63 王都が堕ちた日に笑う者
メスガキ魔法少女を地獄へ叩き落したリーズレットは布で包まれたロウの死体をジッと見下ろしていた。
「申し訳ありません、私が彼にここで弾薬を準備しておくよう命令を――」
彼女の横にはロウに命令を下した軍人がリーズレットへと謝罪する。
この布に包まれた死体がただの兵士であればこんな事はしなかっただろう。しかし、死んだのはリーズレットが気に入っていたロウであると知って彼は謝罪したというわけである。
「謝罪は不要ですわ」
「え?」
「戦場で死んだ兵士がいるからといって、私に謝罪は不要だと申しましたのよ。戦争で兵士が死ぬのは当たり前の事ですわ。それに彼が死んだのは貴方のせいではございませんわよ」
戦争で味方が死ぬのは当然の事。損害無き戦争などあるわけがない。
例えそれがリーズレットにとって特別な存在だったとしても、彼が謝罪する必要はない。
「それよりも王国の王族一家を捕えまして? 捕えたのであれば縛り上げて城の外に並べておきなさい」
「は、はい! 了解しました!」
謝罪を口にした軍人は早足で去って行く。
入れ違いで自軍の死体を回収する班がリーズレットに近づくと黙って敬礼をする。彼等はロウの死体が運ばれて行くのを静かに見送った。
「マム、大丈夫ですか?」
そんな彼女に声を掛けたのはコスモスだった。彼女はマチルダと共にリーズレットを心配してやって来たようだ。
「皆、心配性ですわね。私は平気ですわよ」
彼女はコスモスに振り向くと小さく笑う。笑う彼女の姿はいつも通りだ。味方をも委縮させる強烈な殺気を振り撒いていた時の彼女からは想像できないほどに、いつも通りであった。
「しかし、ロウが……」
コスモスが少し小声でそう呟くと、リーズレットは首を振る。
「関係ありません。確かに彼は私好みのイケメンでしたわ。しかし、戦場に立つ以上は死を覚悟しなければなりません」
リーズレットは戦場に身を投じて、敵を殺している。故に彼女はいつでも自分が殺される覚悟も、仲間が殺される覚悟も出来ている。
戦場にいる者全てがこの覚悟せねばならない。覚悟無き者が戦場にいるなど、命のやり取りをしている全ての兵士に対して侮辱である他無い。
だからこそ、ロウも覚悟していただろうとリーズレットは自分を納得させた。覚悟していた上で、それでも彼が死んだのは彼が弱かったからだ。
あの状況下で彼が死ぬ前に救い出せなかったのは、彼を完璧に守れなかったのは、リーズレット自身にそれだけの力が無かったから。
もしも、を語るにはもう遅い。
「あのメスガキは殺しましたわ。あとはこの国の豚共を根こそぎ殺すだけですわよ」
だが、仲間の死に対する報いは必ず受けてもらう。
救えなかったロウの死に報いるにはただ1つ。
復讐のみ。
仲間の死は敵の死で償う。
敵を全て殺して、敵国を地図上から消し去るのがリーズレットの考える本物の戦争。前世の頃では常にそれを行ってきたのだから。
ここで問題なのは人と豚の命は等価なのかという問題だ。
答えはノーだ。
仲間と豚の命が等価なものか。
死んだ仲間に捧げる豚の命は数が多ければ多いほど良い。
「その通りです。マム」
そう語ったリーズレットに家族を殺されたマチルダは深く同意した。
「世界に繁栄を齎すイケメンを殺すなど重罪でしてよ。しかも、私の結婚が……! ファァック!!」
しかしながら、2人が話を聞いているとリーズレットがブチギレた原因の多くは自分好みのイケメンが死んだ事と結婚の夢が再び遠ざかった事に対してのようだ。
確かにリーズレットがロウに一目惚れしていたのも事実。
伝説の淑女と謳われようと彼女だって人間だ。一目惚れしたイケメンが殺されれば感情を剥き出しにするのも、相手に殺意を向けて殺したくなるのも彼女の人間らしさと言うべきか。
