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インナーヒットマン  作者: 太田
第1章 外と雛

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第4話 目撃

 セラさんと別れた後、僕は家電量販店へと足を向けた。


 もともとの目的は、壊れた電子機器を買い直すこと。


 外は少しずつ暗くなり、空がオレンジ色に滲み始めていた。


 幸い、店まではすぐだった。


 店内は暖房のぬるい風が流れこんできた。


 3階が電子機器コーナーらしい。エレベーターに乗り、淡々と買い物を済ませる。


 店を出ると、空はもう夜だった。外へ出ると、空は完全に暗くなっていた。


──そういえば、この近くに同人誌が売ってる店があったな。


 何の気まぐれか、僕は地図アプリを開いた。


──久しぶりに遠出したんだし寄ってみようかな。


 ナビを頼りに歩くと、無機質な灰色のビルが現れた。


 ビルの5階の窓に、目的の店の看板が見える。


 エレベーターに乗り込む。

 

 5階のボタンを押す。少しの浮遊感。


ピンポーンッ


 ナビを頼りに歩くと、無機質な灰色のビルが現れた。


 ドアが開く。真っ暗だった。

 

 心拍数が、上がる。


 何故か、照明が一つもついていない。反射的にスマホのライトを点ける。


 あたりを照らしながら、エレベーターの外に出る。上下に続く階段、閉ざされたシャッター。張り紙があった。


『〇〇店 〇〇へ移転しました!』


──移転?じゃあここはもう──


 そのとき、鼻を刺すような臭いがした。鉄と腐敗が混じったような、生温い匂い。嫌な予感が背筋を走る。


 しかし、好奇心により、僕は、上へと向かった。


ギシ……ギシ……


 折り返し階段を上がる。「6」の数字が見えたころ、匂いはさらに濃くなった。ゆっくりと、ゆっくりと、6階の床を照らす。




 次の瞬間、視界に赤が飛び込んだ。血だらけで人が倒れていたのだ。

 息が止まる。喉が凍る。


「あー、見ちゃったかぁ」


 奥のほうで奥から声がした。倒れた人の奥。


 そこには、眼鏡をかけた男が立っていた。男は、一見仕事が出来そうな社会人といった印象だった。だが、血まみれのナイフを握っていた。


 理解が追いつく前に、体が勝手に動いた。


 階段を転げ落ちる。視界がぶれる。


 瞬間、光が僕を包んだ。


「だいじょおぶぅ?」


 男がスマホをこちらに向けていた。


──撮られた!?


 反射的に、買ったばかりのキーボードの袋を投げつけた。


「おっと」

 

 男が避けた隙に、全力で逃げる。転ぶように、落ちるように、全力で僕は、階段を降りた。


「また後でねぇー」

 

 男が大きな声でそう叫んだ。気づけば、入り口まで降りていた。しかし、このビルから離れるためにまた急いで走り出す。

 

 全身が総毛立つ。冷たい汗が背中を伝う。


 体力がきれ、息を整えるために一度立ち止まる。


───あの時、あの男は、僕にむけてスマホを向けていたということは、顔の写真を撮られたってことか…。


───どうやって家に帰ろう…。


 そんな事を考えていると、後ろから


「見つけたぞ……!!!」


 背後から怒号。振り返ると、筋肉の塊のような男が突進してくる。巨体なのに、異常なスピード。

ダンプカーのようだ。足が勝手に動く。全速力で走る。路地を右へ、左へ。息が焼ける。心臓が破裂しそうだ。でも、止まったら終わる──そんな確信だけが、僕を走らせていた。細い路地に飛び込む。


「待ちやがれッ!!」


 遠くで怒鳴り声がする。とにかく走るしかない。右へ、左へ、無我夢中で走り続ける。自分がどこを走っているのかも分からない。


 ふと、後ろの怒号が消えていることに気づいた。


 足を止めた途端、全身を襲う疲労。荒い呼吸が肺に負担をかけ、激しくむせ込む。急に空気を肺に入り、むせ込む。


──助かった?


 そう思った瞬間。


ゴッ


 後頭部に鈍い衝撃。視界がぐにゃりと歪む。地面が近づく。耳鳴り。血の匂い。温かいものが額を伝う。世界が、暗く沈んでいった。


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