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リリアの職業体験


「頼もしいな。よし……お腹も膨らんだし、それじゃあ早速始めるか」

「は、はい!」


 レインがそう言うと、リリアは立ち上がってやる気を見せる。

 このやる気はレインも見習いたい部分だ。一緒にいると何だか元気が出てくる。リリアが隣にいてくれると、作業効率などではなく違った分野で役に立ってくれそうだった。もちろんそれは客に対しても同じ。愛想が良いというのはそれだけで才能である。


「まずリリアには売り上げの管理をお願いしていいか?」

「任せてください!」


 レインとリリアは、午前に構えた簡易的な店に戻る。

 そして、リリアは初めてその内側に入った。外からはカーテンで遮られて見えなかったが、意外とシンプルな造りだ。


 一応二人いても歩けるくらいのスペースはある。リリアが任されたのはここでの売り上げ管理。いわゆる裏方仕事である。

 初陣にしては丁度いい。ここでレインに自分はデキる女というところを見せないと。リリアは改めて気合を入れた。


「あ、レインさ~ん! これくださいな!」

「レイン君! 私も私も!」

「これ欲しいわ! 早く早く!」


 店を開くや否や、爆発したかのように客が押し寄せてくる。このことはもちろん想像していたが……現実はその想像を優に超えてくる。

 どんどんリリアの元にくるお金に、どうしても手が追いつかない。


 次から次に流れてくるお金。しかも、通貨が全て同じわけではない。見慣れたものもあれば、見たことのないものも。それを分けるだけでもかなり大変だ。リリアがアワアワしていても、流れが止まるわけでもなくむしろ早くなってくる。

 遂には売り上げを数え切れなくなった。キャパオーバーである。


「レ、レインさん――あっ⁉」


 リリアがレインに助けを求めるため動くと、足元にあった商品に躓いて持っていたお金を床にばら撒いてしまった。

 これは……まずお金を拾わないと。いや、商品が壊れていないかチェック? いやいや、最初にレインさんに謝らないと。

 リリアの頭の中がパニックになる。


「ちょっと待ってくださいね。リリア大丈夫そうか?」

「あ、あの、す、すみません!」

「大丈夫。これくらいなら全然ミスじゃないよ」


 レインはリリアと一緒にお金を拾うと、手の感覚でどの通貨が何枚あるかを確認する。そして、リリアの代わりにそれをまとめた。

 最後に商品が壊れていないことを確認すると、あっという間にレインは客の対応に戻った。

 まるで魔法でも使ったかのようだ。


「わ、私、レインさんの邪魔をしてしまいました……」

「俺なんてもっと大変なミスをしたことあるよ。それに、リリアはやっぱり裏方仕事じゃもったいないかも」


 レインは落ち込んでいるリリアの頭を撫でて慰めると、一つの提案をする。


「このプラカードを持って、並んでいる人たちが揉めないようにしてくれるか? リリアなら客の呼び込みもできるはずだから」

「呼び込み……ですね! 分かりました!」


 リリアはレインからプラカードを受け取ると、店の隣に堂々と立つ。

 プラカードには『営業中』の文字が。客を呼ぶくらいなら素人のリリアでも何とかできる……と思う。

 さっき足を引っ張ってしまった分、どうにかここで取り返さないといけない。

 リリアは大きく息を吸った。


「しっかり並んでくださーい! 押さないでくださいねー!」


 リリアはプラカードを持ちながら客の波を整理する。

 今は変装している姿ではなく、いつも通りの吸血姫リリアの姿。あの吸血姫がアルバイトのような仕事をしているのだから、周囲の視線は一気に彼女に向いた。


 珍しいもの見たさで近寄ってくる者たちもいれば、数名だが逃げ出していく者もいる。もちろん前者の方が圧倒的に多い。


「え⁉ 吸血姫様⁉」

「うそうそ! 生で初めて見た!」

「レインさんの店で何か買えば握手できるみたいよ!」


 リリアが表に登場したことによって、色々な意味でレインの店は盛り上がる。寄ってくる者が増え、それによって店の売れ行きも上がっていく。


 一部、よく分からない噂が流れていたが、リリアはサービスで数名の客に握手をしてあげた。別に握手なんて求められたら普段からしてあげるのだが、今回はレインの売り上げにも繋がるため黙っておこう。


(あ! もしかしたら、レインさんはこのことを見越して私を表に出したのかも。裏仕事じゃもったいないって、そういうことだったんだ)


 リリアはハッと気付いたように口元に手を当てた。

 確かに裏でミスをしながらコソコソと作業をしているよりは、こうして顔を出してアピールした方がレインのためにもなる。適材適所というやつだろうか。きっとレインにはこうなることが見えていた。


「リリア様握手してください!」

「いいですよ~。またお願いしますね♪」

「はい! 絶対また来ます!」


 リリアと握手をして、ホクホク顔で帰っていく客たち。握手していない方の手にはレインの店で買った商品があった。

 二時間ほど時間を忘れるくらい必死に仕事をしていると、段々客の数も落ち着き始める。あくまで体感だが、いつもの倍くらいは客がいた気がした。


 とにかく役に立てて良かった……とリリアは安心する。


「おう、レイン君。お疲れ! 今日はやけに繁盛してたねぇ!」

「あぁ、久しぶりです。今日は本当に多かったですね」


 そんな時に、また新しい客(?)が店にやってきた。タンクトップで筋肉を余すことなく見せつけているオークだ。髪の毛……というか体毛をモヒカンのようにして、とてもファンキーな印象。レインと話している様子を見ると、かなり仲が良さそうに思える。


 レインがこうして自分たち以外の友人と話しているところは珍しいため、リリアは二人の様子をずっと眺めていた。

 すると、オークはリリアに気付いたのかレインをニヤニヤしながら見る。


「なんだ、レイン君。良い嫁さん見つけたな!」


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