38 淑女参戦
巨大熊の肉でバーベキューをやり直したリーズレット達はコスモスを連れて西へ向かい始めた。
「リリィガーデン王国はアイアン・レディとアマール王国が協力して、前時代に起きたという大事件から逃れた際に建国された国です」
国境を越えてリリィガーデン王国領土内に入りながら、リーズレットが運転する車内で助手席に座ったコスモスから事情を聞く。
彼女曰く、世界が滅ぶキッカケとなった事件の際にアイアン・レディとアマール王国が協力して何とか生き残った人々が新たに建国した国だと言う。
アイアン・レディ構成員の1人とアマール王国の第5王子が結婚し、アイアン・レディの協力を称えて国の名を変えながら伝説を語り継いできたそうだ。
「では、現在のリリィガーデン王国王室はアイアン・レディ構成員の子ですの?」
何とも羨ましい話だ、とリーズレットは思った。
自分も特権階級と結婚してお気楽な人生を送りたいと思っていたが、まさか仲間が先に特権階級と結婚するとは。
話を聞いた限りではお気楽な人生とは言い難いようだが、やはり結婚というモノには憧れてしまう。
「はい。現在、国のトップはガーベラ・リリィガーデン女王です。彼女は国の運営と同時に建国の母達――アイアン・レディの構成員が残した遺産を守っています」
リリィガーデン王国王室の役目は国の運営と同時に、受け継がれて来たアイアン・レディの遺産を守る事。
「戦争を仕掛けてきている国がそれを狙っている……という事ですの?」
現在、戦争中である3ヵ国はアイアン・レディの遺産が狙いなのか。そう問うリーズレットだったが、コスモスは首を振る。
「いえ、3ヵ国は純粋にリリィガーデンの土地が狙いでしょう」
3ヵ国の狙いはあくまでも土地であると言った。特に海岸沿いにある港を狙っているのは確かだと。
だが、彼女の話には続きがある。
「遺産を狙っているのはマギアクラフトです。恐らく、3ヵ国は遺産がある事すら知らないと思います」
3ヵ国に戦争するよう仕組み、どさくさに紛れて遺産を奪おうとしているのはマギアクラフトであるとコスモスは断言する。
その理由はマギアクラフトが誕生した背景にあるようだ。
「リリィガーデンの先人達によれば、マギアクラフトを作ったのは魔女だと言われています。そして、その魔女はアイアン・レディを消滅させようとした張本人であるとも言われているのです」
リーズレットが生きていた頃、最強の組織だったアイアン・レディ。
彼女の死後、最大の障害が無くなった時を狙って魔女は動き出す。敵組織を排除して世界を牛耳ろうと画策したと伝えられているらしい。
「その後、世界が滅ぶキッカケになった事件が起きます」
「事件とは何ですの?」
「詳細は建国の母達も掴めなかったようです。ただ、大陸の中心で大爆発が起きて全てを吹き飛ばした……としか伝わっていません」
何らかの兵器か、それとも別の何かか。とにかく大陸の中心で爆発が起きると建造物は勿論、生きている人類のほとんどを吹き飛ばす大事件だったようだ。
これが世界リセットの原因であるとコスモスは語る。
この事件が起きた中、僅かに生き残った人類は文明を復興させていく。その中には先ほど語られたアイアン・レディの構成員達とアマール王国第5王子が生き残っていたとの事。
彼女達はアマール王国があった場所にリリィガーデンと名付けたキャンプを作り、それが発展して国になったそうだ。
一方、大陸中心から東側では魔女が創設したとされるマギアクラフトが蠢き始め、今に至るという歴史の流れとなっていた。
「なるほど。大体掴めましたわ」
まとめるとこうなる。
マギアクラフトは敵であり、魔女がアイアン・レディを潰した張本人。
「マギアクラフトと魔女をぶっ殺せばよろしいのね」
「まぁ……そうなりますね」
随分とシンプルにまとめたリーズレットであったが、彼女の考えは正しいとコスモスは肯定した。
「まずは王国首都にいる女王に会うべきだと思います。……ただ、その」
リーズレットに遺産を守る王室と会うべきだと道を示すコスモスであったが、彼女はもにょもにょと何か言いたげに口を動かした。
「分かっていますわ。戦争している3ヵ国をどうにかしたいのでしょう?」
「はい」
「私も協力しましょう」
「本当ですか!?」
リーズレットがそう言うと、コスモスはパァと顔を輝かせた。
「ええ。アイアン・レディの子らが創り、守ってきた国です。私にも守る責任がありましてよ」
愛すべき見習い淑女達が創った国。自分がいつか戻ると信じて戦い抜いた彼女達。
リーズレットが見捨てるわけがない。守るべき責任が彼女にはある。
