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調香師アリアの異世界恋物語  作者: エルリア
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第十三話

あの後もイオニスは粗暴な冒険者たちについてあちらこちらに行っているみたい。


最初程ではないけれど、傷を負ったまま戻ってくるのを見たことがある。


それでもイオニスは俯くこともなく必死に前を向いていた。


だから私は何も言わないし、彼の頑張りをただ見守る事しかしない。


というよりもそんな余裕がなかったって方が正しいかな。


「アリア、行くわよ。」


「すぐ行く!」


「まったく、こういう時なのに採集採集って。まぁアリアらしいんだけどね。」


「えへへ。」


「無駄口をたたくな、そこの調香師いい加減にしないと置いていくぞ。」


あー、怒られちゃった。


でもそこに取り放題の素材があるのに置いて帰るなんて、勿体ないじゃない?


ここ数日手付かずの二ツ森。


そのおかげでそこら中ポムの実とポムの実とポムの実ばっかり!


でも拾っているのって私だけなんだよね。


何でだろう。


「止まれ!」


「っとと。」


「大丈夫ですか、アリアさん。」


「有難うございますラインハルトさん。でも、どうしたんでしょう。」


「恐らくは魔物の痕跡を見つけたのでしょう。ここは彼らの住処とかしています、油断は禁物どうか足元のポムの実も拾わぬように、というのは無理ですね。」


「えへへ、つい。」


倒れそうになったのをラインハルトさんが助けてくれた。


こういう時さりげなく助けてくれるのは本当に助かる。


この間の人が言っていたように、聖騎士団の行軍はこのすごく早い。


だから私も駆け足香を使っているけれど、使ってやっと追いつけるぐらい。


他の調香師の皆さんも随分としんどそうだ。


あ、そうかだから拾う余裕がないんだ。


「そろそろ駆け足香が切れる頃ですね、今のうちに使っておきますか?」


「そうですね、調べるのに少し時間が掛かりそうですし。」


「あ、駆け足香!?アリア、私にもしてー。」


「もぅ、仕方ないなぁ。」


待っていましたと言わんばかりに先頭からルーちゃんが走って来た。


かなりの距離があったはずなのにいったいどうやって聞きつけてきたんだろう。


まぁ、いいんだけどね。


「ラインハルトさんもよろしければどうぞ。」


「いいのですか?複数人は魔力を使うのでは?」


「三人ぐらいなら大丈夫です、この間みたいにはなりません。」


「では遠慮なく。アリアさんの香は後に残りませんから助かります。」


「それじゃあ準備しますね。」


向こうで地面を調べている間にささっとお香を準備。


この間は10人以上に香を使ったせいで倒れちゃったけど、三人なら特に問題なし。


駆け足香を四方に置いて、その中央に三人寄り添うようにして座る。


あ、ルーちゃん香水変えたんだいい匂い。


ラインハルトさんは、いやいや、何考えてるの私。


「駆けるは風の如く、その身を素早く動かせ。」


私の言葉に反応するように香の煙が私達を包み込み、そして風に吹かれたように消えていく。


代わりに私の体から何かが抜けていく。


大丈夫、これぐらいなら我慢できる。


「アリア?」


「ん?終わったよ。」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫です!これぐらい、ちゃんとご飯いっぱい食べてきましたから!」


少しだけふらつく足に力を入れてグッと耐える。


すぐにポケットからマジックベリーを取り出して口に放り込んだ。


気持ち程度だけど魔力を回復できる不思議な実。


あんまり美味しくないんだけど、我慢我慢。


「よし、痕跡は向こうに続いている。もう少し進行した後我々は散会して周辺の探索にあたるぞ。第四騎士団は調香師並びに治癒師の警護にあたれ、冒険者は周囲の魔物を駆逐良いな?」


「「「「「応!」」」」」


「よし、進むぞ!」


どうやら魔物の痕跡を見つけたみたい。


これで見つかればいいんだけど、前回も同じような感じで結局見つからなかったのよね。


魔獣種、それも二足歩行の魔物だという事はわかったけど具体的にはわからずじまい。


ラインハルトさんの読み通りだとおもうんだけどなぁ、あの爪の跡とか。


「ねぇルーちゃん。」


「どうしたの?」


「あの爪、熊よね。」


「絶対とはいけないけどそうね。」


「あれだけじゃわからないんだ。」


「熊っぽい魔物ってだけでも何種類もいるんだもの、仕方ないわよ。」


そういうものなんだろうか。


熊ってわかるだけでもそれ用の魔除け香を作れるのに勿体ない。


あ、そうか避けちゃダメなんだ。


じゃあ寄せる?


