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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第56話 科学者

 僕は男に腕を差し出した。


「……お前ら、僕に薬を注射したのか?」


 ロン毛の男は鼻で笑った。


「いや、してへんよ。ただの検査や」


「検査?」


「ああ。お前が変な病気持っとらへんかの検査や」


「失礼な」


 口を尖らせて言うと、男は急に視線を鋭くした。


「……そんなことよりもや」


ガシャッ!


 鉄格子の棒が大きく揺れ、乾いた金属音が部屋に響いた。ロン毛の男が格子に両手をかけ、こちらへ身を乗り出していた。


「お前…セラさんに気に入られたから言うて調子に乗んなや?」


「……。」


 怒気が、空気を刺すように広がる。鉄格子越しでも、肌がひりつくほどの殺気だった。


「お前なんぞ、そこら辺で拾ってきた動物みたいなもんや。変なことしたら──殺したる」


 低く、濁った声。その言葉には冗談も脅しもなく、事実だけがあった。


──やばい所に連れて来られたな……。


 行く先々、どうしてこうもヤバい組織にぶつかるんだろう。呪われてるのか?敵意を刺激しないよう、できる限り弱々しい声音で尋ねる。


「あの……ここってどこなんですか…?」


 ロン毛の男は露骨に舌打ちした。


「ここは研究所や」


「……何の研究所ですか?」


「それは───」


 男が口を開きかけた、その瞬間。


「薬の研究所だよ」


 第三者の声が、すぐ横から静かに割り込んだ。


 ロン毛の男がさっと横に避ける。代わりに姿を現したのは、白衣をまとった初老の男だった。


 白髪が目立ち、細く鋭い目つき。笑っていないのに、口元だけが上がっているように見える──キツネのような印象を与える男。


 科学者という肩書きがこれほど似合う人間もいないだろう。


 だが、なぜか。


 その男の空気が、ひどく気に食わなかった。


「君が初くんだね?」


「……あなたは?」


 初老の科学者は、わずかに口元を緩めた。


「僕がこの研究所の持ち主、星文雄(ほしふみお)だ。セラが世話になったようだね」


 穏やかに名乗る声とは裏腹に、瞳の奥は氷のように冷たかった。

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>「ここは研究所や」 >「薬の研究所だよ」 >「僕がこの研究所の持ち主、星文雄ほしふみおだ。セラが世話になったようだね」 これまでずっと。」 このようにカギカッコの前に句読点がありましたが ここにき…
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