「貴女の仲間が戦っている戦場まで向かいましょう。道案内なさい」
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リリィガーデン王国領土東側に入ったリーズレット達はコスモスの案内で戦場までやって来た。
魔導車を岩場の影に隠し、味方達の拠点となっていた砦を双眼鏡で覗いていると砦の前には、リリィガーデン王国軍の兵士達が両手を後頭部の後ろに回しながら両膝を地面について並べられている。
彼等の後ろには銃を持った連邦兵がニヤニヤと下品な笑みを浮かべて立ち、空には巨大なドラゴンが空中を旋回している状況であった。
「あのドラゴンが……」
コスモスはあの巨大なドラゴンが現れた事で戦況が一変し、自分もやられてしまったと事の経緯を話す。
あれを駆除できなければ仲間を救えないと語るコスモスだが、双眼鏡を覗くリーズレットはそれどころじゃなかった。
「まぁ! リリィガーデンとやらはイケメンが多いのですわね!」
膝を付き、絶望的な状況に置かれたリリィガーデン軍のタフガイ達を見てリーズレットはやや興奮気味に言う。
日焼けした肌にムキムキの筋肉が服の上からでも分かった。
顔の造りもリーズレット好み。肉体はムキムキマッチョマンから細マッチョマンまで色とりどりのイケメンパーティーである。
「え、あの、その……」
伝説の淑女が男達に興奮する様子を見て困惑するコスモス。
「ワッタ、ファック!? ホォーリィシット!!」
だが、その直後にリーズレットの顔色が変わった。
砦の中からニヤニヤと笑う連邦兵が現れ、イケメンの後頭部を銃で撃ち抜いて殺したのだ。
恐らく見せしめだろう。
せっかくのイケメンが死んだ。リーズレット好みの中性的な可愛い顔をしながらも、健康的に日焼けした細マッチョイケメンが死んだ。
なんと野蛮な者達か。リーズレットの怒りに触れるには十分な出来事である。
スゥーっと場の空気が冷えていく。コスモスはぶるりと身を震わせて、思わず空に太陽がある事を確認してしまう。
「よろしい。殺しましょう。皆殺しですわよ」
リーズレットは双眼鏡をコスモスに渡す。彼女の顔は口が笑っていても目は完全に笑っていなかった。
「あのドラゴンを排除しなければなりませんね」
最大の障害は空を飛ぶドラゴンだろう。次点で地上にいる連邦兵と魔法機関銃などを備えた装甲魔導車。
まずは空飛ぶ脅威を排除しなければ話にならないが、リーズレットは勿論それを理解している。
理解しているからこそ、ロビィから対物ライフルと炸裂弾を受け取った。
「サリィ、いつでも発進できるようエンジンをかけておきなさい」
「はいですぅ」
サリィを運転席に乗せて、エンジンスタート。コスモスは助手席に座るよう指示をした。
「丁度良いですわね。貴女に空飛ぶ相手の殺し方をレクチャーしてあげますわよ。ついでにパワー・ハイヒールの正しい使い方も」
そう言ったリーズレットは自分が履くハイヒールを片足でコンコンと叩いてみせた。
ロビィ曰く、コスモスが履いている物の方が新型のようだ。出せる出力が違うらしい。
だが、リーズレットが履いているハイヒールでも十分に活躍できるのはこれまでの戦闘を振り返れば納得できるだろう。
「まずは空飛ぶ相手の殺し方ですわよ。ですが、あんな空飛ぶトカゲ。帝国産のヘリよりも大きくスピードもトロいのですから当てるのはイージーでしょう?」
「え、あ……。ですが、皮が厚いようで……」
ドラゴンの皮が厚く弾が通らなかったとコスモスが言った。リーズレットは「そう」とだけ返す。
対物ライフルに炸裂弾を装填したリーズレットはその場で膝を付きながら構えて、銃口を空飛ぶドラゴンへ向ける。
狙うは尻尾の付け根、裏側。そう、ケツである。
皮が厚い? ならば体内を傷付ければいい。それは誰もが考えるベターであるが、ドラゴンに対して最も難しい選択肢。
しかし、彼女ならばそれを可能にする。
トリガーを引くと銃口から飛び出した炸裂弾がドラゴンのケツ目掛けて発射された。
旋回するドラゴンに合わせた見事な偏差撃ち。吸い込まれるようにケツの中へ。
すると、空中にいたドラゴンは「ギギャア!?」と叫び声を上げた直後、ケツが爆裂して血飛沫を空中で振り撒きながら地上へと堕ちた。
「おーっほっほっほ! 御覧になりまして? 空飛ぶトカゲのケツの中で炸裂弾がバチェラーパーティーしましてよ!」
高笑いしながら墜落していくドラゴンへ指差すリーズレット。
一撃で空の王者に君臨していたドラゴンを堕としたリーズレットにポカンと口を開けながら驚愕するコスモス。
だが、まだ終わらない。
