表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/82

第60話 実験動物

「起きろ」


 鉄格子を叩く硬い音が、眠りの底から意識を引きずり上げた。まぶたを開くと、廊下の向こうに警備兵が立っている。


「飯だ」


 ぶっきらぼうな声とともに、鉄格子の横長の小窓の鍵が外される。金属音が乾いた壁に反響した。

 兵士は中へプレートを押し込み、


「三十分後にまた来る。食べ終えていろ」


 短く告げると、鍵を掛け直し、足早に去っていった。僕は思わずトレーに駆け寄った。


 金属皿の中央に、灰色の塊がひとつ。かすかに湯気らしきものが立っているが、匂いはまるでない。世に言う “ディストピア飯” というやつだ。


 床に腰を下ろし、ベッドの縁にトレーを置く。スプーンを取ると、金属が触れ合う乾いた音が部屋に響いた。


 すくい上げたそれは、つぶした紙粘土を思わせる柔らかさだった。一口、口に運ぶ。


 噛むまでもなく崩れ、舌の上に淡々と広がる。味と呼べるものがない。普通に美味しくなかった。


───……『りうか』の料理が恋しい。


 それでもスプーンの手を止めることはしなかった。ただ黙って、機械のように飲み込んでいく。


 食べ終えたプレートを扉の前に置き、ふと腹の奥に重たい感覚を覚えた。トイレに行きたくなった。


 振り向けば、部屋の隅にポツンと便器。仕切りもない。天井の防犯カメラがいやに存在感を放っている。鉄格子越しに廊下から丸見えなのも気分が悪い。


 はぁ~と ため息をひとつつき、便器に腰を下ろす。頭上の棚には、ご丁寧にトイレットペーパーが一本だけ、ぽつんと置かれていた。


 用を済ませ、洗面台で手を洗い、再びベッドに横になった。


───昨夜の言葉が、脳裏に浮かぶ。


[「……一緒に逃げちゃいましょうか?」]


 セラさんの声が、まるで部屋のどこかに残っているようだった。


───セラさんもここから逃げたいと思っているのか…?


 そんなことばかりを考えていた。


 ここでは、囚人のように作業が課せられるわけではない。ただ、白く無機質で、何もない箱の中で、時間が溶けていくだけだ。


 ガギィィ……!


 突然、鉄格子の開く音が響き渡った。胸が跳ねる。


 どうやら、どこか別の独房が開けられたらしい。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 喉を裂くような叫びが廊下にこだました。


 思わず身体が固まる。


 ロン毛の男の言葉が蘇る。


[「お前なんぞ、そこら辺で拾ってきた動物みたいなもんや」]


 本当にその通りなのだろう。


 僕はただ、実験にかけられる順番を待つだけの、名もない実験動物にすぎないのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
りうかの人達とこのまま敵対とも思えないし 先が気になり過ぎる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