「私の息子が生きていれば、マムにご紹介したかったのですが」
マチルダは目を閉じて死んだ息子の顔を思い出し、小さく息を吐きながらそう言った。
「貴方の息子さんはイケメンでしたの?」
「ええ。とびきりの。私に似て世界最高のイケメンに育つ予定でした」
マチルダの口から飛び出す言葉に一切の冗談は含まれていない。死んでいなければそうなるはずだった、と彼女は信じて疑わない。
「そう。なら、さっそく報いを与えましょう。この戦線で死んだ者達と貴方の息子、それにロウの分を」
「はい」
リーズレットはコスモスとマチルダを連れて城の外へと向かった。
城の外にはリリィガーデン王国軍に捕まったラディア王国の王族一家、それと軍人達が拘束された状態で並べられていた。
「マム。戦闘員は全て捕えました。王族一家も王都にいる分はこれで全てです」
軍人の報告によれば王都を守っていた軍を完全鎮圧。抵抗した者は全て殺し、ここにいる者達は投降したのだと説明された。
加えて、王家については王城で暮していた者は死んだヘルモンドの妻である王妃、側室が2名。息子であるハモンドで全員のようだ。
報告を聞き終えたリーズレットは頷くと、ラディア王国に住む一般人を城の前に集めるよう指示を出す。
指示を出してから数時間後。城の前には多くの一般人が集められ、空が茜色に染まった頃に『ショー』は始まった。
「ラディア王国の皆様、ごきげんよう。これから貴方達の国の王族を全員殺しますわよ」
処刑場として用意された城の前には、地面に突き刺さった木の杭に括り付けられる王族達。
並べられた王族1人1人の横に火のついた松明を持った軍人が控え、特に見せ場となる次期王となる予定だったハモンドの横にはマチルダがいた。
彼等の前に立ったリーズレットが見物人である一般人達に向かって開催の挨拶を述べる。
「よく見ておきなさい。その目に焼きつけなさい。これが敗者の末路。リリィガーデン王国に侵略して、無様にも返り討ちにされた愚か者共の末路ですわよ」
ニコリと微笑んだリーズレットは王族へと振り返る。
「そこの豚。最期にクソのような見学者へ一言何かありまして?」
リーズレットはショーの見せ場を作るように、ハモンドを指名した。
彼はリーズレットを睨みつけながら、
「ラディアの民達よ! まだ負けじゃないッ! 私の叔父がまだ生きているッ! 彼と共に憎きリリィガーデンを討てッ!」
ハモンドはラディア人達を奮い立たせるように、感情を込めて最期の言葉を叫んだ。
随分と演技派な王子だったようだ。彼の言葉を聞いた一般人から放たれる雰囲気が変わる。
「そうだ! まだ俺達は負けてない!」
既に負けているにも拘らず、まだ負けていないと錯覚してしまったようだ。
見学者の中に勇ましい声を放つ1人の男がいた。
「俺達は屈し――」
しかし、彼は最後まで言い切る事が出来なかった。彼の言葉はリーズレットが放った銃弾に遮られ、額にケツの穴を開けて死んだ。
見学者達は男が殺された事でパニックとなるが、見学者達を囲む軍人達が空に銃を撃った後に銃口を彼等へと向ける事で強制的に抑えつけられた。
「おーっほっほっほ! 見まして? 貴方の立派な演説でまた1匹、ラディアの豚が死にましたわァ!」
絶句するハモンドを笑うリーズレットは、銃口から上がる硝煙を吹き消しながら告げる。
「貴方達を処刑したら、貴方の叔父もすぐに殺して差し上げますわ。そうですわね、3日以内に会えると私が約束して差し上げましょう」
ハモンドへ微笑んだリーズレットはマチルダに「おやりなさい」と指示を出した。
マチルダは無言で頷くとハモンドの足元に火をつける。
「ああ! クソッ! 熱いッ! 熱いィィィッ! クソォォォッ!!」
