第68話 爆弾
ニトラが銃を構え引き金を引いた。
バンッ、バンッ!
スズメは滑るように身を翻し、弾丸を紙一重で回避する。
そのまま手首を返してナイフを投げ放った──が、
刃はニトラの目前で灰のように崩れ消え、柄だけが虚しく回転して床に転がった。次の瞬間、逆にニトラの銃撃が襲いかかる。スズメは壁を蹴って、それらをなんとか避け切った。
「ったく!めんどくさい能力だわね!」
二人は睨み合う。
「スペアも話してましたけど……僕の能力はね、鉄を“塵”に変えるんですよ」
ニトラは淡々と言いながら、懐へと手を入れた。スズメの背筋に嫌な予感が走り、無意識に後退する。
ニトラの手から現れたのは──黒い球体。
「……爆弾!?」
ニトラはそれを軽く放り投げた。スズメも同時にナイフを投げる。
ボンッ!!
爆弾が空中で破裂した。しかし──問題はそこからだった。
「ッ!?」
爆煙を裂いて飛び出したのは、無数の弾丸。
散弾のように四方へ広がり、とんでもない速度でスズメへ向かった。
防弾のコートもスーツも意味をなさない。銃弾は彼女の体を容赦なく貫き、赤い飛沫が散った。
「ぐ……っ……!」
スズメはその場に膝をつく。呼吸が乱れ、視界が揺らぐ。
「こういう能力の使い方もできるんですよねぇ」
ニトラだけは傷一つない。飛んでくる弾丸をすべて能力で塵に変えていたからだ。
彼女は床を転がり、被っていた面がカラカラと転がっていく。血に濡れたスズメの顔を、ニトラは覗き込んだ。
「ああ……こんなに可愛い顔なのに。台無しですね。僕、女性を痛めつける趣味はないんですけど?」
スズメは苦痛に歪んだ表情のまま、しかし鋭く睨みつけた。
「……キモ」
彼女は震える手でナイフを投げた。だが刃はまた塵となり、柄だけが軽く弾かれるように飛んだだけだった。
ニトラは面倒そうにそれを避けると、ゆっくりと銃を構える。
「残念ですけど──これで最後ですね」
乾いた音とともに、引き金を引いた。




