第42話 次にやること
「……仕事を失敗しちゃって……」
ようやく絞り出した言葉は、焚き火の音にかき消されそうなほど弱々しかった。だが、おじいさんはそれを聞いた瞬間、腹の底から大笑いした。
「そうかぁ〜!そうかぁ〜!仕事が失敗したんかぁ〜!」
焚き火の火が揺れるほどの笑い声だった。
───めちゃくちゃ笑うなぁ…。
僕が戸惑っていると、おじいさんは涙を拭うようにして続けた。
「それでぇ〜?」
「……このまま戻っても、殺されるかもしれないですし……。どうすればいいのか、わからなくて……」
声に出した瞬間、胸の奥に沈んでいた重石が少しだけ動いた気がした。
「そうかぁ〜」
おじいさんは頷き、焚き火の炎をじっと眺める。
「まぁ、失敗したら次を考えにゃならんなぁ〜」
「……え?」
顔を上げると、炎の橙がゆらりとおじいさんの横顔を照らしていた。
「失敗して立ち止まるのが一番だめだぁ〜。今できることを考えて、全力で取り組む。それでダメだったら……そのときは逃げるのが吉だぁ〜」
言葉は素朴なのに、不思議と胸に刺さる。焚き火の熱よりも、静かに深くあたたかかった。
「……」
──今できる事、か…。六田は確か吉田組の組員だった。吉田組の“本部”のような場所に行けば、あいつの居場所の情報を聞き出せるかもしれない。町で六田に会った。あの町には部下もいた。その誰かを捕まえて、場所を吐かせれば──
火の前で立ち上がる。濡れた服はもうほとんど乾いていた。
「……次やる事が見つかったかぁ〜?」
「……はい」
うなずいた瞬間、背中を押されたような気がした。だがすぐに、現実的な問題が頭をもたげる。
──でも……どうやって町に戻ろう。
その不安が顔に出たのだろう。おじいさんは笑みを深くし、あっけらかんと言った。
「……送ってってやろうかぁ〜?」
「ッ……いいんですか!?」
思わず声が裏返った。
「いいだぁ〜。ちょうど用事も終わったしなぁ〜」
そう言っておじいさんは立ち上がり、川の上にかかる道路へと歩き出す。そこには古びたトラックが一台、ぽつんと停まっていた。
こうして僕は、おじいさんのトラックに乗せてもらい、町へ戻ることになった。焚き火の温もりが、背中にじんわり残っていた。




