第47話 侵入
男に教えてもらった場所へ向かう。拍子抜けするほど近い場所だった。
別れ際、口外するなと脅した途端、男が涙目で「了解です…!!」と叫んでいたことを思い出し、少しだけ胸が重くなる。
歩き続けると、視界の先に巨大な塀が現れた。高くそびえる屋根付きの塀。
───ここが吉田組の本部…。
男の話では、今日は組の大きな集会が開かれているという。侵入してどうなるかは、分からない。だが、『トリカゴ』に頼れない今、六田の居場所を掴む手段はここしかなかった。
塀の外周を歩き始める。足元の砂利が、乾いた音を立てる。それがやけに大きく響くほど、周囲は静まり返っていた。
塀の向こうからは、人の気配がほとんどしない。ただ、ときおり風に運ばれる線香のような香りが、微かに漂ってくる。それが不気味に感じた。
しばらく歩くと、堀の横に黒い車が一台、ぽつんと停められていた。
───……これ、踏み台にできるかもしれない。
周囲を確認し、車内にも誰もいないことを確かめると、僕はボンネットに足をかけ、車の屋根へと乗った。
そこから塀の屋根に手を伸ばすが──手が滑った。
瓦が驚くほどつるつるしていて、指先がまったく引っ掛からない。
「……。」
僕は何かないかと紙袋を開け、中を覗く。
───あ。
黒い手袋が目に留まった。
装着して再び瓦に手をかけると、今度は指先が吸い付くようにしっかりと止まった。
そこから腕に力を込め、なんとか屋根へよじ登る。全身の筋肉が悲鳴を上げる。
そして、塀の上から内部を見下ろした。
広大な庭が広がっていた。敷き詰められた砂利が、白く月光を弾いている。
僕は紙袋から面を取り出す。オナガの面を被り、ゆっくりと息を吸う。ナイフと銃を取り出し、紙袋は
折りたたんでズボンの後ろポケットに押し込む。
───組長から六田の情報を聞き出すッ!
覚悟を胸に、瓦の端をつかみ、静かに庭へと降り立った。