火をつけられたハモンドは泣き喚きながら無様な最期を国民に晒す。そして、残りの王族達も次々に処刑されていった。
「んふふ。愚か者は必ず報いを受けなければなりませんわ。そうでしょう、ロウ」
リーズレットは燃える王族達を見つめながら静かに呟いた。
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ラディア王国王都がリーズレット達の手によって堕ちた頃。
リリィガーデン王国の南にあるグリア共和国の首都で事件は起きた。
場所は首都の東側にある再開発を待つ区画の裏路地。老朽化した建物が多く立ち並び、近く再開発を予定されているこの区画には人は誰もいない。
老朽化した建物と最近あった地震のせいで首都の地下にある下水施設が露出してしまっている事もあって、周辺には異臭が漂うせいで浮浪者でさえ近寄らない場所だ。
そんな汚らしい場所の、空に浮かぶ夕日すらも届かぬ暗い裏路地。そこで甲高い金属音とバチバチと雷が弾けるような音、2種類が響く。
「あッ! ガッ!?」
2種類の音が鳴り止むと、最後に聞こえたのは壁に人が激突する音だった。
壁に激突した者の正体は、まだ若き少女。
赤と黒のチェック柄ミニスカートと白いブラウスを着た金髪の少女が壁に叩きつけられ、衝撃で息が出来ずに苦しんでいると……彼女の左胸に鋭い刃物が突き刺さった。
少女の心臓を突き刺したのは刃が黒く、グリップの下部に穴が開いたタクティカルナイフだった。
「ハッ! 魔法少女なんていうから、もっと期待したのに。弱すぎ」
金髪の少女――魔法少女の心臓を一突きした者もまた若く幼い。
黒いフード付きのパーカーと緑色のカーゴパンツ。足にはスニーカーのような靴を履いて、身長は150センチ程度と背が小さかった。少々ぶかぶかの服装からは男女の身体的特徴を見抜けない。
パーカーのフードを被った彼、もしくは彼女の髪は薄く紫が混じった銀色のセミロング。右に青、左に緑色の目を持った顔はばっちりと整っていて、美少年・美少女どちらにも見える。
発する声は少年のようであるが、声が低めの少女と言われれば「そうだ」と答える者もいるだろう。
性別不明の幼き者は心臓を突いた相手に対して心底落胆したように罵る。
「あ、んた……」
心臓を破壊された魔法少女は苦しそうに声を漏らし、口から大量の血を吐き出した。
声は発せぬが、残り僅かな時間で自分を殺した者を睨みつける。
「銃を意識しすぎでしょ。こんなモン身に着けてさ」
幼い少年のような声を発する者の手には魔法少女が身に着けていたペンダントがあった。チェーンの部分を指に絡ませ、くるくると回しながら見せつける。
「ぐ、ぐぞ……」
魔法少女は最後の足掻きと手を伸ばす。伸ばされた手には紫電が纏い、バチバチと弾けるが――
「がああ!?」
心臓に突き刺さったナイフを乱暴に引き抜かれ、もう一度心臓を突かれた。
トドメを刺された魔法少女は遂に絶命し、ナイフを引き抜かれた彼女は地面に倒れ落ちた。
殺した本人はナイフの刃に付着した血を払うと死亡した魔法少女を見下すような目で見つめる。
「お前達じゃ相手にならないよ」
そう呟く幼き者の脳裏に描かれるのは最強の淑女の姿。
「彼女はボクのモノだ。お前達には渡さない」
自分を産んだ者達から毎日のように聞かされたレディ・マムの伝説。赤きドレスを身に纏う女性の美しき姿を何度も見せられてここまで育った。
幼き者はフードの中で――華が咲き誇るような笑みを浮かべて。
「ああ……。早く会いたいよ。リズ」
最強の淑女、リーズレットの事を愛称で呼んだ。
読んで下さりありがとうございます。
これで3章は終わりです。次回投稿は19日水曜日を予定しています。
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