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インナーヒットマン  作者: 太田
第3章 薬と雛

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第34話 トリカゴ

 後ろを振り返ると、さっきまでいた『りうか』の灯りは、もう闇の向こうに飲まれ、小さな点にまで縮んでいた。


「初く〜ん」


 隣から気の抜けた声がする。振り向けば、店長が面を外し、いつもの半笑いのような表情でこちらを覗き込んでいた。


「大変な事になっちゃったね〜」


「へ?」


「だって、今回の“オーナー直々”の仕事だよ〜?」


 含み笑いを浮かべながら店長は言う。微妙に焦らすようなその口調が、逆に不安を煽ってくる。


「………オーナーってなんですか?」


「あ~。そこから〜?」 


 そういえば。そもそも僕は、『トリカゴ』という組織について、まともに説明を受けたことがなかった。

「いい?まず、僕ら『トリカゴ』って組織は、“オーナー” って人が所有してる組織なんだ〜。だから、会社でいうとね、オーナーは “社長” みたいなものかな?」


「なるほど…」


「で、オーナーは他にもいくつか組織を持っててね。その中の一つの “部署” が『トリカゴ』ってわけ。

さっきのウトウさんは、『トリカゴ』全体を管理してる人。まぁ “部長” みたいな?」


 初めて知る事実ばかりだった。まさか『トリカゴ』が、そんな巨大組織の一部だったなんて──。


 というか。


「そんな組織のトップ直々の依頼を……僕が?」


 店長は、いかにも愉快そうに目を細めた。


 「だから、大変な事になっちゃったね〜って」


───ど、ど、ど、どうしよう…。


 胸の奥が冷たくなる。指先もじわり汗ばんだ。


「もし、今回の依頼を失敗したら……」


 店長が意味深に声を落とす。


「……失敗したら?」


 にこり。いつも通りの笑顔のまま店長は告げた。


「僕ら『トリカゴ』のメンバーが君を殺さなくちゃならないんだよね〜」


 一瞬で、血の気が引いた。体温が奪われる感覚が、首筋から背中へ走る。


 失敗したら、殺される。


「まぁまぁ〜。依頼を成功させればいいだけの話だから」


 下を向きながら放心状態の僕を差し置いて、店長は、僕に見覚えのあるデバイスを手渡した。


「こ…これは…?」


「お仕事用のデバイスだよ〜。六田の情報だったり、仕事の内容だったりが入ってるんだ〜」


───スズメさんが使っていたデバイスは、これだったのか…。


「仕事が終わったら、ここから連絡してね〜」


「わ、わかりました」


 それにしても緊張する。失敗したら、殺される。その事実が僕の身体を硬直させた。


「はい、初君これ〜」


 銀紙に包まれた四角いもの。開くとキャラメルだった。


「……いいんですか?」


「いいよ〜。落ち着くでしょ?」


 言われるまま口に放り込む。噛むたびに甘さが歯の奥へ、じわじわと染み込んでいく。


 いつもより、やけに甘く感じた。

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