リーズレットはロビィに対物ライフルを渡し、代わりにロケットランチャーを受け取った。
『レディ、ロケットランチャーの残弾は残り10発です』
ここまで活躍してきたロケットランチャー。
どうやらバカスカ撃ち過ぎたようで、弾を生産する為の素材が不足して追加生産ができないようだ。
「よろしくてよ。無くなったら別の手段に切り替えますわ」
だが、淑女は動じない。ロケットランチャーが使えなくなったら別の手段で爆発させれば良いだけだ。
リーズレットはキャンピングカーのルーフに飛び乗って、
「サリィ、突っ込みなさい!」
「はいですぅ!」
ギュルギュル、とタイヤが高速回転して出発進行。
アクセルをベタ踏みしたキャンピングカーはグングンとスピードを上げて砦へと向かう。
「おーっほっほっほ! 地上のクソ豚共にもプレゼントですわよォー!」
ルーフの上でロケットランチャーを構えていたリーズレットは連邦軍の地上部隊が並べた装甲車に向かってトリガーを引いた。
シュボッと飛び出した弾が着弾すると装甲車が爆発して宙を舞う。その間を走り抜けるキャンピングカーは障害物をドア・ノッカーでぶち破って前進を続けた。
「なんだアレは!?」
「ドラゴンブレスを撃て!」
混乱する連邦兵は地上に堕ちたドラゴンに喝を入れ、地上からブレスを吐くよう指示を出す。
口をパカリと開けたドラゴンは口の中に炎の塊をため込むが――
「弱点が見えていますわよォ! バカトカゲェ!」
その口の中にリーズレットがロケットランチャーを撃ち込んだ。
弾は炎の塊と共に爆発すると、ドラゴンの頭部が爆発四散。ドラゴンに喝を入れていた騎手と共に焼け焦げた肉片へと変わる。
十分に接敵したキャンピングカーが急停車すると、リーズレットはルーフから飛び降りてコスモスへと叫んだ。
「次はパワー・ハイヒールのレクチャーですわよ!」
アイアン・レディを抜いて敵兵へと駆けるリーズレット。
両膝を付いて並べられたリリィガーデン軍兵士の頭をぴょんと飛び越えて、
「ごきげんよう。死んで下さいましィー!」
彼等の後頭部へ銃口を向けていた兵士の頭に飛び蹴りをお見舞い。
この時、パワー・ハイヒールの出力を一瞬だけ高めてジャンプと蹴りのインパクトにだけ使用する。そうする事でエネルギーを節約できるのだと、証明してみせた。
蹴られた連邦兵が見た最後の光景は淑女の浮かべた笑顔だった。
節約しても効果は十分。蹴られた兵士の頭部はグニャリと変形して頭蓋骨は粉砕、首の骨も折れて絶命に至る。
あとは簡単だ。駆け出す瞬間、ジャンプの瞬間、リーズレットがいつも見せる機動力の源はパワー・ハイヒールの瞬間的な利用である。
懐に飛び込んで撃つ。敵兵を盾にして撃つ。ジャンプして撃つ。
理想的な使い方によって、相手を翻弄する動きを可能にしているとコスモスに見せつけた。
コスモスがリーズレットの動きに見惚れている間も砦の壁を蹴った反動を利用して、側転のようにグルリと体を空中で回転させながら敵兵の魔法銃を躱して撃ち返す。
「このアマ!」
激しい動きで相手の注目を集めたら背後から撃たれそう? そんな注目を集めたら危ないんじゃないか?
ノンノン。
淑女はいついかなる時も、相手から見られている事を忘れてはいけない。
気配を察知しながら。顔には笑顔を浮かべて。
「まぁ。ハレンチな豚ですこと」
軸足を回転させ、ダンスのターンのように。リーズレットの美しい背中に視線を向ける豚へ振り返って撃つ。
いつも通りに。優雅なダンスを踊るように。
笑顔と殺意を混ぜ合わせ、優雅な立ち振る舞いをしてこそ真の淑女である。
敵兵の体から噴き出す血飛沫と弾け飛んだ頭部がエフェクトとなって、リーズレットのダンスを彩る。
助手席の窓から見ていたコスモスも、拘束されていたリリィガーデン軍も口を開けたまま絶句した。
当然だ。先ほどまでいた50以上の連邦兵が一瞬にして死に絶えたのだから。
それを成し遂げたのは赤いドレスを着た女性。ドリルのような巻き髪を躍らせて、華麗に舞う女性。
「淑女……」
そう呟いたのは拘束されていたブラックチームのリーダーであるブライアン。
彼はこれでもかと目を見開いて、伝説の再来をその目で見た。
「これで終わりでして? 連邦兵はフニャチン揃いですわね」
リーズレットは辛うじて生きていた連邦兵を見下ろしながら、頭部へと慈悲の一撃を加える。
銃口から上がる硝煙をフゥ、と息で吹き消すとホルスターへ銃を仕舞った。
読んで下さりありがとうございます。
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