第5話 拷問
「おい、起きろ!」
──乾いた音が頬に走った。
皮膚の下で、何かが軋むような痛みが弾けた。意識が、暗闇の底から泡のように浮かび上がる。目隠しをされ、何も見えなかった。
目隠しの布の内側に、呼吸の熱がこもる。手首には縄。汗で湿り、指先が痺れてる。
「………」
喉がひりつく。恐怖で声が出ない。全身が冷たく震えていた。ここはどこなのだろう?何故、こんな事になっているのだろう?
「目隠しとって」
「へい」
布が外れると、視界がぼやけて、滲む光が工場のような空間を照らした。
剥き出しの鉄骨、油の匂い。
裸電球の小さな光が揺れていた。
目の前には、あのメガネの男が椅子に座っていた。
「やぁ、また会ったね。こんばんは」
声は妙に柔らかかった。
「………」
ドンッ!
膝に衝撃が走った。足先までしびれ、痛みが骨の形をなぞる。
「『こんばんは』って言われたら、『こんばんは』って返すのが礼儀だろ?」
「こん……ばんは」
泣き出しそうな声。その声を、男の笑みが飲み込む。
──バキッ!
顔を殴られ、鉄の味が口内に広がった。
「君、名前は?」
「……あ、初です……」
「初くんって言うのか!いい名前だねぇ!」
男は、まるで友人の話でもしているような声だった
「あ………の、ここは、どこですか?あなた達なんなんですか?」
男は小首をかしげて笑う。
「んー?ここ?ここは、ねぇー。森の中にある廃工場だよぉー」
「は…廃工場?」
「そ!ここだと、どんなに叫ばれても人が来ないからさぁ…重宝してるんだよねぇー。」
男は、立ち上がり、ポケットから何かを折りだす。男の拳に、銀色の金具が光った
──メリケンサック。
棘のような突起が、蛍光の白に鈍く光る。
「や……やめ──」
ゴッ。
空気が震えた。頬を突き抜ける痛み。男は、ゆっくりと僕の周りを歩き出す。
「いやー。悪いんだけどぉ。君に“仕事”してとこを見られちゃったからさぁ、君の事、処分しなきゃいけなくなっちゃった!」
呼吸が薄くなる。耳の奥で何かがざわつく。
男は、僕の後ろで立ち止まる。
「……。よし!次は爪だ!」と言い、聞こえてきたのは、
──カチッ、カチッ。という金属の音。背後で、ペンチの歯が噛み合う音が聞こえた。
「や、やめ────」
ベリッ!
音が耳の奥に響いた。
鋭い痛みが指先から脳天まで駆け抜け、息をするのも忘れる。目の前がチカチカと明滅し、胃の奥が反
転するような感覚に襲われた。喉の奥で何かが引っかかる。叫び声にならない悲鳴が漏れた。露出した皮膚が空気に触れ、焼けるように熱い。
「次は、どの指にして欲しい?」
「な……んで……こ……こん……な事を………。」
問いは祈りのように小さかった
「んー?趣味ぃ」




