71.七聖騎士、カーター領の豊かさに驚愕する
ノア・カーターを捕縛する。
天道教会のトップ、教皇エルレインからそう命令された聖騎士達は、カーター領へと向かっていた。
7人の選ばれし聖騎士……七聖騎士。
彼らの特徴は、みな黒い髪に、黄色の肌をもっていること。
「サトルさん。敵です」
道中の草原にて。
リーダーであるサトルの仲間、ルミが立ち止まって言う。
「モンスターの大軍です。スタンピードかと」
モンスターの繁殖期に見られる現象だ。
大量に増えたモンスターが、人里を襲う。
スタンピードに遭遇した村は最後、草の1本すら残らないという。
「ルミ。敵の数と位置を教えろ」
「敵はBランクモンスターのオーガ。数は1万」
ルミは目を閉じて言う。
彼女の持つ能力【千里眼】の効果だ。
「ふん。たった1万か……少ないわね、サトルぅ?」
「そうだな、ミサト」
長い髪の女……ミサトが、にやりと笑う。
「あたしがやろっか?」
「そうだな。ミサト、そしてトウヤ。君たちに任せる」
「「了解!」」
長い髪の女と、そして背の高い男が、それぞれうなずく。
「ヤヒコ。転送よろしく」
「あいよー」
ヤヒコとよばれた小柄な子供が、ぱんっ、と手を鳴らす。
その瞬間、ミサトとトウヤが消える。
ヤヒコの能力だ。【大転移】。
対象を自在に転移させる。
ミサトとトウヤが現場へと到着する。
彼らがいた場所から、100キロは離れた草原。
ルミの千里眼は、こんなにも遠くの敵を感知できるのだ。
「さて……やるか、ミサト。おれが打ち上げるから、あとはよろしく」
「おっけートウヤ。うまくやりなさいよ」
トウヤはひとり、前に立つ。
オーガの群れが、こちらに向かって走ってくる。
「グゴァアアアアアア!」「グロラァアアアアアアアアア!」
一万のオーガ。
それは……もはやモンスターの群れというレベルではない。
津波、洪水といった、自然災害のそれだ。
たったひとりで、立ち向かうなど……不可能な代物。
しかし……。
「さぁ来やがれ! 悪鬼ども! おれたち天道教会の聖騎士さまが、てめえらを主のもとへおくってやるぜ!」
すっ、とトウヤが拳を構えると、地面にたたきつける。
トウヤが殴ったことで発生した運動エネルギーが、向きを変え、増幅され、そして……。
ドガァアアアアアアアアアン!
エネルギーは地面を伝って、1万ものオーガの体を、上空へと吹っ飛ばした。
「【ベクトル変換】……おれはあらゆるエネルギーの向きを操作できるのさ……てめえらの走ってくるエネルギーを逆に利用させてもらったぜ!」
上空へと吹っ飛んだオーガの群れ……
それを見据えるのは、ミサト。
「良い仕事よトウヤ。あとはお姉さんにお任せ!」
ミサトは手を広げて、人差し指と親指で、銃の形を作る。
「バンッ!」
拳銃を、打つ動作。
それはごっこ遊びをする子供のような所作。
しかし……威力は……絶大だ。
ドッバァアアアアアアアアアアン!
