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【休載中】アラサーOLのおうちご飯。~ここは飯屋じゃないんだけど~  作者: けだま@回復努力中


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11/13

バリエーション豊かなのはパスタだと思う。 〜ミートスパゲティ〜

オリヴィア今回不在です。

ちょっと忙しくて間が空いてしまいました…。

でも、その間にもブクマ、ポイントを頂けていてすごく嬉しかったです。ありがとうございます。

『助けて! 真澄!!』

「…………安請け合いか見栄か今回はどっちよ」


 電話口で大声で叫ばれた私はもう一度ため息をついて続きを促した。



 オリヴィアが還ってから部屋の掃除をして、さて買い物にでも行こうかと思った矢先に携帯が鳴り響いた。

 休みの日に電話がかかってくることは珍しい。昨今の通信手段は友人間だとLIMEやメールが主になるのだから当然といえば当然かもしれない。

 電話というと嫌でも緊急性を帯びた案件だと思ってしまう。……まあ、面倒くさいときなどは電話で済ませる方が早いからと通話を取ったりはもちろんするのだけれど。

 どうか会社からじゃありませんように、と内心祈りながら携帯の表示を確認する。なんのことはない。高校時代からの友達からだった。

 ……ただ、普段LIMEでやりとりをするのに電話がかかってきたとなると、なんとなく面倒くさい案件のような気がする。


 こういうときの嫌な予感って当たるのよね……。


 長い付き合いで、よくよく振り回されていることはいい加減自覚しているけど、ここで電話を取らないという選択肢はない。

 鳴りやむ様子のない携帯にため息をついて通話ボタンを押した。


 …………そして冒頭に戻る。

 開口一言目が救援要請だったのだけれど、通話相手を確認した時点で想定の範囲内である。


 私の問いに、少しだけ言葉に詰まったような雰囲気が電話口からしたけれど、それも一瞬のことで二言目は堂々としたものだった。


『見栄だが!!』

「堂々と言えばいいってもんじゃないからね」


 助けて、という割には居丈高に断言した友人に頭を抱えたくなる。

 悪い子じゃないしおもしろい友人なのだけれど、少し暴走壁があるのは直して欲しいと思うのは私の欲張りなのだろうか。

 違うと信じたい。

 ともあれ話が進まないので続きを促した。


「で、何の見栄よ。貴重な土曜日にわざわざ電話かけてくるくらいなんだからよっぽどの案件なんでしょうね?」

『当り前じゃない!! わたしの一生が左右されるかもしれないぐらいよ!!』

「え、そんな重大な事案に巻き込まないでくれない?」


 相も変わらず叫びながら訴えてくる友人の一言に少し引く。

 いくら友人とはいえ、さすがに他人の一生を左右されるような事柄を助けられるとは思わない。


『そういわず! ホント真澄だけが頼りなんだって!! マジでお願い! 助けて!!』


 目の前に居たら土下座してそうなくらいのテンションで必死に畳みかけてくる。

 別に私も意地悪したいわけではない。そしてこのまま話を聞かないと、家に押しかけてきて土下座しそうな気がひしひしとしてきた。

 それはさすがに嫌すぎるので、諦めてお願いとやらを聞くしかなさそう……ね。


「…………程度によるからさっさとどういう理由なのか言いなさいな」

『ありがとう真澄! 愛してるー!!』

「あー、はいはい。だから理由言いなさいって」


 ぱぁ、っと一気に明るくなった声に苦笑して、友人の見栄とやらのために付き合うことにした。



「…………つまり、料理が出来るようになりたいと」


 彼氏の愚痴から両親の小言の愚痴など、延々に聞かせてくれたけれど、一頻(ひとしき)り聞いた話をまとめると一言で済む。要するに、何か料理を教えてということだった。

 なんでそれが助けてになるのか一瞬首を傾げたけど、思い出してみれば友人――――――朱梨(あかり)は壊滅的な料理音痴だった。

 以前学生時代に友チョコを作ることになったときの惨状は忘れない。

 どうすればあんな謎の物体Xが出来るのか、私はさっぱりわからなかったもの。


 調理実習のときもお米を研いでもらおうとしたら洗剤を持ち出すというベタなことをし始め、ツッコミ待ちかと思いきやガチだったと気づいたところで強制的に皿洗いに移行させた。

