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第4章 第16話 Supernova Falldown◇

『これっ! 名刺です。私モフコ、皆は”銀の精霊”って言うの。幾久しくよしなにねっ、赤井神様!』


 みょーん、と毛玉から小さな二本の突起が伸びて、デジタル名刺を私に差し出す毛玉。

 伊藤さんが以前私にくれたやつと同じのだけど、超シュール。

 モフコさん、全体的につの字に折れ曲がる。お辞儀のつもりらしい。

 モフコってあなた見たまんまですけど。いくら私や一部の国民の皆様がモフモフ好きだからって……! 


『モフコさん、ですか? 見たところ珠のような御姿ですが』


 これいかに。


『そうそう、人型』


 強引に人型で通そうとする精霊さん。

 呑めるかっ! 人型じゃないでしょ百人が百人に訊いてもそう言うよ、おこがましいですよ毛玉なのに。

 銀の精霊って割に銀色でもないわ……素民の皆、フリーズしてついていけなくなってる。

 待ってね、皆がツッコみたいこと代表して訊くから。


『こんなところで立ち話もなんだし。ホップ、ステップ……からの~! 捻挫!』


 毛玉さん、改めモフコさん。勢いよく大ジャンプを決めると、くるりと空中でトンボをうって私の頭の上にぽふっ、とナチュラルにおさまりました。

 ホップステップ捻挫って大丈夫なの!? 捻挫するような関節あるの!?


『きゃっ! 頭の上~!』


 頭上でばいんばいんばいん! と、興奮気味に飛んだり跳ねたりしてる。私の頭が馬鹿になったらどうするんですか……すごく……元からですね。


『まぎれもなく頭上っ!』


 そうだね。そこまぎれもなく私の頭上だ。知ってる、わかるよ。

 お転婆すぎますよヒトの頭上で遠慮もなく跳ねまくって。上下左右に伸縮して、時々勢い余ってハート型になったり。全身で喜びの舞を踊っているつもりらしい。たまに突起だして、ちょいなちょーいな、とかやってる。

 素民たち完全に置いてけぼり。エトワール先輩は苦笑い。


『あのー、帽子になるか頭の上から降りるかしてください』

『ほいっ! 忍法、毛玉七変化!』


 モフコさんはいそいそと円筒形に変形し、ロシア風の帽子になって居座る模様。どこから突っ込む? ……忍法のあたりから? 自分で毛玉って言ったし。それとも残り六変化は何? ってとこ?


『あのー。そうではなくてですね』


 ちがーう、私は降りてと言いたかったんです。

 やっちゃった感を募らせるのは私だけじゃない。ネストの民もだ。どこからともなく、ひそひそ声が聞こえてきた。


「これがネストの精霊さま、だったか? 大ばばさまの伝え聞く話では、美しく若い女の精霊だと」


 パウルさん、これ呼ばわり。

 伝説というものは往々にして間違っているものです。殆どは悪い方向に。


「……う、うん? こうだったかな? 違う気がしますよね父上」


 困惑顔で記憶の糸を手繰り寄せようとするパウルさんの息子さん。ロイとキララは、精霊さんなら別に容姿に拘泥はない。大らかに育ってくれて私は嬉しい。あれなんか目から汗が。


「何かこう、もっと、こう! ……神秘的なのかと思ってたら」


 素民たち一同が凄く残念そうなオーラを出しているので、モフコさん、いえモフコ先輩のテンションも落ち着いたところで閑話休題。何でもっとファンタジックで幻想的な姿で現れてくれなかったんですか先輩。


「精霊様、ネストの民一同、復活をお待ちしておりました」


 パウルさんが仕切り直した! ナイス平常心。


『おっ、パウルさん久しぶり。よかったね! 歩けるようになったんだね』


 軽っ! そしてあなたとパウルさんは面識ない設定だと思います。

 言う端からボロが出てるような気がします。


「ネストの民は、あなたが邪神に封印されてより、森に降りることができず、資源も尽き果てて日に日に困窮しております。再び人と獣とが共存できる豊かな森を取り戻していただきたくお願い申し上げます」


 パウルさん一人で話進めてくれてる。

 話が早くて助かるよ。

 パウルさんの隣で、大きく首肯する私。


『そうしてあげたい気持ちはやまやまだけど、難しいと思うの。今の私に、昔のような力はないのよ……』


 伏し目がちな感じになるモフコ先輩。

 目、ありませんけどね。

 てかここまできて私らの努力が水の泡!? 

