魔王のところへ
「ま、魔王のところですか!?」
「ああ。緊急事態だからな」
リリアは予想通り驚いた顔をする。
魔王。
それは、この世界に住む者なら誰でも聞いたことがある名前だ。
その姿を知る者は少ないと聞くが、まさかレインはそんな存在とも知り合いだったなんて。
リリアも当然魔王の顔を見たことはない。
あまりにも凄すぎる人脈に、レインへの眼差しは尊敬の念が含まれていた。
「わ、私が行っても大丈夫なんですかね……? 魔王については噂しか聞いたことがありませんが、逆に攻撃されちゃうのではないでしょうか……」
「それは大丈夫。そういうことをするヤツじゃないのは確かだ」
「そ、そうですか! なら良かったです!」
リリアはホッと胸をなでおろす。
レインも初めて魔王に会う時は同じような気持ちだった。
魔王という名前に委縮してしまうのも無理はない。
リリアでもこのような反応をするのだな――と、少しだけ親近感が湧いたくらいだ。
「でも、突然押しかけても良いのでしょうか。何か菓子折りでも用意した方が――」
「時間がないんだろ? そんなこと言ってないで行くぞ。ティアラも呼ばないと」
刻一刻と迫るタイムリミット。
もう悩んでいる時間はなかった。
レインはリリアの手を取ってティアラを起こしに向かう。
「ティアラ! 魔王のところに行くぞ!」
「うむぅ……? これはまた唐突だな……」
レインによって叩き起こされたティアラは、眠そうに目を擦りながら起き上がる。
ティアラがいなければ、魔王のいるところまで向かうことはできない。
それを分かっているレインは、ゆさゆさと体を揺すって無理やり眠気を吹き飛ばした。
「今は敵が沢山来てる。ティアラ、俺が指示する場所まで連れて行ってくれ」
「う、うむ。それは分かったが……」
「行けるか?」
「……はぁ。仕方ないのだ」
ティアラは結局レインに押し切られる形で立ち上がった。
まだ何が起こっているかチンプンカンプンの状態だろうが、レインを信じて動いてくれるらしい。
そんなティアラに、レインは感謝することしかできない。
ありがとう――と、ティアラに伝えておく。
「あ、そうだ! リリアの眷属たちはどうすればいい?」
「それなら大丈夫です。あの子たちは、コウモリに変身して逃げることができますから。人間に捕まることは絶対ないでしょう」
「それなら心配なさそうだな」
レインは慎重に全てを確認すると、ティアラにゴーサインを出す。
そして。
まだ寝ぼけ気味のティアラ(ドラゴン状態)に乗って、魔王の元へと飛び立つのだった。




