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旦那様は知らない

王宮の食堂で、王と王妃は向かい合っていた。

そして、この後、王はつい先日固めた決意をいとも簡単に、王妃によって崩されることになる。


「ふぅ、ようやく準備が整いましたわ!ということで、パーティーを開きましょう!」



反対側に座る王に、愉しそうに王妃が言う。一方、王妃の侍女達は一部を除いて、王に哀れみの視線を送っていた。おいたわしや、と視線が語っている。



「すまないのだが、私に何がということ、なのかわかるように説明してくれないだろうか」


王妃の言葉に引っ掛かりと嫌な予感を覚えた王は、王妃に説明を求めた。


「あら、そうですわね。ちゃんと説明しなくてはいけませんでしたわ。申し訳ありません、旦那様。実は私、旦那様の為に側室の候補者様をお呼びしてパーティーを開いたら良いのではないかと思いまして、準備していたんですの!」


王妃の突然過ぎる発言に、王は目眩をおぼえたが、ここで流されるわけにはいかないと気を強く持つことにした。そして、勇気を振り絞り、王妃にもう一度問うた。


「すまない、理解が追いつかなくて…もう一度言ってくれるか」

「ええ、ですから、旦那様の為に私、寵妃になるに相応しく、旦那様の好みにあった方々をお呼びしてパーティーを開こうと思っておりますの」


王の勇気は王妃には届かず、王妃は美しく、愉しそうに、無邪気に、王の決意を砕いてゆく。それはもう、粉々に。



「そんな必要は無い」

「………どうしてですの?」


まったく理解出来ないと言うように、王妃は首を傾げる。

首を傾げるその姿はとても可愛らしく、王はつい許してしまいそうになったが、王の中の危機管理能力が正しく働いたため、王妃の言葉を否定した。


「王妃、私の妃はそなただけだ」

「まぁ…我慢なさらずともよいのですよ?それに、せっかく乗り気になっていただいたのに…」


王妃のその言葉を聞いて、王はふと、思い出してしまった。

王妃が、王は男色であると勘違いしていることを。


そして、王は知ってしまった。

どうやら王妃が選んだ王の側室候補者は乗り気であるらしいと。


「ま、待て、アシュリー、誰が乗り気なんだ…?」

「あら…うふふ、誰だと思います?実はですね、神官のサジェス様と、特殊部隊のオルセル様、それと――」

「サジェス…?あのおかし…変わっ、個性的な、あれか?」

「旦那様、あの方はオネエさんですからね。レディですよ。あ、彼女は甘い物が好きみたいですわ」



王妃があげた名に聞き覚えがあった王は、記憶を探り、思い当たる人物を見つけ、眉をひそめた。

ピンクや赤といった、派手な色よりも、真っ青ないかにも聖職者です、といった色の似合う人物。ご令嬢方からは“青薔薇のお姉様”と呼ばれている、変わった人物であったからだ。



「いや、しかし…あれが私の横に列ぶのだぞ?君は、その、どう、なんだ…?」

「美しいと思いますわ…!まず最初に、あの方のお召し物は青などの寒空の美しさを持ったお色、旦那様のお召し物は赤や橙といった暖かみのあるお色で、列んでいる姿はそれはもう美しくて…!」


瞳を輝かせ、胸の前で両手を握り王妃が力説する。

その様子を見た王は、そっとため息を吐いた。



「いや…そういう話ではなくてだな?」

「あら…ではどういうことなのでしょう」

「だから、君は嫌ではないのかと聞いているんだ」


何故伝わらないのかとモヤモヤとしながら王は王妃に問いかける。

壁の隅で待機している使用人達は一部を除いて、王を秘かに応援しつつ、王妃と王を緩く暖かな目で眺めていた。


「イヤ…?嫌なわけがありませんわ!別に離れて暮らすわけでもありませんし、美しいものを見るのは好きですもの。それに、私、毎日旦那様のお顔を見ることができればそれで十分ですわ。なので、安心してデートなさってくださいませ!」



唐突に落とされた王へのご褒美(デレ)に王は戸惑ったものの、すぐに目の前にいる王妃を幻のものだと思い、一人納得したように頷いた。



「まぁ、良かったですわ!それでは早速彼女に連絡いたしませんと…!」

「……、まて、なんの話だ」

「ですから、彼女とデートなさって頂けるのですよね?」

「え……?」



こうして、王は自ら墓穴を掘ってしまったのであった。

わくわくとした表情で料理人ヘ美味しかったと微笑み、王妃は侍女ヘレターセットを用意するように伝えると、王へ最大級の笑みを浮かべた。



「大丈夫ですわ!私が調べた資料を使えば!僭越ながら私もお手伝いさせて頂きますから安心してデートなさってくださいませ」


その姿を見て、王はまたため息をついた。

王とて、自身が王妃に流されている自覚がないわけではなかったが、しかし、王妃の暴走を止めることの出来ないヘタレである自覚もあったため、王はただ、穏便に事を済ませる方法を考えるのみであった。


隅に待機していた使用人達


「陛下…おかわいそうに…」

「あれは伝わってませんねー」

「はやく離婚しろ」

「出たよ王妃様の過激派」

「陛下の一番の敵って妃殿下のお兄様ですよねぇ」

「王妃様がお手紙を出す日にちが遅れたり、王妃様が蔑ろにされているような内容だったりしたらすぐに軍が来るんでしたっけ?洒落になりませんよねぇ」

「王妃様大事!」

「過激派、つまり離婚されると私達死ぬんだけどさ、どうしてくれんの」

「亡命の手伝いくらいは致しますよ」

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