 聞いてた伝説と違う、と、騒然とするネスト民一行。


「で、では私たちはどうすれば」

「な、何とかならないんでしょうか。せめてお知恵だけでも」


 パウルさんが食い下がる。

 パウルさん、疲れてるだろうに必死だ。

 私がパウルさんにどんなフォローの言葉をかけようかと思案していると。


”赤井さん赤井さん”


 頭上からモフコ先輩の念話が聞こえてきた。

 ようやくコンタクト可能になったよ。


”私のプロフは名刺の裏に書いてあるよ! チェケラー!”


 ちぇけらーじゃないよ。

 ったくこのヒトは。

 そういうので、モフコ先輩のプロフをさっそく拝見。

 出ました、構築士情報!

 

【構築士情報】

 役名 : モフコ(JAPAN/ID:JPN108)

 本名 : きづき 実樹みき

 クラス/職種 : 乙種二級構築士 /グラフィッククリエイター

 心理層 : 2

 物理層 : 3

 絶対力量 : 25621ポイント

 滞在日数 : 48211日

 有効信徒数 : 0名

 総信徒数 : 1021名


 ふむ? プロフィールに添付のグラフィック上では人型の精霊です。

 これですよ求めてたのは! 

 私と国民の皆様の精霊さんのイメージはこう!


 何でこれで登場してくれなかった? 

 こだわりが過ぎて、突き詰めたら逆に毛玉になっちゃった?


 私も皆も、登場シーンの衣装とかエフェクトとか色々期待してたし! 

 どういうことですか、と念話で苦情を言うと、私のせいじゃないもん。

 とかわいく弁解された。

 精気切れを起こすとこうなっちゃう設定らしい。

 てことは逆に、戻れるんですね人型に?!

 一気にテンションが突き抜ける私! 

 それと、駄々下がりだった白翼がしゃきんとなったので、エトワール先輩も。

 むっつりですねエトワール先輩。


『どうやったらその、精気切れは治る? 人型に戻れないと、力を発揮できないのでは?』


 エトワール先輩、満を持しての質問。

 早く仕事終わらせて定時に帰って臨月の奥さんの元に駆け付けたそうな顔でもある。

 ……気のせいか。


『やあエトワルさん久しぶり。精気のない精霊は、ただの毛玉さ……』


 面倒くさくなってきたのでもうツッコミません。

 モフコ先輩を人型に戻すためにクエスト発生とかやめてくださいよ。

 でも人型に戻らないとネストの森を元に戻してもらえないんですよね精気ないから。

 今日は私ら行きませんよ。

 せめて日を改めてください。


『いや、単に月光を浴びれば精気回復して元に戻れるけど、焦る必要性を感じないっていうか。明日でもいいんじゃないかっていうか、人生勇み足でもろくなことないっていうか』


