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単独行動



「空……すごい」


 リリアの館へ移動中。

 アルナはティアラの背中で興奮するように呟く。

 

 ドラゴンと一緒に飛ぶのは、魔王であるアルナでさえ初めての経験だ。

 一応自分の力で空を飛べなくはないのだが、ここまでスピードも高さも出すことはできない。


 流石竜姫。

 機動力なら圧倒的に上である。


「アルナ……よく立っていられるな」

「簡単だよ? レインのバランス感覚が悪いだけ」

「そう言われると言い返すこともできないよ」


 レインはなかなかに厳しい意見を貰うが、反論しても無駄だと悟ってそれを受け入れる。

 空を飛ぶティアラの背中で、アルナのように直立できる日はくるのだろうか。


 少なくとも、今は目を開けるだけでも精一杯だ。


「で、レイン。人間がいたら攻撃していいの?」

「ああ。どうせあっちから攻撃してくるだろうからな」

「相当嫌われてるんだね」


 アルナは改めて作戦の確認。

 人間がいたら攻撃する――ただそれだけ。


 至って単純な作戦である。

 ……もはや作戦と言えるかすら怪しい。


「売国者として追放されたからな……もうどうしようもないよ」

「誤解は解けないの?」

「無理だな。話し合いにすらならないさ」


「ならアルナが人間たちを説得してあげる。力で」

「……期待しとくよ。逆効果になりそうだけど」


 アルナなりの優しさ。

 どうにもならない現状をどうにかしてあげたい――その気持ちは痛いほど伝わってきた。


 アルナは何をするか分からないという点に目を瞑れば、ただの優しい女の子だ。

 だから、レインの状況を考えて接してくれる。


 魔王であり、かつてノリで国を丸ごと崩壊させたりしたことが玉に瑕なのだが。


「レインさん! 見えてきましたよ! 館はかなり攻め込まれているみたいです!」


 そんな時。

 レインの前で様子を確認していたリリアが振り返る。


 まだレインの視力(目を開けるのも精一杯)では確認できないが、もう人間たちの侵攻は始まっているようだ。


 今回の人間たちはやはり一味違う。

 今までのスピードでは考えられないほど速い。


 人間たちの本気度がレインにも伝わってきた。


「アルナ、見えるか?」

「もちろん」


「あそこにいる人間たちが敵なんだけど……大丈夫そうか?」

「じゃあ行ってくるね」

「え? 行ってくるって――」


 アルナはそう告げると。

 ティアラの背中から飛び込むようにジャンプした。


 そしてそのまま。

 重力に従って超スピードで落ちていく。


 まさかここで単独行動を選ぶとは。

 いかにもアルナらしい選択だ。


 ……なんて考えている場合ではない。


「ティアラ! アルナを追いかけることはできるか!」


『少し待て。急に言われても困るのだ』


 ティアラは安全に着地できる場所を探していたようだが、そのプランを全て捨ててアルナを目で追う。

 この巨大な体で、空中の方向転換はかなり難しい。


 ティアラは慣れない動きに四苦八苦しながら、レインを振り落とさないように慎重な動きでアルナを追いかけるのだった。



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