 あの時の私の判断は英断だったと今でも思っている。


『売り言葉に買い言葉ってやつでさー、アツシに大見栄切っちゃったんだよね。今度夕飯作りに行ってやるって』

「うっわ、無謀」

『だからお願いしてんじゃんー! 母さんはダメだったんだもん!』


 とりあえず身近にいる母親に頼むことは頼んだらしい。そりゃそうか。

 ただ、なんというか、おばさんによる朱梨への指導は開始されたんだけど、おばさんは壊滅的に教えるのが下手だった。ミスター方式だったといえば伝わるだろうか。

 茄子をタタターっとやって水にバシャってしたらあそこにあるやつをだばっと入れる。とか、うん。確かにわかんないわ。

 で、ほとほと困り果てた朱梨が思い出したのは私が料理上手かったってことだったのだとか。

 それを一言に凝縮したのが開口一言目の助けて、だったらしい。


『ねー! お願い真澄! 簡単なヤツでいいからさー!』

「まあ、いいけど……。材料はアンタ持ちね。あと私の言うことちゃんと聞きなさいよ。昔みたいに米を洗剤で洗おうとしたらぶん殴るから」

『聞く聞く! やった、サンキュー真澄!! じゃあ今から行くから!』

「は? 今から? ちょっと朱梨、アンタ…………切れたし」


 ツーッツーッと通信終了音を奏でる携帯から朱梨の声がすることはもちろんない。

 朱梨の家から私の家までは車でおおよそ15分ほどだったかしら……。

 ため息を吐いて携帯の画面を暗転させて、冷蔵庫の中の食材を確認しておくことにした。

 もちろんあとで使った分の材料は買い出しさせると心に誓って。



「真澄ー、来たわよー」


 通話終了から20分。マンション階下のインターホンが鳴らされ朱梨が来訪してことを告げる。マンションの自動ドアのロックを解除して、さっさと入ってもらった。

 私の部屋は5階なので、部屋まで来るのはあと数分かかる。今のうちに朱梨の分もエプロンの用意をして、使う食材を冷蔵庫から出しておく。

 教えながら冷蔵庫開けたり閉めたりするの効率悪いしね。

 ささっと準備を一通り終えたところで部屋のインターホンが鳴った。チェーンを外しに玄関に向かい朱梨を迎える。


「あのねぇ、朱梨。アンタ今すぐ来るって普通拒否るからね」

「わかってるって! 真澄の寛大さにはマジ感謝しかないから! これ、お土産」


 ハートでも付きそうなくらい猫なで声で言われても気持ち悪いだけだから。

 もちろんお土産はしっかりもらっておくけど。ドーナツの詰め合わせに罪はないもの。


「じゃあ、手ェ洗ってきて。ちょうどお昼時だし簡単なヤツ教えるわ」

「サンキュー真澄! んじゃ、手洗い借りるわね!」


 うきうきとしている朱梨を洗面所に追い出してドーナツを戸棚に片付ける。

 あ。計量スプーンとか用意しとかないと。普段使わないから忘れがちだわ。

 調味料などもわかるように取り出したところで、朱梨が戻ってきた。エプロンを渡して付けさせる。


「それじゃ、何教えてくれるの?」

「今ある材料と手軽さって考えるとミートスパかな。カレシ、パスタ食べれる?」

「アイツ好き嫌いないから平気。ってか、ミートスパって簡単なの? マジで?」

「……細かい手順が省けるからたぶん簡単」


 驚いたように目を丸くしているけど、ぶっちゃけ私は簡単かどうかまではあまりわからない。

 とりあえず手順が少なくて、細かい分量を計ることが少なければ簡単なんじゃないかと思うんだけど。


 ……やってみて難しそうなら違うもの教えよう。


「それじゃ、私は手出さないで手順だけ横から指示するわ。難しそうなら手伝うから」

