第69話 突入
けたたましい警報音が、響いてきた。耳鳴りがするほどの音の中、僕らは広い踊り場で足を止めた。
スズメさんの面によく似た仮面をつけたセッカさんが、軽い調子で言う。
「じゃあ、俺は、下に行くんで!また会いましょう!」
そう言い残すと、セッカさんは袋を抱えたまま、階段を駆け下りていった。
「じゃあ、行くか〜」
店長の間延びした声に促され、僕らは上の階へ向かった。コンクリートの階段に、僕らの足音だけが重く響く。
背後で、ノアちゃんがほとんど息だけのような声で呟いた。
「……思ったけど、あなたたち、何者?」
その問いは、責めるでもなく、ただ事実を確かめるようだった。僕は店長に聞かれないよう、視線を前に向けたまま、声を落とす。
「……殺し屋」
一拍の沈黙。
「……そう」
それだけ言って、ノアちゃんはそれ以上何も聞かなかった。
B1階
ドアをわずかに開けた瞬間だった。
バンッ!
乾いた銃声と同時に、銃弾がドア脇の壁をえぐる。
店長は即座に身を引き、扉の隙間からナイフを滑り込ませた。刃に映る反射で、敵の配置を探る。
「ん〜。あんまり見えないなぁ〜」
店長は、こちらを向く。
「初くん、援護よろしくね〜」
「了解です」
僕は懐から銃を抜いた。
「あとノアちゃん。いいって言うまでお目々つぶっててね〜」
ノアちゃんは何も言わず、素直に目を閉じた。
店長は腰の鞘から刀を抜く。久しぶりに見る、あの奇抜な色の刀身が、警報灯を反射して不気味に光った。
「じゃ、行くよ〜」
そう言って、店長は迷いなく部屋へ踏み込んだ。
僕は扉の隙間から顔を出した。
そこはロビーのような広い空間で、細長いソファーが整然と並んでいる。
警備兵がまばらに配置され、右手には自動販売機がずらりと並んでいた。
その奥にはトイレ、さらに奥は曲がり角になっていて、そこからも数人の兵士が顔を出している。数は、9人か10人。
警備兵たちの銃口が、一斉に店長へ向けられる。
僕は銃口を構えた。不思議なことに、敵の動きがやけに遅く見えた。
バンッ!バンッ!バンッ!
銃声が交錯する。
僕の放った弾丸が、三人の兵士の顔面を正確に貫いた。
一方で店長は、雨のように飛び交う弾丸を紙一重でかわしながら、兵士の顔面を縦一文字に切り裂く。
斬られた兵士は、電源を切られた機械のように、力なく崩れ落ちた。店長はその兵士の腹部に刀を突き刺し、そのまま押し出すように盾代わりにして、奥の兵士へと距離を詰めた。
「ッ!!」
驚く兵士たち。だが、店長は止まらない。盾にしていた兵士を横一文字に斬り捨て、その勢いのまま、一人、二人、三人と切り伏せていく。
「この!」
ナイフを振り上げた兵士が飛び出す。
バンッ!
僕の銃弾が、その腕を正確に撃ち抜いた。次の瞬間、店長の袈裟斬りが走る。
残り四人。
店長の近くに二人、奥に二人。一人の兵士が、僕に銃口を向けた。
同時に、別の兵士が店長を狙う。
迷いはなかった。
僕は、店長を狙っている方へ銃口を合わせる。
バンッ!
一人が倒れた。だが、こちらを狙う兵士は、すでに引き金に指をかけている。
───間に合わない。
その瞬間。
シュッ!
店長の手元から放たれたナイフが、一直線に飛び、兵士の頭に突き刺さった。
店長はそのまま、残った二人を一息で切り落とす。
血の海と化したロビー。返り血を浴びた店長は、深く息を吐いた。
「ふぅ〜」
刀を鞘に納め、こちらを振り向く。
「入ってきていいよ〜」
僕はノアちゃんに声をかけた。
「まだ目、つぶっててね。おんぶするから」
「分かった」
ノアちゃんを背中に乗せ、部屋に入る。
鉄の臭いが、肺の奥まで染み込んできた。死体を踏まないよう、慎重に足を運ぶ。
店長が周囲を確認する。
「いいよ〜」
僕らは曲がり角を曲がった。
下の階と同じ構造──ガラス戸があり、近づくと自動で開く。
中にはエレベーター、左手には、またガラス戸。
だが、左手のガラス戸は、近づいても反応しなかった。
横には黒い箱のような装置。四角いカード型の線が刻まれている。
どうやら認証カードが必要なようだった。
「ん〜。どうしよっか」
店長は軽くガラス戸を叩いた。
「強化ガラスっぽいね〜」
そう言って、再び刀を抜く。
「え? 何をするんですか?」
店長は刀の先端をガラスに当て、にやりと笑った。
「聞いたことない〜?」
大きく腕を振りかぶり、
「強化ガラスは、全面からの圧力には強いけど、一点に力が集中すると簡単に割れるって」
柄頭を思い切り叩きつけた。
ピシッ……パキィン!
亀裂が走り、ガラスは重力に従って崩れ落ちる。
「す、凄いですね……」
「でしょ〜」
店長は何事もなかったように、先へ進んでいった。
───めちゃくちゃだ……。




