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調香師アリアの異世界恋物語  作者: エルリア
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第十話

「美味しー!」


「初めて来るけどこの味は癖になるわ。」


「でしょー、お客さんから聞いたんだけど最近出来たばかりなのに結構有名みたい。」


晩御飯にお呼ばれして向かったのは裏路地をちょっと入った所にある少し汚い料理屋さん。


でも汚いのは見た目だけで、中は綺麗だし料理はボリューム満点で美味しいしでなくなった魔力なんてあっという間に回復出来ちゃいそう。


お肉、お肉美味しいよお肉。


「アリア、もう少しゆっくり食べたら?」


「だって美味しいんだもん。」


「気持ちはわかるけど、女の子なんだから。」


「あ、ごめん。」


「いいのよアリアはこのままで。」


「そうやってルゥルはすぐにアリアを甘やかすんだから。」


クーちゃんが仕方ないっていう顔ではしゃぐ私を窘める。


ルーちゃんは私を庇ってくれたけど、そうだよね女の子なんだからもっとお淑やかにしないと。


上がってしまったテンションを一度下げて、今度は丁寧に料理と向き合う。


さっきまでは美味しいで終わっていたけれど、ゆっくり食べるとスパイスがしっかり効いていて肉の臭みが消えて食べやすくなっていることに気が付いた。


これはストロングガーリック、それともペパペッパーかな。



噛めば噛むほどにワイルドカウの味が染みてきて、やっぱり美味しい!


「美味しい?」


「すっごく美味しい。お酒にもよく合うし、これ家で作れないかなぁ。」


「出来なくはないと思うけど、食べに来た方が早いんじゃない?」


「そうだけど、好きな時に食べられたら嬉しくない?」


お店の人には申し訳ないけど、食べに来るとやっぱり高くついてしまう。


その点自分で作れば安上がりだし、この味付けは癖になる。


えーっと、他には・・・。


「なんだ可愛い子ちゃんが三人もいるじゃねぇか、ちょっとこっちに来いよ。」


三人で楽しく食事をしていると、二つぐらい離れた席にいたいかにもって感じの冒険者が声をかけてきた。


顔を真っ赤にして近づかなくても酔っぱらっているのがわかる。


最初は無視していたんだけど、今度は向こうのうちの一人がこっちにやってきた。


「なんだよ、無視すんなよ。」


「私達三人で食べたい気分なので、お断りします。」


「あぁ!?女風情が男に指図しようってのか?いいから来いよ!」


「あ、ちょっと!」


クーちゃんが丁寧に断ったのにそれが気に食わなかったのか、その男はクーちゃんの手を強引につかんで引っ張り上げた。


慌ててルーちゃんが立ち上がると、そいつはこの前のあの男のように上から下にいやらしい目で体を見てくる。


「お前もいい体してるじゃねぇか、そっちの細いのはそうでもないから別に来なくていいぞ。」


「おいおい、残すとかわいそうだろ。」


「そうだそうだ、こっちで可愛がってやるからよぉ。」


下品な笑い声がお店の中に響く。


助けを求めようと他の人を見たけれど、皆見てみぬフリどころか笑ってさえいるし給仕の女の子は怖がって来てくれそうもない。


そうだよね、怖いよね。


でも私が何とかしないと。


「あ、あの、やめてください。嫌がってるじゃないですか。」


「んだと!女はなぁ、男に呼ばれたら四の五の言わずについて来りゃいいんだよ!それしか脳がねぇんだからよ!」


「そんなにビビらなくたって大丈夫だって、可愛がってやるからよぉ。」


「そうそう。いいから早くこっちで酒をつげって言ってんだ。さもなきゃ・・・。」


男が再びクーちゃんの手を強く引っ張り上げる。


悲鳴は上げないけど痛そうな顔をするクーちゃんを見て、空気が変わった。


あ、やばい。


やばいのは私達じゃなくてこの人。


だってルーちゃんが今にも手を上げそうで・・・。


「おい、嫌がってるんだからやめろよ。」


突然誰かが男の手を払い、私達の間に割ってはいる。


え、誰?と思ってみたらまさかの人物だった。


「イオニス!?」


「なんだてめぇ!」


「俺の知り合いにちょっかい出すなって言ってんだよ。あんただってこの三人には世話になってるんだろ?」


「せわぁ?下の世話はまだしてもらってねぇけどなぁ。」


下品な笑い声と共に酔っ払っている男がもう一度私達を見てくる。


すると、さっきまでヘラヘラしていた目が、大きく見開かれた。


「誰かと思ったらギルドの姉ちゃんじゃねぇか、それにこっちは素材屋の女か。もう一人は・・・誰だこいつ。」


「そんなやつしらねぇなぁ。」


「どうでもいいだろ、乳は無いし尻だって揉み応えなさそうだ。」


「「げははははは!」」


どうせ私は知名度も体も貧相ですよ!


