第44話 逃走
ドゴォン!
ショットガンの炸裂音とともに、トラックの側面や荷台に次々と風穴が穿たれていく。鉄板を破る衝撃が全身を震わせた。
──このままじゃ、トラックが走れなくなる……!
焦りに胸が締めつけられる中、僕はポケットに指を滑り込ませる。
指先に触れたのは──刃の折れた、柄だけのナイフ。
「早く死ねよぉ!」
イカルさんの怒号が後ろから響く。
「もうちょっと猶予をくれないですか!」
「あるわけねぇだろ!」
ショットガンの銃口がこちらに向いた、その瞬間──
ガンッ!
「くッ!?」
投げつけたナイフの柄が、イカルさんの額に見事当たった。だが、それは怒りの炎にさらに油を注ぐだけだった。
「ぶち殺してやろるぅぅう!!」
ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!
散弾が車体を叩き、金属が悲鳴のような音を立てる。
──逆効果だったな……。
僕は、おじいさんに聞く。
「この先に、曲がり道ってありますかッ!」
「直ぐそこが曲がり道だぁ〜!」
その返答を聞いたと同時に、僕は、イカルさんが開けた後ろ窓の穴から、何とか荷台に乗る。
スーツにガラス片が刺さり、鋭い痛みが走る。振動で落ちないようにトラックのボディーを掴む。
後続の黒い車との距離は、およそ二十五メートル。不安定な足場の中、窓から顔を出すイカルさんと視線がぶつかった。
「テメェ!ぶち殺されに来たか!」
「まだ死ねません!」
ショットガンが持ち上がる。その瞬間、トラックが右へ大きく切れた。
ドゴォン!
弾丸が僕の額をかすめ、鋭い痛みとともに血が流れ落ちる。遅れて、イカルさんの車も同じ曲がり角へ進入した。
同時に僕はコートを脱ぎ捨て、内ポケットから鳥の面を取り出しながら、床を滑らせるようにコートを投げ放った。
──あのコートは防弾で、異様に頑丈だ……。あれがタイヤに絡まれば──
狙い通り、コートは車の右前輪に絡みついた。
「ッ!?」
悲鳴のような金属音がし、車体が横滑りを始める。ブレーキ音と焦げたゴムの臭い──
そして黒い車は、曲がり角を曲がりきれず、そのまま崖下へ滑り落ちていった。
「くそぉぉぉぉ!」
イカルさんの声が、森にむなしく響く。
──……やったのか?
トラックの速度がゆっくりと落ちていく。穴から前の席へと戻る。窓から後ろを覗いても追っ手らしき
影は、見えなかった。
「やったかぁ〜?」
「……多分……」
荒い息のまま答えた。こうして僕は、『トリカゴ』の追っ手から、どうにか逃げ切ったのだった。




