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調香師アリアの異世界恋物語  作者: エルリア
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第八話

この間の探索は楽しかったなぁ。


素材もいっぱい手に入ったし、ご飯は美味しかったし。


イオニスは悔しそうだったけどまだまだ私の足元にも及ばないってことがわかったんじゃないかな。


なによりあのラインハルトさんと一緒にお出かけできたのが嬉しかった。


戻ってきてからくーちゃんに自慢したら、何とも言えない顔をされちゃったけど。


わ、私だって現実は理解してるつもり。


こんな売れない調香師なんかよりももっとふさわしい人がいるって。


でもでも、夢を見たっていいじゃない?


私だって女の子なわけだし、王子様と結婚出来たらなんて小さいときは思っていたもの。


今はまぁ、色々知っちゃってそんなこと考えることも無くなったけど。


そんなことを考えながら気分よく買い物していた時だった。


「なんだ、この前と違って随分楽しそうじゃないか。」


「げっ。」


「なんだよその反応は。」


「別に、貴方には関係ないでしょ。」


「聞いたぞ、あのラインハルトに護衛してもらったらしいな。よくまぁあの堅物を手なずけたもんだ。」


せっかくいい気分で買い物していたのに、最悪なやつが来たせいで全部台無しになっちゃった。


それに何よ手懐けるって、ほんと失礼。


どうせラインハルトさんの事を狙っている他の女の子が好き勝手言ってるんだろうけど、本人が聞いたらどうするんだろうか。


「そんなんじゃないわ!知りもしないで勝手なこと言わないで。」


「ま、俺は金さえ払てくれたら何でもいいけどな。ラインハルトでもあの冒険者でも好きに使って稼いでくれ。」


「言ったでしょ今月の分はちゃんと払うからって。」


「あぁ、だから今すぐ返せ。銀貨30枚、耳をそろえて今すぐに。」


「え、そんな今すぐなんて。」


「なんだ、ちゃんと払うってのは嘘だったのか?俺は月末とは言ったが最終日とは言ってない、もし払えないんならそれなりの覚悟をしてもらうが・・・。」


上から下にイヤらしい目で私を見てくるカーマインに思わず自分の体を抱いて抵抗してしまった。


ルーちゃん程じゃないけれど私もそれなりに出るところは出てるはず。


そりゃ胸とかお尻は小さめだけど、お願いだからそんな目で私を見ないで。


「これはカーマインさん、こんな所で奇遇ですね。」


「げっ、ラインハルトじゃねぇか。」


泣きそうな私とあいつの間に誰かが割って入る。


ハッと顔をあげると優しげな目をしたラインハルトさんが私を見て笑っていた。


「アリアさんこの前はありがとうございました。急について行きたいなんて無理を言ってしまって申し訳ありませんでした。ですがとても楽しかった、また良ければご一緒してもよろしいですか?」


「え、あ、はい!」


「ありがとうございます。それでカーマインさん、アリアさんに何かご用でしょうか。何やらただならぬ雰囲気でしたので声をかけさせていただきましたが。」


「別に何でもねぇよ、貸した金を返してもらうだけだ。」


「そうでしたか。ですが往来の真ん中でというのは頂けませんね。それに返済の強要、ましてや脅迫など言語道断。貴方に限ってそんなことをされるとは思いませんがお気をつけください。」


背中しか見えないのでよくわからないけど、あいつは舌打ちをしてどこかに行ってしまった。


助かった、のかな。


「やれやれ、彼にも困ったものですね。アリアさん大丈夫でしたか?」


「大丈夫です。ラインハルトさん、ありがとうございました。」


「お礼は結構ですよ、友人が困っていたのを助けただけですから。」


「え、友人?」


「違いましたか?」


「そ、そんな!私なんかがおそれ多くて。」


ただの知り合いじゃなくて私のこと友人って。


こんな、こんなに嬉しいことあっていいのかな。


どうしよう、ドキドキし過ぎて顔がまともに見れないよ。


「ひとまず今日は引き下がりましたが、あまりいい人間ではありません。お金を借りている以上今後も接点はあるでしょうが、くれぐれも気を抜かないようにしてくださいね。」


「はい、気を付けます。」


「お支払は大丈夫ですか?必要であればまた、お手伝いさせていただきますが。」


「大丈夫です。この前もいっぱい稼げましたし頂いた力の種も加工してギルドに引き取って貰えました。それに、聖騎士団も来るんですよね?お手伝いすれば少しは稼げるって・・・。」


「それ、誰から聞きましたか?」


さっきまでの笑顔から一変、ラインハルトさんの顔がものすごく怖くなる。


こんな顔を見るのははじめてで、思わず固まってしまった。


そんな私に気づいたのかすぐにまた優しい表情にもどったけど。


「か、カーマインからです。」


「はぁ、まったくどこから情報を仕入れてくるのか。困ったものですね。」


「あの、秘密だったりするんですか?」


「えぇ、それも限られたごく少数しか知り得ない情報なんです。我々の手に負えないとなると組織の威厳に関わります。ですのでくれぐれも他言無用でお願いしますね。」


「は、はい。」


口許に人指し指を当てるラインハルトさん。


お茶目な反応ではあるんだけど、事が大きすぎて素直に笑えなかった。


あいつは何でこんな情報を知ってるんだろう。


そっちの方が気になっちゃう。


そして何で私にそれを教えたのかな。


お金を払わせたいのか、それとも払わせたくないのか。


さっきの感じじゃ払えなくさせてさっさと売り払いたいって感じだったのに。


わからないなぁ。


「本来であればご自宅まで送り届けて差し上げるべきなのでしょうが、申し訳ありません先程の話を急ぎ上にあげないと。」


「大丈夫です、私の事は気にしないでください。」


「ありがとうございます。そうだ、さっきの話ですが・・・。」


そこまで言った所でラインハルトさんは話すのを止め、辺りを見回してから私の耳元に顔を近づけてきた。


「討伐隊が出るのは本当です。その中で調香師の皆さんには探索のお手伝いをお願いする予定になっていますで、今のうちに準備をして頂けますでしょうか。よろしくお願いしますね、アリアさん。」


話す度に耳に吐息がかかってゾクゾクしてしまう。


身震いしたくなるのをグッと堪えて話が終わるのを待つ。


顔を離したラインハルトさんはそのままウインクをすると、小走りで城門の方へと駆けていってしまった。


その背中を見送り息を吐き出すと同時に、我慢していた震えが身体中を駆け巡った。


あーー、ビックリした!


距離が近いだけじゃなくて息が耳にかかるあい、何よりも匂い!


無茶苦茶いい匂いがした!


それだけでもう訳がわからなくなって。


あれを無自覚でやっちゃうんだから本当に困った人だ。


あいつの事などすっかり頭から抜けて、幸せな気分だけが私の心を満たしている。


さぁ、この気持ちのまま急いでお店に戻らなくっちゃ。


探索のお手伝いってことは駆け足香に集中香、それに魔除けも準備しておかないと。


せっかく教えてもらったんだから用意しておかないと迷惑かけちゃう。


それだけは避けないと。


にやけた顔を引き締めて私は店まで急ぐのだった。

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