女王陛下の戴冠式の準備は大変でした。
それからが大変だった。
急遽、戴冠式制定委員会なるものが結成されて、私も当然のごとくその中の一員にさせられた。
何しろ、王宮を淫乱側妃に占拠されているので、戴冠式の資料がないのだ。
「どのみち一からやるのなら、世界一の戴冠式をやったらどうだ」
更に、クリスティーン様のお気楽な一言で、大変なことになってしまった。
過去の戴冠式の資料を徹底的に集めて、その中からいいところだけ取り出すのだそうだ。
私はそれ以外にもルンド先生の徹底的な礼儀作法講座でつけ刃の礼儀作法を叩き込まれたのだ。寝る間も惜しんで。それこそ徹底的に。
その上、参加する大量の各貴族の特徴等をイチから覚えさせられて、もう死にそうだった。
そして、その間にも早くも次々に私に味方する貴族たちが到着して、その度に私は謁見させられのだ。その前に資料を見せられて覚えようとするのだが、中々大変で、もう頭もパンクしそうだった。誰が誰かもうろ覚えだし。
その上、何故かオースティン王国の貴族の数が予想以上に多かった。まあ、こちらに未来の国王のフィル様がいるのだし、未来の宰相のイェルド様もいるのだ。それに次の騎士団長と呼び声高かった、クリスティーン様までいるのだ。当然と言えば当然なのかもしれない。
でも、この国は優秀な彼らがいるから成り立っているのであって、彼らの代わりなんていないんだけど。いつまでこの国に引き留めておけるか判らないけれど、今彼らに抜けられると国が立ち行かない。
私が不安になっていると
「どうしたの。アン。心配そうな顔して」
エルダが聞いてきた。
「いやあ、オースティン王国の貴族の方も多いなと思って。さすがにフィル様達がいるから多いわよね」
「そらあ、そうだけど、あなたにも会いに来ているわよ」
「えっ、私に?」
「だってあなたは女王になるけど、未来のオースティン王国の王妃にもなるんだから。どんな人物か興味があるでしょう」
「えっ、そうか、私がオースティンの王妃様になるの?」
「なるに決まっているでしょ」
エルダが当然のように言ってくれるんだけど、移動に1週間位かかる両国を行き来するのは大変なのではないだろうか。私はそう思うんだけど。
「まあ、ここでエスカールが逆らってくるんだったらいっその事併合してしまったら良いんじゃない。そうすれば3カ国連合になって巨大な帝国が出来上がるわよ」
イングリッドなんて適当に言ってくれるんだけど、そんなの出来っこないじゃない。
「この国を統一するだけでも大変なのに、そんなの無理でしょ」
私が言うが、
「まあ、でも戦乱続きでエスカール結構貴族の不満が大きくなっているみたいよ。『この国は戦いがなくて良いですな』って父のところに仕事できていたエスカールの侯爵が言っていたから」
エルダが言うんだけど。まあ、エスカールは新スカンディーナ王国を15年間も支援してきたのだ。その事は結構大変だったのかもしれない。
そこへノックの音がした。
珍しい。この部屋にノックしてくるなんて。皆好き勝手に入ってくるのに。
「失礼します。オールソン公爵夫妻がいらっしゃいました」
イリヤが案内してきたのは、なんと、エルダの両親だった。
一瞬でエルダの顔が無表情になる、がその母を見てエルダの顔が輝いた。
「え、エルダ!」
そこには娘の顔を見て喜ぶ父親がいたんだけど。
「お母さま!」
「エルダ!」
エルダは父親は無視して母親である公爵夫人と抱き合ったのだった。
「無事だった」
「ええ。みんな、良くしてくれて。でも、アンに許してもらうのが大変だったわ」
「アン! あなたも無事で良かったわ」
公爵夫人が私を抱きしめてくれた。
「ありがとうございます」
私も抱きしめ返す。
「最ももうアンネローゼ様って呼ばないといけないんだけど」
「まあ、いやですわ。母の友人だった夫人にはいつまでもアンと呼んでいただきたいと思っているんですけれど」
夫人に私が言う。
「そう、忘れるところでしたわ。こちらが私の夫ですの」
私は初めてエルダの父に紹介してもらえた。
「はじめましてオールソン公爵」
私が手を差し出す。
「これはこれは殿下。お初にお目にかかります。エルダの父です」
公爵がその手を取ってくれた。私はその横のエルダを見ると
「ふんっ、私は父はいません」
横でぶすっとしたエルダの声がした。
「いや、エルダ、私が悪かった。だからいい加減に許してくれ」
今にも土下座しそうに公爵が言うんだけど。
「絶対に許さない。お父様のせいでアンが殺されそうになったのよ」
「いや、それは、まさか王妃様がそこまでするとは思ってもいなかったのだ」
「ふんっ、フィルの言葉によると王妃様もまさか近衛がそこまでするとは思っていなかったそうよ」
「いや、あの、そのだな」
「お母様。長旅でお疲れでしょう。身ぎれいなサロンがあるの。そこで色々お話しましょう。アン、あなたもいらっしゃい」
そう言うと、私と夫人を連れてエルダは何か言いたそうな公爵を残して出ていこうとした。
私は残されたフィル様らに手を振って後のことを頼んだんだけど・・・・
結局公爵はエルダに許してはもらえなかったのだった。