「恩に着る~! えーっとまずは?」

「鍋に水を入れて火にかけて。水は多め。そうそう、それくらい。コンロに置いたら塩をちょっと入れてね」

「ちょっとってこれくらい?」

「それはどう考えてもちょっとじゃないわよね!? あと、それ砂糖!! 塩はこっち!」


 塩っておもいっきり書いてある瓶を普通に無視して、砂糖瓶から手のひらにがばっと取り出した朱梨を慌てて止める。

 人ん家のキッチンだから確かにどこに何があるかわかりづらいとは思うけど、私はちゃんと塩瓶をシンクに置いていた。何故(なにゆえ)棚の砂糖瓶を取るのよ、ねえ。しかもちょっとだからね? 掌にこんもりと出された砂糖全部鍋に入れたらパスタが甘ったるくなるわ。

 高校時代からまったく変わってなさそうな朱梨の料理の腕に殊更丁寧に説明することをそっと心に誓って、掌に出された砂糖は別の器に入れるように指示する。

 あとでなんか使い道考えよう……。


「あっはっは、ゴメンゴメン。ちょっとね。オッケー、オッケー……」

「言い方が悪かったわ。小さじ1よ。小さじはこの5ccって書いたスプーンのこと」

「ほうほう」


 計量スプーンがどれのことか教えて、小さじと大さじの基準を説明。案の定めいっぱいスプーンに塩を盛ったから摺り切りの概念も教えておく。料理本の小さじとか大さじとかの量も、普段料理しない人にはこうやって狂うんだということを学んだ。


 塩を入れた後は、強火で沸騰するまで置いておく。パスタを茹でる用だから早めに用意しただけだ。ソースが出来てからお湯を用意すると時間が余るし。

 深めのフライパンを用意して、もう一つのコンロに置いておく。

 さて、次はソース作りね。


「じゃあ、ソースを作るんだけど……そういえばみじん切りはわかる、わよね?」

「なんかこう、雑多に切ることでしょ?」

「教えるから包丁振り回すのだけは絶対止めて」


 両手で包丁の柄を持つ仕草をして、ぶんぶんと腕を上下に振る朱梨に真剣に頼み込む。

 ほんとに包丁持たせて大丈夫か不安になってきた。手を切らないようにだけしっかり見張っとこう……。


 玉ねぎを取り出して皮を剥いてもらう。まな板を用意して、まず半分に切るように指示。すっごい怖いけど、包丁は最低限使えないと何も出来ないので、殊更丁寧に扱うように言い聞かせた。

 半分に切れた玉ねぎの片側をまな板において、包丁を一旦返してもらってやり方を教える。


「みじん切りは、半分に切ったら頭をこう三角に落として、お尻の方まで切らないよう気をつけて繊維に沿って切れ目を入れるの。それから切っていくと、ほら。自然とみじん切りになるでしょ?」


 半分は見本としてやって見せて、もう半分を同じようにやるようにと場所を譲る。

 ふんふん、と頷いて包丁を手に持ち振りかぶろうとした朱梨を全力で止めるという無駄な工程も加えながら、どうにかみじん切りにすることは成功した。

 多少粗微塵でも炒めればいける。うん。


「出来た! 次はどうすんの?」

「フライパンを出して、オリーブオイルを入れて火をつけて。にんにくのチューブを1センチほど出して強火で香りを出すまで炒めたら玉ねぎ投入。はい、フライ返し。いいって言うまで焦げないように混ぜてね」

「りょーかい。……すでに最初の工程忘れそうなんだけど」

「……あとで全部メモしてあげるから」


 ある程度透き通るまで炒めたら、ミンチ肉を入れるように朱梨に渡す。ここからはひき肉が色づくまでじっくりと炒める。強火だと焦がしそうなので中火で時間をかけながら炒めるように、朱梨には注意しておく。