空中に投げ出された1万のオーガの軍勢が、爆発したのだ。
体の内側から破裂した。
「あいっかわらず、ミサトの【Xガン】は凄いな。視界に入れた対象を、内側から破裂させるとか。えげつねえ」
トウヤが大軍を上空に投げ出したのは、彼女の視界に敵を入れるためだ。
固まって動いている敵だと、すべてを視認することができないから。
「終わったわよ-、ヤヒコ。転移して」
しゅんっ、とトウヤとミサトが、サトル達のもとへ帰ってくる。
サトル→不死。
ルミ→千里眼。
ミサト→Xガン。
トウヤ→ベクトル変換。
ヤヒコ→大転移。
……そのどれもが、この世界では破格の威力を持つ、特殊能力だ。
さもありなん、彼らは天より、特別な【チート能力】を与えられた、選ばれし存在なのだから……。
「さて、諸君、行こうか」
サトルたちはカーター領を目指して歩く。
「しかしよー、そのノア・カーターってやつ、どんなやつなんだ、サトル?」
トウヤが手を頭の後ろに組んで尋ねる。
「エルレイン様曰く……神を偽る不届き者だそうだ。ただ……恐ろしく強い」
「へえ……腕が鳴るなぁ……楽しみだぜぇ!」
オーガ1万体を吹き飛ばすほどのパワーを持つトウヤが、好戦的に笑う。
「ちょっとトウヤ……あたしにもやらせなさいよ。あたしの銃で頭をぱーんって、吹き飛ばしてやるんだから」
モンスター1万匹を、虐殺した女……ミサトがにやりと笑う。
「ああ……どんな顔で泣き叫ぶのかしら……楽しみだわぁ」
「うげえ、ミサト。趣味悪いぞ……さすがドS」
「ノーキンゴリラがうっさいわ」
「んだと!?」
「そこら辺にしておけ」
サトルたちはカーター領の入り口へとやってきた。
「リーダー、これからの作戦は?」
最年少、ワープ使いのヤヒコが言う。
「そりゃもちろん、皆殺しだろ?」
トウヤの言葉に、サトルが首を振る。
「あくまで今回は、ノア・カーターの捕縛のみ。それと情報収集だ。ほかの領民達に手を出すことは許さない」
「ならまずは、近くの村へ行って腹ごしらえと情報収集かしら」
ミサトの言葉にサトルがうなずく。
「各人、わきまえよ。我々は神の代行者であって、無差別殺人者ではないことを」
「わかってるってば……しかし、おれらに逆らう奴らは、殺しても構わないんだろ?」
トウヤに言われて、サトルがあっさりとうなずく。
「無論だ。我らの神に逆らったことと同義だからな。領民だろうと、逆らうのなら……殺して良い」
「くくく……たのしみだぜぇ! 待ってろカーター領! ま、どんなとこか知らねえけど、ド田舎なんだろうなぁ、おれの実家と同じで」
トウヤが言うと、ミサトがうなずく。
「確かあんたの実家、長野のクソ田舎だっけ」
【長野】という、この世界では、なじみのない地名を言う。
「あー……そうだよ。ああでも……懐かしいなぁ……」
「そうね……もうあたしたち、帰れないものね……」
そう、彼女たちは実は、異世界からやってきた、【転移者】なのだ。
「気を引き締めよ。われらの故郷へはもう帰れない。ここが、われらの第二の祖国。国のために戦うのだ」
サトルがみなを見回す。
彼らは全員、どこかあきらめたように……うなずく。
「では、参るぞ」
★
数時間後。
宿屋にて。
「「「この街、しゅ、しゅげぇえええええええええええええ!」」」
街の中で情報収集を終えた七聖騎士達……。
「ど、どうしたのだ、おまえら?」
困惑するサトルをよそに、残り6人の聖騎士達が、目を輝かせて言う。
「サトルすげええよ! この街……漫画あった!」
「は? コミックなら、この世に普及してるだろ……」
「違うんだよ! 漫画! スラダンがおいてあったんだよ、スラダンが!」
「ハッ!? ば、バカなことをいうな!」
スラダンとは、サトルたちの世界で、大流行したスポーツ漫画だ。
「この異世界に存在するわけがないだろ!」
「そう言うと思って、買ってきたぜ!」
トウヤから漫画を渡される。
それは……紛れもなく、元の世界で流通していた、スラダンの漫画だった。
「うそ……だろ……」
呆然と、彼がつぶやく。
トウヤはぐすぐす……と涙を流す。