 モフコ先輩、私の頭の上でのびのび垂れる。


『くるおしいまでに必要性を感じますよ』と、私。

「それ早く言ってください」若干語気も荒目のパウルさん

『もう帰っていいかな』 と、エトワール先輩。


 三人三様の鋭い切り返しを受け、テンション低く、ついでにかさ・・も低くなる、全体的にふわっとした円筒形。

 円筒形の体積はπr^2*hで求められますが、どうでもいいことです。


『んー……明日の夜とかじゃだめ? 今日はちょっと都合が』


 人型に戻ったら私の頭の上に乗れないしモフってもらえないからせめて一日……とか念話で言ってたけど無視って私はバレーボール大の先輩の両脇をがっしり捕まえ、


『あなたが本来の姿に戻って力を行使して下さらないと、ネストの森が魔の森のままです。ネストの民が飢えに苦しみ、渇きに喘いでいます』


 と、首根っこ捕まえて(首どこだよ)説得しつつ洞窟の途中で取り残された人たちと合流しつつ私たちは洞窟の外へ。

 わー空気おいしい。

 あの遺跡っぽい部屋、多少有毒ガスが出てたからね。

 素民の皆さんも思い思いに深呼吸したり、肩回したり。靴の中に入った泥をかきだしたり。


 時刻は八時、とっぷりと日は暮れていた。

 そして肝心の天気は……曇天! こんなときに月が見えない。


『あ、曇りだよ残念~!』


 背伸びをするモフコ先輩、何だか嬉しそう。

 声かわいいですね二回目ですけど。

 逆に言うと容姿どう褒めていいか分からないから声を褒める。


「ちっ、曇りか」


 素民の誰かの舌打ちが聞こえました。

 モフコ先輩、曇りと分かって私の頭の上で伸びたり縮んだり。

 もー仕方がないなー、曇り程度じゃへこたれませんよこちらもこの道九年ですから。

 モフコ先輩を両手でわっしと掴んで月光にかざすと、エトワール先輩が上昇気流を送って分厚く垂れ下がっていた雲を吹き飛ばしてくれた。雲のかからない、下弦の月がきれいだ。


『ほら、きれいな三日月ですよ、モフコさん』

『うーん……いまいちなお日柄だなあ』


 うーんじゃありませんよ、きりきり変身してください、あなたの変身待ちなんですから。


『じゃ、やる? へーんしんっ、とうっ!』

 

 いちいちアクションが。

 ぴょーい、とモフコ先輩が私の頭の上からさらに跳びあがると、迸る光のレインボー。

 びくっとする素民たち。輝く虹色のエフェクトがモフコ先輩を包み込む。

 ……グローリアくんたちがハート形になって無駄に演出、君たちいつの間に!? 

 星が飛び、ハート入り乱れ、きゅるるん、しゃららん! ってなけしからん擬音が出てる。

 どこから出てる? ご想像にお任せします。

 あれだ、日曜日朝にやってる少女向けアニメの美少女変身シーン見てる気分だよ。

 さあー感動の、人型精霊さんとごたいめ……

 

 って、長いよ! もう二分ぐらい変身シーンやってる。


”まだ?”


 エトワール先輩が思わず念話で訊いてた。


”もうちょい。今着替えてるとこ!”


 だそうです。

 私たちの見事な待ちぼうけっぷりをよそに、更なる盛り上がりを見せるエフェクト。

 結局五分後。最初は驚いてた素民たちも、疲れてもう誰も真面目に見てない。


『お待たせー。ど、どう?』


 光のエフェクトを払いのけ、もやの中を精霊さんのシルエットが現れる。

 待ちくたびれたー! デート中、アパレルショップで彼女に延々待たされる彼氏の気分。


 気を取り直して。

 登場したのは!? 期待に心昂ぶる……じゃなくて心荒ぶる私ら。

 ウェーブのかかった長い銀髪に、透き通った碧眼。

 涼しげな目元を清涼感のある青いアイシャドーで彩った、ほんわかと優しさと気品漂う面立ちの、大人サイズの美女精霊。

 花をあしらった透明な杖を持ちーの、銀の光沢のあるショートラインのドレスを着ーの、クリスタルの冠つけーの、ドレスから生足見えーの、きらきら鱗粉てか光のエフェクトが輝いて眩しーの! 