 包丁のときと違って、手元が怖くないので見ててあまり不安はないのが幸い。

 ……まあ、ちょっと勢いよすぎてフライパンから飛び散ってるのが少しあるけど、許容範囲よ。

 朱梨が炒めている間に包丁とまな板は洗っておく。ホントは朱梨にやってもらうべきかもだけど、まあウチだから。今日は。朱梨が途中で洗い物を挟むとか器用なことが出来るはずがないので、本番では最後にまとめて洗えばいいからとだけは伝えておいた。


「あ、結構いい感じじゃない?」

「うん。じゃあ、フライ返し一旦そのまま置いていいから、このトマト缶入れて。あとはケチャップを大さじ3と醤油大さじ1、砂糖小さじ1、あとコンソメキューブ2つね。はい、計量スプーン」

「え、待って待って! どれって!? ケチャップと?」

「醤油と砂糖」


 砂糖は味の調整なのでいっぱい入れるとおかしなことになるので、この分量に対しても小さじ1で十分。

 さっきの別器に移した砂糖から入れるように指示する。

 摺り切りの概念を覚えていたようで何より。


「最後にはちみつ小さじ1ね」

「パスタにはちみつとか砂糖なんか入れるのねー」

「隠し味。結構味まとまんのよ」


 トマト缶だけで作ろうとするとどうしてもトマトの酸味が強くなって、これじゃない感が出る。口当たりをよくするためにたどり着いたのが、私の場合はちみつだっただけだ。

 感心してる朱梨に入れすぎ注意とだけは念押ししておく。あと何にでも入れればいいってもんじゃないことも。

 注意しとかないとお味噌汁とかにも入れかねないもの、コイツ。


 調味料をすべて入れたら強火にして、全体的にきちんと混ざるようにかき混ぜながら火を通す。

 水気がある程度減ってきたら弱火にして、隣で沸騰している鍋にパスタを入れるよう朱梨に伝える。あとはパスタが茹で上がるのを待って、ザルと皿を用意しておいて、と。


「うん、いい感じ。ほら、味見」

「! 美味しい! もう完成!?」

「ええ。ほら茹で上がったからザルにあけて。しっかりお湯を切ってね。水っぽいパスタとか嫌でしょ」


 きちんとお湯の切り方も説明して、朱梨に任せる。何本か麺がシンクに消えていったけど、まあ許容範囲よ。

 トングを渡してお皿に盛り付けて、ソースをかければ。


「やったあああ!! 出来たあああ!! 見てなさいよアツシ! 絶対ぎゃふんと言わせてやるわ!!」

「彼氏にぎゃふんて……。っていうか久しぶりに聞いたわ、それ」

「ふふん、わたしだってやれば出来んのよ! 写メっとこ」

「その前に洗い物片付けるわよ。写メは後でいくらでも撮ればいいでしょ」


 高笑いしている朱梨の頭を(はた)いて後片付けをある程度済ませておく。

 冷めたらもったいないし、あとは食べ終わってからでいいか。

 食器類も用意してテーブルに着く。待ってましたとばかりに写メりまくる朱梨に苦笑しか浮かばないけど、まあ、気のすむまでやればいいと思う。


「先食べてるわよ」

「あ、待って待って! オッケー、いっただっきまーす」


 私がそう言うと慌てて携帯を置いて朱梨もフォークを持つ。くるっと巻いて一口。

 トマトの酸味は程よく甘くて、合いびき肉とよく絡んでる。パスタもアルデンテになってるし、うん。上々、かしらね。


 よっぽど自分でも作れたのが嬉しかったのか、終始テンションの高い朱梨と一緒に、その日は昼食後もショッピングに行ったりゲームをしたりと遊び倒した。

 アポなし突撃は勘弁してほしいけど、楽しい休日になったし、たまにはいいでしょう。



 因みに、後日。朱梨は見事に作り方を忘れて、逆に彼氏に作ってもらったのだとかなんとか。

 ……惚気か!

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