第39話 鉄
バンッ! バンッ!
放った弾丸は、どれも男の目前で霧のように崩れ、塵となって消えた。
───何なんだ、これはッ!?
理解が追いつかない。だが立ち止まっている暇はない。懐から銃を収め、代わりにナイフを抜く。
「うぉぉぉ!」
瞬間、風が裂けた。
バキッ!
鋭すぎる斬撃が胴を薙ぐ。肺から空気が押し出され、目の前が白く弾けた。遠ざかる視界の端で、六田が背を向けて歩き去っていく。
痛みに歯を食いしばりながら立ち上がる。だが、手にしたナイフに違和感があった。
「───!」
刃が、ない。柄だけが残っていた。
───金属を……溶かした?
ありえない。だが現実だ。目の前の青年は、金属を消す能力を持っている。しかし、そんな事は、どうでもいい。
「どけッ!」
叫んで飛び込む。が──
バキッ!
木刀が顎を打ち抜く。視界がぐらりと揺れた。膝が折れそうになるのを必死で踏ん張る。頭を回せ。状況を整理しろ。
こちらの武器は銃と刃のないナイフ。銃を無効化し、接近すると木刀で仕留めにくる。僕は、マガジンから弾丸を何個か取り出した。
男が淡々とした声で言う。
「……ボロボロのくせに向かってきて。勝ち目がないのは分かるだろ?徒労だと思わないのかな?ビルの中にいた子たちは六田さんが逃げるための“犠牲”なんだよ。どうして君が怒るんだい?不思議だね」
「うるさい」
銃口を向け、引き金を引く。
バンッ!
だがまた塵になる。男は鼻で笑った。
「はは。無駄無駄」
バンッ!
僕の銃の音では、なかった。腹部に灼ける痛みが走る。足が崩れ、地面を転がった。男の方を見ると銃を握っていた。
───ふざけんな。こんなのズルじゃねぇか。
バンッ!
すぐ横を弾丸がかすめた。防弾スーツのおかげで風穴が開くのは、防げた。状況は最悪。
逃げるように走り出すが──
バンッ!
銃声。足に痛み。膝が折れる。男が銃を構えたまま近づいてくる。僕は落ちていた小石を拾い、握りしめた。
「く、来るなぁ!」
僕は、小石を男に向かって投げる。
「……惨め」
引き金に力が入る。その瞬間──
「…!」
小石の中に紛れ込ませていた“銃弾”が、男の能力で塵となり、風に乗った粉が男の目に飛び込んだ。
「っ……!」
男は反射的に目を閉じる。
───今だッ!
「うおぉぉぉぉ!」
全身の痛みを無視し、体当たりを叩き込む。
ドガァッ!
「ぐはぁッ!」
男が転倒する。僕は振り返らない。狙うはただ一人──六田。走り出す。背後から、
バンッ! バンッ! バンッ!
銃声。背中に激痛が走る。だが足は止まらない。僕は、そのまま六田に追いつくため走り続けた。




