第49話 お願い
「おまえ、誰やねん?」
パーカー姿の男が、うつぶせに倒れた僕の前に立ち塞がっていた。
男の視線が、床に転がったオナガの面へと落ちた。
「その面……『トリカゴ』の人間か?」
「……」
「答えろや!」
怒鳴り声と同時に、見えもせぬ衝撃が身体を貫いた。内臓がまとめて握り潰されるような痛み。肺の空気が一気に押し出され、呼吸が奪われる。
「カハッ……!」
視界が白黒に点滅し、意識が遠のきかけたそのとき。
「おやおやー。見た顔がいるねぇー?」
耳の端で、声がした。顔を上げると、襖の奥から六田と、影の薄い青年が部下を引き連れて歩いてきた。
「六田ぁ!」
「黙れや!」
ドガッ!
ロン毛の男の蹴りがとぶ。口の中が一瞬で鉄の味で満たされた。
それでも僕は六田を睨みつける。
六田は肩をすくめ、呆れたように笑った。
「初くん……君は、何が目的なのかなぁ?」
「……薬の情報を教えろ」
六田のことなどどうでもいい。僕が求めているのはただひとつ──薬、その正体だ。
だが、六田はその言葉を聞くなり、頬が引きつるほどの満面の笑みを浮かべた。
「ははぁー!君、あの薬のこと知りたいんだぁ?まぁ、君っていうか──『トリカゴ』が、だろうけどね?」
「ッ……!」
六田は僕の目の前にしゃがみこみ、覗き込むように顔を寄せた。その瞳は、爬虫類のように冷たく光る。
「じゃあさ、薬の情報を教えるかわりに……お願い聞いてよ?」
「……お願い?」
「うん!」
六田は、心の底から楽しそうに、まるでゲームのルールを説明する子供のように言った。
「僕の部下と──戦ってほしい!」