「もう二度と読めないかとおもって……あきらめてたんだ……けど、この街に売ってたなんて、なんて……すごい街なんだ……」
そして、その一方で……。
「ねえサトル! 聞いてよ、マックのハンバーガーが売ってたのよ!」
「そんなわけがあるか!?」
マックとは、彼らが元いた世界でふつうに存在した、ハンバーガーチェーンのこと。
もちろんこの世界にもバーガーはあるが、向こうのものとは比べものにならないほどまずい。
しかし……。
「見てみなさいよ、ほら!」
ミサトがもっている紙袋の中に、懐かしの、マックのバーガーが入っていた。
恐る恐るサトルが手に取って一口食べる。
「うぐ……ぐす……」
サトルは、懐かしさで涙を流す。
「マックの味だ……」
「ね! すごいでしょ! この街……!」
サトルは涙を拭きながら、久しぶりに食べるマックのハンバーガーを完食する。
「ほかにも映画館やボーリング場などの娯楽施設も充実していたぞ」
ヤヒコからの報告を聞いて、トウヤが信じられない……と驚愕の表情を浮かべる。
「なぜ、この世界に、われらの世界の漫画や食い物などの文化が……?」
すると、トウヤ以外の面子が、口をそろえて言う。
「「「ノア・カーターのおかげだそうだ」」」
「ノア……おかげ?」
トウヤ達が、街の人たちから聞いた情報を語る。
「ノアはどうやら、異世界の文化に造詣が深いらしい」
「ノアが部下達に命令して、異世界の文化を積極的に普及させているそうよ」
「結果、領民達はみな幸せに、便利な生活を送れているそうだ」
サトルは困惑する。
「ば、ばかな……ノアは、神に背くものではなかったのか?」
するとルミが首を振って言う。
「……領民達は、みんな笑ってました。ノア様は領民達の暮らしが豊かになるようにと、色んなアイディアをだして、資金援助も積極的に行っていると……」
「なんだ、それは……最高の領主みたいではないか」
……真相は、違う。
ノアが異世界の文化を流行らせたのは、単に自分が楽しみたいからだった。
ノアには禁書庫の魔神、ロウリィがついている。
彼女は異世界の知識をももっており、その中に出てきた便利なアイテムや、美味いグルメなどに、興味を持った。
そして、自分のためだけに作らせた。
……ようするに、領民達を豊かにする気などサラサラなく、自分のために、やったこと。
それを領民達は、自分たちのために色々やってくれる、と解釈している。
結果、七聖騎士達に、誤った情報が、入ってしまった次第だ。
「なあサトル。本当にノアは、悪いやつなのか?」
「……どういう意味だ、トウヤ?」
トウヤは真面目な顔で言う。
「本当に悪いやつなら、領民達はもっと暗い顔をしてるだろ。でもここのやつらは……みんな笑ってる」
「き、貴様! エルレイン様を否定する気か!」
「そうじゃねえ。そうじゃねえよ……ただ、殺すほどの悪いやつなのかなって」
「あたしも同意見よ。少なくとも、ほかの七聖騎士たちも、トウヤと同じ気持ちよ」
うんうん、と6人がうなずく。
「くそっ! 簡単にほだされよって!」
サトルだけが信じてない様子だ。
「どうせおおかた、ノアを殺したら、異世界の文化が味わえなくなるとでも思ってるのだろう!?」
「まあ否定はしねえよ。けど、本当の悪人なら、異世界の物を悪用して金儲けするはずだろ?」
「ぐ……! そ、それは……」
……ノアが思いついてない無能ムーヴを、思いつく聖騎士。
「漫画もハンバーガーも、金になる。稼ごうと思えばいくらでも富を築ける。そうせずに領民の暮らしを向上させてることに終始しているってことは……いいやつなんじゃないの?」
違う。単にノアは、そこに、価値があると思ってないだけ。
というか、思いついてないだけ……もっといえば、バカなだけだった。
「もういい! おまえらはここにいろ! ノアのもとへ、直接乗りこんで確かめてくる!」
サトルは仲間達を残して、ひとり、カーター領主の館へと向かう。
「認めない! 絶対に認めてなるものか! 我らが信じるべきものはエルレイン様、そして、神だけなのだからな! 絶対に、ほだされたりしないからな!」