でも他のクマが来るかもしれないし、やっぱり地道にやるしかないみたい。


それから一時間ぐらい奥へと進んだ所で私達調査隊はぽっかりと開いた穴を見つけた。


どこからどう見ても熊の巣穴。


「全軍停止、各自警戒を怠るな。調香師は急ぎ全員に香を掛けろ、武香守香なんでもいい、かけられるだけかけろそれが仕事だ。」


「ほら、さっさと行くわよ。」


「は、はい!」


先輩調香師さんに言われて私も急ぎ準備に入る。


本当にこの穴の中に魔物がいるのなら、戦いはかなり激しくなる。


戦いに赴くあの人達を守り奮わせるのが私達の仕事、休んでなんていられない。


とはいえ、私みたいな下っ端は騎士団のみなさんじゃなくて冒険者にだけど。


でも今はそのほうが嬉しかった。


「イオニス。」


「とびきりのやつ頼むな。」


「くれぐれも無茶しないでよ、怖かったら逃げてお願いだから。」


「魔物が怖くて冒険者が出来るかよ。」


久々の会話。


この前の調査の時も一緒だったけど話をすることはなかった。


大変なはずなのにイオニスは笑っている。


なら、そんな彼にかける言葉は何もない。


なんて嘘、無茶苦茶ある。


「死んだらダメ、ケガしてもダメ、戦…うのは仕方ないけど弱いんだから隅っこの方にしなさい。わかった!?」


「なんだよそれ、弱虫じゃねぇか。」


「それでいいの、だってイオニスだもん。背伸びしないでいいのに。」


「うるせぇ、いいから早くかけてくれよ。」


別の調香師に香をかけてもらっていた先輩冒険者がイオニスを急かす。


時間がないなら私にできる最高の香を焚かないと。


「守るは亀の甲羅如く、その身を硬く守護せよ。」


戦いに行く、でも死んでほしくない。


その願いを一心に込めて香を焚いた。


「行ってらっしゃい!」


「おぅ!任せとけ!」


バシっとイオニスの背中を叩いて送り出す。


それが私にできる数少ないことの一つ。


でも、あまりに集中しすぎたせいで一気に魔力が減っちゃった。


貧血のように目の前が少しずつ暗くなっていく。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫です。」


同行した別の調香師さんに倒れそうになる体を支えてもらって何とか耐える。


ちょっとやり過ぎたかも。


でもあれならイオニスも大丈夫のはず。


どんな魔物が出てきても、死ななかったら何とかなる。


何とかなるんだから。


「準備は出来たな。先人は我々が切る、冒険者はその後に騎士団はここに残り警戒を怠るな。総員行くぞ!」


戦いが始まる。


そう覚悟して残された私達はし静かにその場で待った。


待って待って・・・あれ?出てくるの早くない?


「・・・もぬけの殻だ、外れだな。」


トボトボと突入した皆が洞窟から出てくる。


その間わずか五分。


え、えっと・・・。


「各自休憩した後撤退するぞ、この近辺はもういないようだ。」


「では二ツ森にはもう・・・。」


「わからん。くそ、我々をここまでコケにしおって。」


「でも困ったわね、ここにいないとなると一ツ森?でもあそこは魔素が薄いから。どう思うアリア。」


「え?あ、ごめん聞いてなかった。」


皆が難しい話をしている横で、私は近くに落ちていた薬草やらポムの実やらを探していた。


だって休憩でしょ?


帰るんでしょ?


じゃあ持って帰らないと。


そんな私を見てルーちゃんは何とも優しい目をしたのだった。


もちろん聖騎士団の人には怒られたけどね。

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