第38話 護衛
ガラガラガラガラッ───!
ビル全体が軋むような低い悲鳴を上げ、足元が揺れた。外から軽やかな笑い声が響く。
「ははぁー!!」
聞き覚えのある声だった。怒りが、痛覚をごっそりと押し流す。
「六田ぁ!」
叫びながら、瓦礫だらけの出口へ駆け出す。
外に出た瞬間、砂埃と焦げた匂いが押し寄せた。
そこにいた。楽しげに手を振る六田と、フードを目深にかぶった護衛が一人。
ドシャァァァァン!!
横に倒れるように倒壊するビル。
「おぉー!」
隣のビルが、横倒しに崩れ落ちた。大地を震わせる衝撃とともに、瓦礫が雨のように周囲へ散乱する。
「おぉ!すごいねぇー!」
六田は、まるで花火でも眺めているかのように目を輝かせていた。
「六田ァ……!」
怒りで震える声が、自分でも驚くほど低かった。
「そんな怒らないでよー?」
六田は軽く肩を竦める。
「あの子たち、返り討ち用に取っといたのにさー。いやぁー、タフだねぇー、きみ」
六田の薄ら笑いが、憎悪に油を注ぐ。僕は銃口を真っ直ぐ六田へ向け──トリガーを引く。
バンッ!
確かに弾丸は六田の額へ向かった。しかし、その瞬間──弾は空中で霧のように消え失せた。
「……なッ──」
理解が追いつかない。
「いやぁ、ざんねん」
六田は頬を掻きながら愉快そうに笑う。
バンッ!、バンッ!、バンッ!──
連射。だがすべて、六田の目の前でふわりと崩れ、塵のように消滅した。
───どうなってるんだッ…?
「困惑してるねぇー?お面してて分かんないけどー」
六田は、背を向ける。
「じゃ、僕は帰るねぇ。あとのことは──ニトラくん、頼んだよ」
「待て──!」
駆け出そうとした瞬間、フードの護衛が音もなく前に立ちはだかった。
「邪魔だ!」
引き金を引く。だがその弾も、弾道ごと霧散してしまった。
その瞬間、確信した。
───コイツだ。
この能力は、コイツの能力だ。
フードの男が静かに布を外す。
現れたのは、どこか影の薄い青年だった。目の奥だけが異様に冷えている。
「……」
「どけよ」
「…できません」
青年が、静かに手元の武器を構える。それは──木刀だった。
「……」
青年は、一直線に僕へと迫ってくる──。




