアちゃんに声をかけた。


「ねえ、ノアちゃん。ママって、どんな人なの?」


「……分からない」


「え?」


「会ったことがないの」


「そうなんだ…」


 扉を開ける音が、やけに大きく廊下に響いた。しばらくして、今度はノアちゃんがこちらを見上げる。


「……逆に聞くけど、ママってどんな人?」


「え……そうだな……」


セラさんのことを思い返す。画面越しに交わした何気ないメッセージ、淡い色の髪、明るい声、やたらとよく食べるところ。


「……君に似てるよ」


「わたしに?」


「うん」


「どんな所が?」


「……寝ている顔とかかな」


「…なにそれ」


そう言って、ノアちゃんは小さく笑った。その笑顔が、不思議なくらいセラさんと重なって見えた。


 四つ目の扉を開ける。やはり中には誰もいない。


 再び廊下に出て歩きながら、僕は胸の奥に引っかかっていた疑問を口にした。


「ねえ、ノアちゃん。聞きたいことがあるんだけど」


「なに?」


「……警備兵とか、ニトラが君のことを“スペア”って呼んでるのは、どうして?」


 一瞬、沈黙が落ちる。


「……分からない。ただ、“ママのスペア”って言われてるのは聞いたことがある」


「セラさんの……?」


「ええ」


 次の扉に手を伸ばした、その瞬間。


ガシャーン!


 何かが一斉に床へ落ちる、けたたましい音が廊下に響いた。僕とノアちゃんは顔を見合わせ、音のした部屋へと駆け込む。


「や……やめてくれ……」


 中では、店長が刀を構え、その切っ先の先に、眼鏡をかけた、髪の毛の乱れた研究員が震えながら立ち尽くしていた。

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