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インナーヒットマン  作者: 太田
第3章 薬と雛

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第39話 鉄

バンッ! バンッ!


 放った弾丸は、どれも男の目前で霧のように崩れ、塵となって消えた。


───何なんだ、これはッ!?


 理解が追いつかない。だが立ち止まっている暇はない。懐から銃を収め、代わりにナイフを抜く。


「うぉぉぉ!」


 瞬間、風が裂けた。


バキッ!


 鋭すぎる斬撃が胴を薙ぐ。肺から空気が押し出され、目の前が白く弾けた。遠ざかる視界の端で、六田が背を向けて歩き去っていく。


 痛みに歯を食いしばりながら立ち上がる。だが、手にしたナイフに違和感があった。


「───!」


 刃が、ない。柄だけが残っていた。


───金属を……溶かした?


 ありえない。だが現実だ。目の前の青年は、金属を消す能力を持っている。しかし、そんな事は、どうでもいい。


「どけッ!」


 叫んで飛び込む。が──


バキッ!


 木刀が顎を打ち抜く。視界がぐらりと揺れた。膝が折れそうになるのを必死で踏ん張る。頭を回せ。状況を整理しろ。


 こちらの武器は銃と刃のないナイフ。銃を無効化し、接近すると木刀で仕留めにくる。僕は、マガジンから弾丸を何個か取り出した。


 男が淡々とした声で言う。


「……ボロボロのくせに向かってきて。勝ち目がないのは分かるだろ?徒労だと思わないのかな?ビルの中にいた子たちは六田さんが逃げるための“犠牲”なんだよ。どうして君が怒るんだい?不思議だね」


「うるさい」


 銃口を向け、引き金を引く。


バンッ!


 だがまた塵になる。男は鼻で笑った。


「はは。無駄無駄」


バンッ!


 僕の銃の音では、なかった。腹部に灼ける痛みが走る。足が崩れ、地面を転がった。男の方を見ると銃を握っていた。


───ふざけんな。こんなのズルじゃねぇか。


バンッ!


 すぐ横を弾丸がかすめた。防弾スーツのおかげで風穴が開くのは、防げた。状況は最悪。


 逃げるように走り出すが──


バンッ!


 銃声。足に痛み。膝が折れる。男が銃を構えたまま近づいてくる。僕は落ちていた小石を拾い、握りしめた。


「く、来るなぁ!」


 僕は、小石を男に向かって投げる。


「……惨め」


 引き金に力が入る。その瞬間──


「…!」


 小石の中に紛れ込ませていた“銃弾”が、男の能力で塵となり、風に乗った粉が男の目に飛び込んだ。


「っ……!」


 男は反射的に目を閉じる。


───今だッ!


「うおぉぉぉぉ!」


 全身の痛みを無視し、体当たりを叩き込む。


ドガァッ!


「ぐはぁッ!」


 男が転倒する。僕は振り返らない。狙うはただ一人──六田。走り出す。背後から、


バンッ! バンッ! バンッ!


 銃声。背中に激痛が走る。だが足は止まらない。僕は、そのまま六田に追いつくため走り続けた。

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