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インナーヒットマン  作者: 太田
第3章 薬と雛

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第40話 落下

 崖沿いの細い道路を、ただ前だけを見て走る。


 足音が荒く地面を叩くたび、下から吹き上げる冷気が皮膚を刺した。覗き込んだ暗闇は底知れず、奈落そのもののようだった。


 その先に──人影があった。六田だ。


 僕は肺が裂けるほどの勢いで走り、銃口をまっすぐに向ける。


「あれ、もう来ちゃったかー」


 振り返った六田は、まるで散歩でもしているかのような気楽さで微笑んだ。


「……何で、あの子たちを罠に使った」


 問い詰める声は震えていた。怒りか、それとも別の何かなのか分からない。


 六田は肩をすくめ、笑って答える。


「えー? 『トリカゴ』の人間を止めるには、これくらいしなきゃって思ってたからー。でも……まさか初くんが『トリカゴ』の人間だったとはねー」


「ッ!」


 胸の奥が熱くなる。六田はまるで僕の反応を楽しむように、指先でくるくると空をなぞった。


 「まぁ、君のことなんてどうでもいいんだけどさ。『トリカゴ』の狙いは多分、あの薬だよねー。でも残念。あれは渡さないよ」


 そう言って、また気楽な足取りで歩き出す。


「待て!」


 引き金に指を掛けた瞬間──


「そこ、危ないよー」


───何を


ドッゴォォオオン!!


 世界がひっくり返った。爆風が横から殴りつけてきて、体が宙に浮き、視界が白に染まる。六田が距離の向こうで、楽しげに口角を吊り上げていたのが一瞬見えた。


 崖から落下する。爆音と爆風で、朦朧とする意識の中、大声で叫ぶ。


「六田ぁ!!待ってろよぉぉぉ!」


 叫びは風に飲まれ、夜空へ散っていく。重力が体を引きちぎるような落下感。風が鼓膜を裂き、身体は空と地の間をただ落ちる質量と化した。


 そして──


ドプンッ。


 腹を殴打するような衝撃とともに、全身が冷たい水の塊に叩き込まれた。水が皮膚を越えて骨の内側まで刺し込んでくるような鋭さ。体温が奪われ、思考が遅れて沈んでいく。


──冷たッ!?


 暗闇の川は濁流となって僕を飲み込み、容赦なく流し去っていく。段々と意識が薄くなっていく。僕は闇に沈み、流れに呑まれ、そして意識を手放した。


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