第22話 地獄
「はい! 二日目〜」
目を開けると、すぐ目の前に店長の顔。
トラウマになりそうだった。
日が昇り、また沈む。
そのたびに、殴られ、蹴られ、起こされる。皮膚は裂け、膝は泥に沈み、手の中のナイフはもう重さすら感じない。
けれど、その極限のなかで、何かが変わり始めていた。恐怖ではなく、殺意が湧いてきたのだ。
これが当たらなければ死ぬ。
死にたくないのなら、殺すしかない。
店長が笑う。
「さぁ〜こい!」
その笑顔が、悪魔のように見えた。
「うおぉぉぉぉ!」
喉が裂けるほど叫び、ナイフを突き出す。
「はぁ〜……」
店長は溜息をついた。
次の瞬間、蹴りが飛ぶ。視界が再び白く弾けた。
「いつまでバカ正直にやるの〜?」
笑いながら僕を見下ろす声。
その声に、脳の奥が沸騰する。
立ち上がり際、全身全霊をかけて何店長に切りかかった。
「うおおおおお!」
店長が避けようと体が動く。
その瞬間、僕は、思いっきり、ナイフを投げた。
「ふ〜ん」
しかし、店長がバックステップでかわす。
そのまま店長は、僕を数発殴る。
僕は、そのまま意識を失った。
目を覚ますと、焚き火が揺れていた。湿った土の匂い。焦げた薪の音。身体のあちこちが、鈍く痛む。起き上がれない。
「あ、起きた〜?」
店長が笑いながら、肉を焼いていた。空は、すでに真っ暗だった。
「初くん、合格だよ〜」
「……え?」
店長は自分のジャージの裾を摘み上げた。そこには、ほんのわずかな裂け目。
「まぁ、一撃入れたし合格!この動きができれば、きっと仕事にいけるよ〜」
その言葉に全身の力が抜け、ようやく安堵が押し寄せてきた。
「はい、どうぞ〜」
店長が紙皿を差し出す。焚き火で炙られた肉が、香ばしい匂いを放っていた。
不思議な事に、その肉は、牛でも猪でもない、どこか野の気配を含んだ味だった。噛むたびに、涙が滲ん
だ。温かく、しょっぱく、生きている味がした。
気づけば、手から皿が滑り落ちていた。焚き火の音が遠ざかっていく。僕は、そのまま静かに、眠りに落ちた。




