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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第62話 発信機

 店長は、僕の腕を縛っていた革ベルトを手際よく外してくれた。自由になった途端、堰を切ったように体が震える。


「うわ~ん店長ぉぉ!」


 気づけば泣きついていた。

 

 店長は半笑いのまま、僕の頭を軽くポンポン叩く。


「初くん、大丈夫〜?」


 その声を聞くだけで、涙がさらに滲んだ。


「ど、どうしてここにいるんですかぁ〜」


 ぐしゃぐしゃの声で尋ねると、店長はいつもの調子で笑った。


「薬の回収だよ〜」


「でも…どうしてここが?」


 店長は、さらににこっと笑った。


「君、仕事行く前に僕が渡したキャラメル食べたでしょ?」


「はい」


 六田を捕まえる前、車の中で店長にもらったキャラメル。やけに固くて、噛み砕けず飲み込んだのを覚えている。


「あれにね〜?発信器が入ってたんだよ〜」


「ッ!」


「それで、ここが分かったんだよぉ〜」


 まさかキャラメルに発信器……確かに硬さはおかしいと思ったけど…。


「…じゃあ、イカルさんに見つかったのって…」


「いんや。それは、面についてる別の発信器」


「…」


 自分に二つも発信器がついていた事実に、言葉が出なかった。


「店長…僕って殺されるんですか?」


 恐る恐る問うと、店長は変わらない笑みで即答した。


「いいや?君は、殺されないよ。どんな形であれ、君のおかげで薬を作っている場所が特定できたからね〜」


 全身から力が抜けた。どうやら、少なくとも『トリカゴ』には殺されずに済むらしい。


「じゃあ、君を回収する係が上の階にいるから行こう」


「…店長は、この後どうするんですか?」


「ん〜。僕は、薬を回収しに行くよ〜?」


 その言葉を聞いた瞬間、頭に浮かんだのは──セラさんの顔だった。


「僕も行かせてください」


 店長は、半笑いのまま、少しだけ目を細めた。


「んー。まぁ、良いけど……次は失敗しないでねぇ〜?」


「はい。」


 白い部屋を出て、ボタンが並ぶ操作室に戻る。床には研究者と警備兵が倒れ伏していた。


「死んでるんですか?」


「いいや。眠ってもらってるだけ〜。早く着替えな〜?」


 促され、僕は倒れている警備兵の服を剥ぎ取って着替えた。少し小さいけれど、文句を言っている暇はない。


 その横で店長は、眠っている男たちをロープで丁寧に縛り上げ、まるで荷物でも積むかのように整列させていた。


「よし!じゃあ行くかぁ〜」


 扉へ向かう店長の背中を見て、僕は思わず呼び止めた。


「店長!」


「ん?」


 振り返った店長は、いつもの軽い表情だった。


「ありがとうございます…。“2回”も助けて頂いて…」


 言い終えると、胸がじんと熱くなる。


「……何のこと〜?」


 からかうように言いながら、さっさと歩き出す。


 僕たちは第2研究室を後にした。

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