 もう散々っぱら趣味に走ったデザイン。

 あーなんか全体的に銀色だね、銀の精霊って名乗るだけあるよ。

 胸? それ大事でしたね。胸はたゆんと擬音の出る程度のサイズです(当社比)。

 いかにも精霊さんらしく、背中からクリスタルっぽい、蝶のような銀の翅にょっきり。

 しかもステンドグラスっぽく銀色と薄水色の模様を取り入れ、多分自分でやったんだろうけどデコりまくってる。アールヌーボーっちゃってる。


 結論。

 360度、どう見ても清楚可憐な美女精霊さんでした。

 女性って変身願望あるらしいからね。


 黙ってれば見目麗しき精霊さんです。

 あまりに幻想的なので、画家がこぞって絵を描いたりカメラマンが寄ってたかって写真を撮りたくなっちゃう感じ。

 彼女、背筋伸ばし、どちらかというと往年のキャイーンのポーズでリアクション待ってたけど、私たち全員が先輩の美貌にやられてフリーズしてるので、

 彼女、内またになり、困って頬をかき……。


『あ、……ダメだった……かな? チェンジ? チェンジは三回までならやり直すよ?』


 ぷにぷにのピンクの頬を染め、消え入りそうな声になるモフコ先輩。

 衆人環視の中、期待渦巻く中での変身シーンとか、かなりの羞恥プレイですもんね。

 チェンジじゃないです、十分綺麗ですから仕事をしてください。


『あ、赤井神様は、どんな衣装が好みなの?』


 モフコ先輩、クリスタル製の花の杖持ってわたわたしてる。

 毛玉のときとはうって変わり、何だか女性らしくてキュートな感じ。

 人型の時は恥ずかしがり屋なんかな。

 人型で仕事するの照れくさいから毛玉になってだけだったりして。

 その姿に不覚にも萌えた。のは私だけではなかった。


「おうふ!」

「うっ!」


 素民で鼻血出してるのがいる……名誉ある負傷だよチミたち。


”赤井さん、何で黙ってるの。黙ってないで何かフォローして! 恥ずかしいんだからっ”


 モフコ先輩からのSOSが。

 恥ずかしいなら地味な外見にすればよかったのに、やらかしちゃってるから……。過ぎたるは及ばざるがごとし、そんなあなたに贈りたい諺です。さ、私も仕事しないと。


『あ、驚いて見惚れていました。モフコさんがお美しいので』

「ほわぁ、銀の精霊様だ!」

「なんと可憐な御姿なんだ! 精霊様、モフコ様! うっ!」

「うっ!」

「うっ!」


 感動のあまり、何かの踊りが始まった。

 ネスト民、先ほどまで毛玉とかコレ呼ばわりしていたことも忘れ、この現金な感じがニクい。


「玉様! 玉様! うっ!」

「ばか、もう玉じゃないぞ。玉とは失礼だ! うっ!」


 ほっといたらオーバードライブまでヒートアップする素民たち。ノリについていけないロイとキララ。と思いきや、二人で仲良く国の行政について熱く話し合ってる。民放バラエティー枠に囲まれた国営放送の日曜討論みたいだ。

 でもパウルさんだけは自国の命運がかかってるからか下手に出て


「ネストの森の獣たちをその偉大なお力で鎮め、昔のように美しい森を取り戻してください」


 一人真面目だった。


『ネストの民が、というかパウルさんがそういうのなら、力をかしましょう』


 にこ……と、かわいらしさを意識した角度で小首を傾げ、気品溢れる慈母の微笑をネスト民に送ると、恥ずかしそうに咳払いをし、内またで歩くモフコ先輩。森の中の、少し木々の開けたところを見つけ、……そこにてってってと勢いよく助走をつけて走り込み


『てーい!』


 ……かわいらしい掛け声とともに地を蹴って跳んで……? またホップステップ捻挫? 


