第50話 指名
「お前の部下と戦う?」
六田は、楽しげな声で言った。
「うん!そこにいる奴ら!」
彼が親指で後ろを指すと、廊下の奥に腕を組んだ男たちがずらりと並んでいた。どいつも目が据わり、獲物を待つ猛獣のような気配を漂わせている。
「……何のために?」
「いやー。薬のデータを集めてきて欲しくてさぁー」
六田は子供のように頬を緩め、説明を始める。
「この薬はねぇ、投与して“適合”すれば──超人的な力が手に入るんだぁ。例えば、そこのニトラくんみたいにね?」
影の薄い男と目が合う。
「で、そこにいる彼らは、薬に適合した優秀な“部下”たち。君が彼らと戦ってくれるとねぇ、そのデータがとっても役に立つんだぁー」
六田が指をさす。
「んー、じゃあ……石下ぁー」
「ハイッ!」
前に出てきたのは、ガラの悪いオールバックの男だった。口角には嘲りが貼りつき、目は獲物を前にした肉食獣のようにギラついている。
僕はゆっくりと立ち上がり、床に転がっていた銃を拾い上げた。
六田が笑う。
「あー、僕に銃撃たないでよー? まぁ、ニトラくんいるから無駄だけど?」
ニトラは無言のまま腕を組み、こちらを射抜くような視線を向けてくる。
オールバックの男と僕は向かい合った。
六田の後ろの男たちは、観客席のように好き放題言い合って笑っていた。
「石下、勝てよ!」
「そんな雑魚に負けたら笑いもんだぞ!」
影の薄い青年は、ポケットからビデオカメラを取り出し、こちらへ向ける。収集する“データ”とは、つまりこれか。
オールバックの男は鼻で笑い、僕を睨み据える。
「お前ぇ……六田の兄貴に迷惑なんだよ。早く死んでくれねぇかなぁ?」
「……知るかよ」
僕は銃を構えた。
ピュッ!
乾いた発砲音が庭に響き、戦いが幕を開けた。
薬の情報を奪うための、避けられない闘いが。




