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インナーヒットマン  作者: 太田
第4章 化け物と雛

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第51話 勝機

 弾丸は、一直線にオールバックの男の額へ飛び、確かに命中した。


 だが。


キンッ!


 甲高い金属音を残して、弾丸は弾かれた。


「……ッ!?」


 額には米粒ほどの穴が開き、うっすら血がにじんでいる。男は、かゆみでも覚えたようにその額を指で掻き、にやりと笑った。


「効かねぇ〜なぁ〜!」


 次の瞬間、男は素手のまま猛然と駆け出した。


 僕は反射的に引き金を引く。


 肩、胸、腹、脚──撃ち込んだ場所すべてで金属音が響き、弾丸は宙へ跳ね飛ぶ。後ろで観戦している男たちは腹を抱えて笑っていた。


───銃が効かない奴、多すぎじゃなねッ?


 銃は無意味だと悟り、僕は即座にナイフへ持ち替える。迫り来る男の胸元へ突き立てる。


 だが


「……ッ!」


 刃が、入らない。皮膚の奥に鋼鉄を仕込んでいるかのような、異常な硬度だった。


ゴンッ!


 衝撃が世界を白く染める。殴られた。鉄パイプで殴打されたような衝撃だ。視界が揺れ、膝が勝手に折れた。


「いいぞ、石下ぁ!」


「そんな雑魚叩き潰せ!」


 怒号が飛び交う中、拳が何度も振り下ろされる。


ゴンッ! ガツッ! ドゴッ!


 顔、腹、脚、また顔。息が漏れ、呼吸が乱れ、地面へ崩れ落ちる。


「オラァ!」


ガンッ!!


 蹴りが顔面をとらえ、体が転がる。鼻が潰れたような痛み。血が滴り落ち、視界は地震のように揺れていた。


───コイツの能力は、骨が鉄みたいに硬くなるとかそういうのだ。銃もナイフも効かない…。どうすれば…。


ジャリ……ジャリ……

 

 足音が、近づく。


 終わりが、歩いてくるようだった。僕は、その場でうずくまる。


 そのとき、自分のズボンのポケットから何かが目に入った。


───……ネクタイ?


 仕事に行くとき自分で結べず、とりあえず突っ込んでいたやつだ。


 「まだやるかぁ?」


 男が僕を蹴り上げようと足を振りかぶった、その瞬間。僕は横へ転がり、蹴りを回避する。次の呼吸とともに立ち上がり、勢いのまま男の脚にネクタイを巻きつけ──


 上へ引き絞る!


「ッ!?」


 バランスを崩した男の体が、そのまま地面へ叩きつけられた。


「コノヤロ──」


 倒れた男の首へ、僕はネクタイを巻きつける。背中合わせになる体勢で、そのまま全力で引き絞った。


ギリッ……ギリッ……


 布が喉を締め付ける残酷な音が響く。


 男は暴れ狂い、肘を僕の背中へ打ち付ける。衝撃が内臓に染みる。それでも力は緩めない。腕の筋肉が

悲鳴を上げても、絞める。もっと絞める。


「かッ…!」


 苦しそうな声が聞こえた。男は自分の喉へ両手を伸ばし、ネクタイを引きちぎろうとする。とんでもない力だ。


「う……おおおおおおッ!!」


 全身を振り絞る。


 ふっと、重さが消えた。


 後ろを向くと、男の腕がだらんとしているのが見えた。僕はネクタイを手放し、その場に崩れ落ちた。


「はぁ……っ、はぁ……っ……」


 喉が焼けつくようだ。全身が震えている。だが僕は、この死闘に勝った。

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