『れれれ?!』


 あれ、跳べずに、そのまま暗がりの茂みにダイブして飛び込み前転――!? 今前転するような場面じゃなかったでしょ。どうしたかったの先輩? 先輩、顔を両手でおさえつつ、女の子座りで森の中に座り込んで肩をプルプルしてる。


『ど、どうしましたモフコさん? 大丈夫ですか?』


 主に、頭とか。


『きゃ、はずかしー。一応やってみたけど、失敗しちゃたー。飛んで森全体に浄化魔法をかけようとしたんだけど。精気足りなかったの。満月になったら精気全開なんだけど』


 ドジ――! 

 先に言ってくださいよ。無理なら無理で日を改めましたよ。というか飛べないって、その背中の美しいいかにも飛びます的な翅は飾りなんでしょうか。


”あ、これはただの飾りパーツでしかないの”


 ……把握です。モフコ先輩、精霊というだけあって信頼の力とかではなく自然界のパワーを集めて自身のアトモスフィアにするんだそうだ。素民の信頼に依存してる私らとはパワー出力の仕様が違うのな。だから今日は三日月って時点で、精気足りなくて無理だったってことね。

 人型になるの渋ってたのもそういうことか。


”あは、せっかくの見せ場だったのにごめん赤井さん。今日、月齢悪くて。洞窟の中の色んな仕込みとか、赤井さんの試練イベントするのに、精気使い果たしちゃっててさー”


 そうか、あれモフコ先輩の精気で色々やってたのか。かなり大がかりな仕掛けでしたよ、そりゃ使い果たしますよ。監督、主演、演出、美術、技術、全部一人でやってたんだもんな。


”こちらこそすみません、気が回らず”


赤っ恥かかせてすみません。


”モフコくん。事情は分かったが赤井くんが前フリする前に言ってくれないかね、そういうことは”

”エトワル先輩もごめんなさいっ!”


 エトワール先輩の方がモフコ先輩より上なのね。


 かくなるうえは、ネスト民には誤魔化す方向で話をまとめるしかない。


『皆さん、今日はこのあたりにして戻りましょう。モフコさんに森を浄化してもらうのは明日以降にしませんか、ね? ほ、ほら。私たちだけでなくネストの皆もその劇的瞬間に立ち会ってもらいたいですし』

『あーでも、神様の神気は霊気に変換できますよ。レートもいいし。神通力1に対して変換効率75.24倍だろう』


 エトワール先輩だ。何そのドル円レートみたいな、1ドル75円24銭で円高です、みたいなの。


『そうなの!?』


 モフコ先輩、知らなかったらしく、嬉しそうに私を振り返った。

 えっ!? 急に水を向けられて、驚く私。


「祝福! 祝~福!」

「がばっと! 思い切って!」

「あ、よいしょっ!」

『ちょっと、皆さん……』


 ネスト民が……あの真面目だったネスト民が、モフコ先輩の影響ではっちゃけたのかなんなのか想像以上に悪乗りしてすごく……手拍子と共に囃し立てます。何この王様ゲームみたいなノリ。ちょっと、何を仰ってるか私には理解でき……


『赤井神様……そんな、私そんなつもりじゃ……!』


 モフコ先輩。照れて遠慮してるわりにあなたどうして女芸人ばりに腰を45度に曲げて唇突き出してる? これセクハラになりません? ……むしろ私への。


『え、ですから明日以降の、モフコさんの体調が万全な時にすれば……あっ―!』


 誤魔化して許される雰囲気ではありませんでした。


『いいから早く祝福すればいいと思いますよ!』


 おーっと!? 

 裏切り者が背後にいた。先輩が後ろから私を押す。モフコ先輩が『ああっ、ちょっ、そんな』とか意味の分からないことを言いつつ私にきゅっと抱きついてきて……仕方ないので私はぎこちなく抱擁して祝福。鳴り響く拍手。おめでとー。と、面白おかしく囃し立てる声。何この羞恥プレイ。

 職場の同僚に祝福するとなると超緊張するよ。私の中身のことを知らない患者さんとは違う、仕事だと分かってるからこその、漂う気恥ずかしさ。


”モフコ先輩……何だか微妙な気分ですがお互い仕事ですもんね。お客さん、軽油ですかレギュラーですか?”

