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調香師アリアの異世界恋物語  作者: エルリア
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第三話

「はい、沈静香。」


「ありがとう、ごめんねこんな朝早くから。」


「ううん大丈夫。それよりルーちゃんは時間大丈夫?」


「早めに出たからごはんする時間ぐらいはあるよ。あ、そうだ先に御代渡しておくね。」


約束どおり朝一番にルーちゃんは店にやってきた。


頼まれていたのは沈静香。


昨夜のうちに仕込んだヤツはちゃんと朝になったら固まっていた。


ルーちゃんみたいに事前に何を作るか教えてもらえると色々と助かるのよね。


本当は在庫しておくのが良いんだけど、あまり置いておくと湿気っちゃうし効果も落ちる。


だから出来るだけ新鮮な奴を渡してあげたいんだ。


因みに沈静香の材料に使われているラベルーの花には人の心を穏やかにする効果があるので、冒険者ギルドだけじゃなくてたくさんの場所で使われている。


本当はもっとすごい人が作ったやつのほうが効果は高いんだけど、下手に静めすぎても良くないんだって。


だから私みたいなのが作ったやつの方が色々と都合がいいみたい。


喜んでいいのか微妙だけど頼りにされるのはやっぱりうれしいよね。


手渡された封筒はいつもより重かった。


悪いとは思いつつ中身を空けると、手のひらに銀貨が3枚も転がり出てくる。


「え、多くない?」


「二ツ森の話はしたわよね、そのせいでラベルーの花も値上がりしてるの。だから適正金額よ。」


「ふーん、そっかぁ。」


「だからって一人で森に行っちゃダメだからね。」


う、私の行動なんてお見通しとばかりにルーちゃんが釘をさしてくる。


お金になるなら集めに行きたいんだけどなぁ、素材屋で買うと高くつくし、今日ので材料は全部つかっちゃったし。


「ちょっとでも、ダメ?」


「ダメ。ほら、ご飯行くよ。」


「は~い。」


年は近いけれどルーちゃんのほうが二つ上。


たった二つしか違わないのに、私にはルーちゃんがとっても大人びて見えてしまうんだ。


私もこんな風に余裕を持ってみたいけど、毎日が必死すぎてそんな余裕なんて出来そうもない。


「おはようございますルゥルさん、アリアさん。」


「おはようございますマスター。」


「お二人一緒だなんて珍しい、何かありましたか?」


「朝からお仕事がんばったんです。あ、今日も大盛りで!」


「今日もって、もうアリアったら。」


え、朝からいっぱい食べるのってダメ?


食べないと元気でないしいい仕事が出来ないと思うんだけど。


きょとんとする私を見てマスターがうれしそうな顔をする。


そういえばルーちゃんは私と違って少ししか食べないし・・・、もしかして大人の余裕はそこからきているの?


「え、じゃ、じゃあルーちゃんと同じで。」


「いいんですよ、朝はいっぱい食べたほうが元気が出ますから。すぐに用意します、どうぞかけてお待ちください。」


ほら!マスターがこういうんだから間違いないよね!


いつもの場所に座るとすぐにマスターオリジナルブレンドの香茶が運ばれてきた。


イオニスみたいなうるさい人がいないだけでこんなに優雅な時間を過ごせるなんて。


なんだろう、ちょっと大人になったみたい。


「そういえばアリア、他のお仕事はどうなの?」


「んー、いつも通りかなぁ。あ、でもこの前ラインハルトさんが魔物避けを注文してくれたの。騎士団の演習のときに使うんだって。」


「え、すごいじゃない!」


「うーん、確かにすごいんだけど騎士団って言うか個人的に注文してくれたみたいなんだよね。」


「それでもお仕事はお仕事でしょ。沈静香だってちゃんと効果があるから使ってるのよ、そうじゃなかったらギルドからお金なんて下りないんだから。」


「そうかなぁ。」


みんな私が大変なのを知っているから注文してくれているような気もする。


でもそういうお仕事がないと食べていくのもやっとなんだよね。


夢を見て王都ここに来たけれど、現実はまだまだ厳しい。


でも一人じゃない。


ルーちゃんもいるしラインハルトさんもいるし、あ、一応イオニスもいるしね。


「そうですよ。使えないものにわざわざお金を出す人はいませんから、私だってこの前作ってもらった鎮痛香に助けられています。」


「本当ですか?」


「えぇ、きついお香を使うと味覚や嗅覚が鈍ってしまいますがアリアさんのお香は痛みだけを和らげてくれます。貴女にしか出来ない仕事です、だから安心してお仕事をしてください。さぁ、どうぞ。」


疑心暗鬼の私をマスターもルーちゃんも優しく見守ってくれる。


そうよね、クヨクヨすいるのは似合わない。


せっかく皆がお仕事をくれるんだから、いっぱい食べて元気になってがんばらないと!


「いただきます!」


「はい、召し上がれ。」


「そんなに急いで食べるとのど詰まるわよ。」


「大丈夫大丈夫!」


大盛りのサラダを口いっぱいに頬張りながらルーちゃんとの楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。


もちろん、それで終わりじゃない。


心配してくれたルーちゃんには悪いけどやっぱり採取にいくつもり。


お店がそんなに儲かっていないからこそ出来るだけ自分で動かないとね。


街の外へと向かうと、今日もラインハルトさんが門番をしていた。


すぐに私に気付いて優しい笑顔を向けてくれる。


こういう所がイオニスと違うんだよね。


かっこいいなぁ。


「おや、アリアさん今日も採集ですか?」


「はい。今日は一人なのであまり遠くまでは行かないつもりです。」


「二ツ森の魔物は駆除されていません、出来れば一人で行くのは避けてもらいたいのですが持ち場をを離れるわけには行かないんです。」


「ラインハルトさんも大変ですね。」


「昼過ぎに討伐隊が出発しますから、それまではくれぐれも森の奥に行かないで下さいね。」


「はい!」


今日の狙いはラベリーの花とポムの実。


値上がりしている今だからこそいっぱい集めて材料を確保しておきたい。


これだけならそこまで奥に行かなくても手に入るし、私一人でも大丈夫。


とはいえ、おまじないは必要だよね。


街道を出て少し行ったところでちょうどいい石を見つけたのでその横にかばんを降ろした。


風よし、人なし、大丈夫。


小皿を設置してそれぞれにお香を乗せて火をつける。


昨日イオニスに使ったのと同じ、駆け足草を乾燥させて作ったお香。


「駆けるは風の如く、その身を素早く動かせ。」


立ち上った煙が私を取り囲むように集まり、かすかに感じるけだるさと共に霧散する。


疾風香の効果は素早さの向上。


今日は早く集めて早く街に戻ってこよう。


ご飯もしっかり食べたし、大丈夫。


「さぁ、がんばろう!」


もうすぐ月末。


今日がんばれば明日がもっと楽になる。


自分の為にも今出来ることをがんばらないと。


一ツ森はすぐそこ。


気合を入れて私は街道を走り始めた。

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