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インナーヒットマン  作者: 太田
第4章 化け物と雛

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第45話 帰り道

 穴だらけのボディが揺れるたび、トラックは小さく軋みを上げながら、山の斜面を縫うように走り続ける。


 やがて、おじいさんがぽつりと口を開いた。


「…あれがお前さんの上司かぁ~?」


「は…はい…。」


 おじいさんは、まるで他人事のように朗らかに笑った。


「そりゃあ、やばいなぁ〜!」


 おじいさんの笑い声は、なぜだか緊張の糸をほんの少しだけ緩めてくれる。エンジンの唸りを聞きながら、僕らはぽつぽつと会話を重ねた。


「それ、いい面だなぁ〜」


 前を向いたまま、おじいさんの視線がちらりと僕の膝に乗せたオナガの面へ向けられる。


「オナガって言う鳥らしいです…。知ってますか…?」


 おじいさんは肩をすくめ、くしゃりと笑った。


「いんや。このあたりじゃ見たことがねぇなぁ〜」


 ボロボロのトラックは、ギアをひとつ上げるようにスピードを増し、荒れた山道を力強く登っていく。


 それから三十分ほど揺られていると、フロントガラスの向こうに、見慣れた街並みがじわりと滲みはじめた。


 胸の奥が、ふっと高鳴る。深く息を吸い、肺の奥まで新鮮な空気を送り込む。


「……すみません。ここで降ろしてもらってもいいですか?」


 おじいさんは、少し目を細めてうなずいた。


「……わかったぁ〜」


 トラックがゆっくり停車する。僕はドアを開け、地面に足をつけると、深く頭を下げた。


「本当にありがとうございました。このご恩は、忘れません」


 おじいさんは、のんびりした笑顔を浮かべる。


「なんだかよくわからないけど、頑張るだぁ〜」


 その言葉に背を押され、歩き出そうとした瞬間だった。


「これを持って行くだぁ〜!」


 そう言って、おじいさんは紙袋をこちらへ放ってよこした。受け止めた瞬間、予想以上の重さと、ごつごつした感触が腕に伝わる。


「これって……?」


「いいだよ〜。持ってけぇ〜」


 僕は、一礼をし、僕は紙袋を抱え、街へ向かって歩き始める。


 見慣れた景色のはずなのに、どこか遠くから戻ってきたような感覚があった。


「じゃ、頑張って〜」


 聞き慣れたゆるい声が後ろから聞こえた。振り返ると、トラックはもう小さく遠ざかっていく。


 歩きながら紙袋の中をのぞく。新品の銃、革の鞘に収められたナイフ──そして、仕事の時に持ってくるのを忘れていた黒手袋。


 思わず息をのむ。僕は無言で、オナガの面を紙袋に入れた。


「……」


 足を踏み出す。六田に会うために。薬を回収するために。

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