第46話 尾行
紙袋を片手に、街の中心を歩く。
夜になれば風俗やキャバクラ、居酒屋が光り輝くこの一帯も、昼間は雰囲気がまるで違う。
スーツ姿のサラリーマンや買い物帰りの主婦、学生らしき若者たちが入り混じり、どこもかしこもごく普通の街の顔をしていた。
───とりあえず…ヤクザっぽい奴を探そう…。
だが、肝心の「ヤクザっぽい」基準が曖昧だ。
───スーツ着てて…ガラ悪くて…舎弟とか連れてて…。
完全にゲームの知識。現実にそんな分かりやすいやつがいるわけ──
黒いスーツの強面の男が、こちらへ歩いてきた。一般人が思わず道を空けてしまうほどの圧。歩幅ひとつ取っても、素人ではない空気が漂っている。
───いた〜!!!
反射的に路地裏へ逃げ込む。黒スーツの男がすぐ目の前を通り過ぎていく。
僕はその中の一人を選び、こっそり後をつけ始めた。壁に隠れ、看板の影に身を寄せ、距離を置いて男の動きを追う。
男は街中をあちこち巡り、やがて一軒の店に入っていった。
『星屑のアンティーク』
看板にでかでかとそう書かれている。
───名前ダサっ。
入り口付近にはキャバクラ嬢と思しき女性たちの写真。どう見てもキャバクラだ。
僕は店入口の見える路地に身を潜め、男が出てくるのを待った。
数十分後。
封筒を手にした男が店から出てきた。その封筒を内ポケットにしまい、また歩き出す。
次の店、また次の店。キャバクラ、風俗、居酒屋……男は町中を徘徊するように巡回していった。
気づけば、外はすっかり暗い。やがて男は、人けのない路地に入っていく。
───ッ! いまだ!
僕も影のように後を追い、路地裏へ足を踏み入れた。
その瞬間。
男は、ナイフを構えてこちらを向いていた。
「お前、俺をつけて何の用だ?」
「……」
───めちゃくちゃバレてた…。
「答えないなら殺すぞ?」
男がじりじりと距離を詰めてくる。
「…お前は、吉田組の組員か?」
「あぁ、そうだが?」
「…そうか…」
僕は紙袋から銃を取り出す。
銃口には、筒状のサプレッサーが装着されていた。
「…なんだそれおもちゃか?」
「……お前らの本部はどこだ?」
その言葉に、男の目つきが鋭く変わった。
「言うわけねぇだろ!」
ナイフの切っ先がこちらに向けて強く構えられる。僕は一歩も動かず、男の目を真っ直ぐ見つめた。
「この銃が本物か試すか?」
男は余裕を装ってニヤリと笑う。
「やってみろよ」
ピュッ!
次の瞬間、銃弾が男の頬をかすめた。薄い血の線が浮かび、男の顔から一気に血の気が引いていく。
「………………吉田組長の今いる場所を教えさせていただきます」
驚くほどあっさりと、男は情報を吐いた。




