第67話 逃げるよ〜
ニトラの指がゆっくりと引き金を絞った。
バンッ!
反射的に、僕と店長は左右へ転がり込む。弾丸がさっきまで僕らの胸があった空間を貫いた。
すぐさまこちらも応射する。しかし放たれた弾丸は、彼へ届く前にふっと掻き消えるように消滅した。
───これがニトラの能力…。
ニトラは迷いなく再び銃口をこちらに向ける。
その瞬間、
シュッ。
鋭い音とともに、横からナイフが飛んだ。
だが刃は空中で灰のように崩れ落ち、柄だけがくるくると回転しながら飛んでいく。
ニトラはそれを首を傾けるだけで避けた。
「ぞろぞろと……」
苛立ちを隠さない声。
その後ろから、ノアちゃんがそっと顔を出した。
ニトラの表情がわずかに揺れる。
「……何故、スペアがここにいる」
「……ママに会うためよ」
ノアちゃんの小さな声に、ニトラは深くため息を吐いた。
「まったく……」
銃を構え直す。
「逃げるよ〜」
店長の声と同時に、僕らは階段へ向かって駆け出した。
「逃がすか!」
鋭い気配。
振り返る間もなく、再び空気を裂く音。
シュッ!
刃を失ったナイフの取っ手がニトラの顔めがけて飛ぶ。
ニトラは眉一つ動かさず、軽く後ろへ体重移動して避けた。
「スズメさん!」
そこにニトラの進路を塞ぐように、スズメさんが立っていた。
「行って」
「……お願いします」
「ええ」
短い会話のあと、僕らは階段へ向かい再び全速力で走る。
走りながら、ノアちゃんがスズメさんへ叫んだ。
「そいつの能力は、金属を酸化させるの!アイツは武器を使えるから……気をつけて!」
「……分かったわ」
階段へ消える僕らの背中を見送り、スズメは一人、ニトラと向き合う。
ニトラは頭をかきながら、ポケットからゴーグルを取り出して装着した。
「はぁ……女を痛めつける趣味はないんですけどね」
「あっそ」
スズメは床を蹴り一直線にニトラへ向かって走り出す。