”何でそんな昔の、ガソリンの油種とか知ってるの。……じゃあ……ハイオクで”

”ハイオクはダメです。軽油しかないです”

”注がなくても奪い取ります。へへ、照れちゃいますねっ”


 分かりましたあなたも神様フェチですね。モフコ先輩は私の神通力を根こそぎ奪い取ってくみたいだ。あーだめ、もう私干からびそう。エトワール先輩の方がたんまりアトモスフィア溜めこんでるよきっと、先輩にやってもらえばよかったのに。と恨み節を言いたかったけど、先輩は「私のは精気に変換できないんだよ」と、涼しい顔。私が神通力を搾り取られ干からびそうになるのとは逆に……モフコ先輩に精気が滾りはじめる。銀髪の一本一本に力が流れ、肌という肌は光に満ち、彼女の周囲にはオーラが……。


『くうーっ! きたきたっ……精力みなぎってきたっ! す、すごい! 何か胸いっぱいで』


 心も満タン、赤井石油のようです。

 それより精力て女性がそんな……やめて下さいそこは霊力でお願いします。

 この管区が全体的にお下劣になってしまいます。

 私の理想としては上品でハートフルな区画に仕上げていきたいんです。


『……霊力、でしょ』

『あ、そか。やったー霊力満ターン!』


 モフコ先輩、私の神通力を精力じゃなく霊力に変換し給油完了。

 アトモスフィアを受け渡しできるとか、何かもうガソリンで動いてるみたいだな構築士って。

 

 仕切り直しで、今度こそモフコ先輩、ホップステップで飛びあがりネストの森の夜空に舞う。

 先輩が飛ぶと光の鱗粉みたいな、きらきらしたのが降ってくる。

 そして……例のガラスっぽい素材でできたファンシーな杖をきりきりとバトンのように華麗に振り回し、両手を拡げ。


 カッ! 

 と夜空全体が輝いたかと思うと。モフコ先輩を中心に、大小の無数のカラフルな発光体が彼女をとりまいていた。赤、青、黄色、緑、オレンジの五色。すげー凝ってるなー、私やエトワール先輩の技の、地味でもいいや、的な感じとは違う。精霊さんだからか女性だからか、全体的に技がファンタジックだね。


「なんだあれは!?」

「光ってるぞ!」

『みんな見てねっ。三千発の花火。それ、わっしょーい!』


 モフコ先輩、めでたい掛け声とともに霊力で発光体を吹き飛ばし、何か花火の大玉を打ち上げたような感じに整形して大輪の花にして咲かせて魅せる。

 夜空を背景に、疾走し躍動する光の洪水。

 幾重にも重なり、しゅるしゅると回転したり、先輩が杖を振って舞い踊るたびに呼応して展開、四散し、明滅する。爆薬ないからどーん、という音こそないけれど、まさに花火大会だ。


