王太子との艶聞でいじけていたら、隣国に王都を占拠されてしまいました
「なんか皆、酷い! あんな噂、流すなんて!」
私は執務室で、一人でぶつぶつ呟いていた。
「アン、いい加減にウジウジしてないで!」
イングリッドが注意してくるんだけど、
「あんたね。他人事だと思って」
「良いじゃない! これで晴れてフィルと結婚できるんだから! したかったんでしょ!」
「それはそうだけど・・・・でも、やってもいないのにやったって言われるんだよ」
「やったやったってまたあからさまな」
「ああああ!」
エルダの私を嗜める言葉を無視して、私は頭を抱えた。
「アン! そんなに俺と噂されるのがいやなのか?」
フィル様が少し傷ついたように聞いてくれるんだけど。
「誰でも、結婚前にしたって噂されるのは嫌なんです」
前世ならいざ知らず、この世界では女性の貞淑は大切なのだ。
これが緩いと阿婆擦れとか、尻軽女とか言われて、軽蔑される。
私は女王になるのに、女王が淫乱で良いのか?
「アンネローゼ様。そんなことに悩むよりも、終戦した後の領地の配置、ちゃんと考えて下さいね」
イェルド様が黒い笑みで言ってきた。元々、元凶はイェルド様なのに・・・・
まあ、領地決めもちゃんとしないと行けないのは確かだ。多くの領主が没落して、私に付いてきた領主に褒美を与えないといけないのだ。
これを間違えると不満の温床になる。
ここは国主が一番気にしないといけないところだった。
でもまだ、戦いは終わっていない。
制圧も完了していないのだ。
敵の女王が降伏もしてきていない。
そんなときにこんなことを考えていて良いのか?
と思わないでもなかったんだけど。
皆は最大の敵のブルーノを倒したことで浮かれていたのだ。
ブルーノ以外のめぼしい敵がいないのも油断した原因だった。
それに主力がブルーノとの戦いで負傷してしばらく動けなかったのも、我軍の動きを遅くした原因だった。こちらに寝返って浅い軍を独自に使うのは難しかったのだ。
昔からの信頼出来る軍はクリスティーン様の4千と、我が領の千、二クラスの千、ロヴァミエ伯爵の千くらいだ。7千人。しかし、一番大きな被害を受けたのもその7千で、なおかつ、私もクリスティーン様もガーブリエル様も負傷していたのだ。
イェルド様は文官達を使って次々に降伏勧告を出したが、様子見の貴族たちも多く、すぐにはうまく運ばなかった。
やっと3日後にクリステイーン様が動けるようになって、最近配下に入った軍も引き連れて周りの制圧に向かい出したんだけど、取り敢えず、広大なブルーノ摂政の領地を抑えるのが先決だった。
イェルド様はスカンディーナの女王に降伏を勧告したが、女王側からはナシのつぶてだった。
我々は仕方なしに、ムホスに軍を集結し、攻撃軍の編成をしようとした時だった。
「た、大変です」
兵士が駆け込んできた。
「どうしたんだ」
フィル様が聞くと
「スカンディーナの王都が新スカンディーナ王国によって占拠されたそうです」
「何だと」
皆は色めき立った。
新スカンディーナ王国はブルーノによって完膚までに叩きのめされたと聞いていたのに。何故?
「事実なのか?」
「斥候による報告です。確かだと」
それからはてんやわんやの大騒ぎになった。
直ちに各地に斥候が飛んで各地から情報を集めさせた。
なんでも、新スカンディーナ王国は側妃の母国エスカール王国から5万の援軍を得て、電光石火一気にスカンディーナの王都を落としたそうだ。
女王を始め残っていた王族達は処刑されたそうだ。
フィル様達は地団駄を踏んで悔しがった。
だから、のんびりしていてはいけなかったのに!
私はそう思った。
でも、急いで入ってきたイェルド様はなんか見た感じ予定通りって顔をしているんだけど。
「まあ、やられた事は仕方がありませんな。次善の案に従って行動しましょう」
余裕の表情で次の案を出してきたんだけど、これは絶対に前もって知っていた感じだ。
「イェルド、お前、敵の行動を掴んでいただろう」
フィル様が白い目でイェルド様を見るけれど。
「まさか、そのようなことはありません。ただそうなるかもしれないと、すべての可能性を考えて作戦案を作っていただけです」
「しかし、今まで渡された行動予定表と比べて遥かに分厚いぞ」
フィル様の言うとおりだ。今までのは薄っぺらい紙一枚だったのに、これは何十枚も事細かに書かれているのだ。絶対におかしい。
「まあ、旧スカンディーナ王国の掃除はエスカールにやらせれた方が楽ですからな」
そう言って黒い笑みを浮かべるイェルド様を見て、絶対にわざとやらせたと確信したんだけど。
でも、王都をエスカールに取られて本当に良かったのか?
私は問題山積みのような気がしてとても憂鬱になったのだ。
どうするアン?
続きは明朝更新です。