相手にされないどころか女として見られないのが悔しくて、思わず唇をかんでしまう。


でも、そんな私をみたルーちゃんが再び拳を握るのが分かった。


イオニスが割って入ってくれたおかげでさっき何とかなったけれど、それでもルーちゃんの怒りは収まっていない。


横にいるだけで分かる、ものすごい怒ってる。


仕事柄こういう人たちを相手にするのは慣れているけど、『女だから』って馬鹿にされるのは許せないんだよね。


怒ると本当に怖いんだから。


「いいからさっさと行けよ、マジでヤバイことになるぞ。」


「何がやばいんだよ。お前みたいなひょろっひょろに何が出来るって?俺達に喧嘩売ってタダで済むと思ってんのか、あぁん!?」


「じゃあどうなるか教えてもらおうじゃないか。」


一触触発。


そんな言葉がぴったりの状況でまた誰かが助けに入ってくれた。


「げっ。」


入ってはくれたんだけど、それは出来れば見たくなかった顔をしている。


「何だよその反応は。」


「お前、金貸しカーマインか。」


「よく知ってるな、もしかして俺の元客・・・なんてそんなわけ無いよなぁ。お前らみたいなクズに貸す金なんて銅貨1枚も無いんだから。」


「この野郎調子に乗りやがって!」


男のほかに後ろにいた二人も勢いよく立ち上がり、椅子が床に転がっていく。


こうなったらもう誰にも止められない。


「女に構ってもらえず更には止めに入った男に殴りかかる。三流のする事は所詮三流、哀れ吠える事しか出来ないってか。」


「うるせぇ!そのスカした顔、今日こそボコボコにしてやるぜ!」


「やれるもんならやってみろ。ただし彼女を止められるならな。」


殴りかかろうとしたちょっかいを出していた冒険者が、突然方向を変え店の反対側に転がっていく。


それを見た仲間が信じられないという顔で吹き飛んだ奴と私達、いやルーちゃんを交互に見た。


「お膳立てどうもありがとう。でも、こういう時は自分で何とかするところじゃないかしら?」


「そんなことしてその怒りが収まったのか?」


「まぁ、それもそうね。」


「そっちは相手を殴りたい、俺は客を守りたい。よかったなアリア、いい友達がいて。」


「ルーちゃん大丈夫!?」


「って無視かよ。」


アンタなんてどうでもいいのよ。


そんなことよりもルーちゃんのほうが心配なの!


「私は大丈夫、ありがとうアリア。」


「まぁルゥルにしては我慢したほうよね。それとありがとうイオニス君。ほら、アリアもお礼言わないと。」


「いや、俺は別に何も。」


「ありがとうイオニス。」


誰も助けに来てくれない中で颯爽と現れて、まるでこの前のラインハルトさんみたいだった。


まぁ、ちょっとへっぴり腰だったけど。


それでもかっこよかったことに変わりはない。


「おい、俺にお礼は無いのかよ。」


「なんでお礼を言わなきゃいけないのよ。」


「でも一応助けに入ってくれたわけだし、一応言っておいたら?」


「ルーちゃんがそういうなら・・・。」


こんな男にお礼を言うつもりなんてさらさら無かったんだけど、他でもないルーちゃんがそういうのなら仕方が無い。


不満そうなカーマインに向けて仕方なくお礼を言おうとしたその時。


「このアマァァァ!」


「覚悟しやがれ!」


「女の癖に調子に乗りやがって!」


男達が武器を抜いて怒鳴りながらこちらに向かってきた。


さすがに武器を抜くのは予想外。


どうしようとあわてた次の瞬間。


「どのような状況か知らないが武器を抜いた時点でお前達の負けだ、私闘禁止並びに王都内での抜剣違反で捕縛する。」


店に入ってきたのは純白の鎧を身に着けた男の人。


その後ろから大勢の同じような人たちがやってきてあっという間に三人を縛り上げてしまった。


彼らの身に着ける鎧の中央には見覚えのある竜の紋章。


「すげぇ、聖騎士団だ。」


イオニスがまるで子供みたいに目を輝かせながら小さく呟いた。


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