 その夜、ネストの冬の夜空に咲きみだれた百花繚乱。

 メグも、ナズも、モンジャの民も、グランダの民も、私の世界の全ての素民たちが、希望を込めた眼差しで見上げただろう。


 闇に浮かび上がる極彩色のフラッシュのコントラストが、何だか人工的で温かくて、私はどこかほっとする。

 家族や友人たちと花火大会に行った記憶が蘇る。

 東京江戸川の花火大会、今年もやったのかなあ。

 なんて、懐かしく遠い記憶を呼び起こす。


 吹き飛ばされた光の破片は失速すると重力にしたがって、ネストの森の上に舞い降りてくる。

 ふわりふわりと、光の光跡を描きながら。夢幻的な光景だ。


 ……日本が恋しくなってしまったなあ。


 絶え間なく注いでくる発光体は近くで見ると光る大きな胞子のような形をしていた。

 木々にも、草花にも、水辺にも、地上にも、森の獣たちにも、ひとしく降り注ぐ浄光。

 胞子は着地すると発芽し、芽は互いに網目状に結びつき、ネストの森一面が輝きに満ち、やがて目も眩まんばかりの光の中に覆い尽くされてゆく。

 いびつな形をした禍々しい植物も、小粒の可憐な花をつけ香りがあふれる。

 狂気と毒気に満ちていたネストの森が元の美しく豊かな生態系を取り戻してゆく。


「この世のものとは思えない。まるで星が降ってくるよう……絶景だな。色々あったが、これを見ると報われた気分になる」


 キララが何か私の横に来て両手に息を吹きかけ寒そうにしてたので、私のストールを肩に巻いて片手で抱き寄せた。私の腕の中で暖を取るキララ。安心しきった表情をして、ことり、と頭を私の方に倒す。その、ほんの僅かな傾きだけど、彼女の私に寄せる信頼が伝わってくる。


『そうですね……精霊さんからの、最高の贈り物ですね』


 私がほんわかとした気分でキララの体温を感じていると。白銀のインフォメーションボードが勝手に立ち上がった。あ、これもしかして第二区画解放のアナウンス?


【第二区画解放。任務終了……確認】


『はい』 


 やっぱり。確認しました。ぽち、とインフォメーションボードのボタンを押します。第一区画のときも区画解放表示が出たよね。ひと段落ついたと実感する。


【 オファーが12件 あります 】


 12件!? 

 第一区画のときはエトワール先輩しかいなかったのに。

 え、まさかと思うけど全員使徒希望者……とか……? 

 顔と名前覚えられるかなあ。てか普通はこれぐらい申請がくるものなのかな。

 私もようやくいっぱしの神様として他の管区スタッフたちに認めてもらえたんだろうか。

 誰がオファー出してくれたのかと、名前だけ見たら女の子っぽい芸名もずらりと並んでた。これは念願の、女性使徒が私についてくれるってこと!? 

 私も遂に女天使さんたちとハーレム生活!? 


 いいっ! すごくいい!

 あ、でも、たしかエトワール先輩が、使徒ってか天使役は構築中は一管区に七人までだって言ってたよな。

 じゃ、エトワール先輩を除いて6人選べってことなのかー。

 先輩やモフコ先輩と話し合って慎重に人選をしよう。事情通な先輩方の情報を聞いてからにしましょうね。

 となるとじっくりプロフィール見たいからとりあえず後で。

 というわけで全員に【保留する】ボタンを押し、ひとまず終了かと思いきや……


【 当管区への申請が2件 あります 】

 

 こっちの方は事務手続きっぽいからちゃんと読まないとやばそう。

 何か区画解放の手順とか設定とかあるのかな。

 というわけでクリックすると


【 第28管区主神 白椋 千早(ID:JPN215)が、当管区への短期留学を希望しています 】

【 第29管区主神 蒼雲 天晴(ID:JPN216)が、当管区への短期留学を希望しています 】


『こ、これは――――まさかあの二人が……!?』

「ど、どうしたんですか神様」


 素民たちに漂う安堵の空気の中、私が一点を凝視し不穏な独り言を脈絡なく発するので、ロイが心配そうに尋ねてくる。

 絶対ロイに独り言言う癖がある痛い人だと思われてるよな私。


 わかりません。マキシマム・ザ・わかりません。

 知ったげに一言二言漏らしてみましたが、私混乱中。

 字面通りにとらえたら、留学って……ここに来るってこと? 

 自分とこの管区どうするの? 

 アガルタから出たら構築がリセットされちゃうんだよ? いいのかそれで。

 それとも、構築終わっちゃって維持士に引き渡したとか? 

 まさか私を冷やかしにくるとか? 

 はえーよあの二人終わるのが、どうなってるんだよ。

 あ、でもその線もない。きっかり十年、アガルタの中に入ってなきゃいけないわけだし。

 何がどうなった?


 てか、蒼雲さんの名前、天晴っていうんだ知らなかったよ。

 えーと、……あっぱれって読むの?

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