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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第57話 インナーヒットマン

「ラジン、あっちに行ってなさい」


 科学者が軽く手を振ると、ロン毛の男は、短く一礼した。


「失礼します」


 足音を残して、彼は廊下の奥へと消えていった。白い部屋に残されたのは、僕と科学者の二人だけ。

科学者は、口を開いた。


「この研究所ではね、人間を“進化”させる研究をしているんだ」


「……人を、進化させる?」


「そうだとも」


 星文雄は嬉しそうに頷いた。


「猿は進化して人間となり、生物の頂点に立った。では──人間がさらに進化したら?」


 僕は答えられなかった。その先にあるものが、なんとなく嫌な形で想像できたからだ。


「神になるんだよ!」


 突如として声が弾けた。笑ってもいないのに、目だけがぎらついている。圧に押され、思わず息が詰まった。


 星はそのまま続けた。


「その研究の過程で生まれたのが……君が探している薬だ。あれは、人を“進化”させる薬なのだよ」


 進化──身体が鋼鉄のように硬化した男。鉄を塵に変えた怪力の男。脳裏に、これまで戦った能力者たちの姿が次々と浮かぶ。


──あいつらは……薬で生まれた進化の産物だったってことか。


 「しかしね、この薬には欠点がある」


 星の声色がわずかに落ちる。


「適合しないと、理性のない化け物になる。……君も見たことがあるだろう?」


 銃を浴びても再生する、あの異形。怒りと殺意だけを燃料に暴走する怪物。背中が冷たくなった。


「薬の効果で感情が増幅するんだ。もっとも強い感情──“怒り”にね。どれほど優しい男であっても、一

度化け物になれば誰彼構わず攻撃する」


 六田組の本部で見た光景。怒り狂った化け物たちが、互いに殺意のままぶつかり合っていた。

星は、淡々と、むしろ喜々として言う。


「どんな人間でも心に怒り……いや、“殺意”を抱えている。普段は隠しているだけで、誰もが内側に……殺し屋を飼っているのだよ」


「……」


「だからこそ、僕はあの薬に名前をつけた」


「名前……?」


 星は、まるで自分の作品を紹介するかのように胸を張った。


「そう。“インナーヒットマン”とね。」


「……」


──だせぇ…。


 心の中で盛大に突っ込むしかなかった。


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― 新着の感想 ―
今回は途中までカギカッコ前に句読点無し 最後の最後で句読点有りですね。(^^)
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