ムホスの城壁都市は馬鹿にした私の火の玉の前に制圧されました
翌朝になった。私は一人用のテントから起き出した。
今回は恐らく最終決戦ということで、ブルーノが出てくる。危険なので、ついてくるという、エルダやイングリッド等他の女性陣には遠慮願ったのだ。
出来たらフィル様にも遠慮してほしかったのだが、フィル様は頑として聞かなかった。
オースティン王国の為には王太子が戦場に出るのは良くないだろう、危険だしと思わないでもなかったが、一緒に最後までいてくれるというフィル様の言葉が嬉しかったのも事実だ。これから戦争に向かうというのに、私は少し浮かれていた。
朝のスープにも何故かニンジンがデカデカと入っていて、それをスプーンでフィル様に食べさせて朝からみんなの顰蹙を買っていた。
ムホスの街まで5時間位だ。歩兵もいるのでゆっくりとした行軍速度だ。
行軍はクリスティーン様の4千を先頭に、ロヴァミエ伯爵、二クラス、東方諸侯連合6千。ドクラスの傭兵部隊が続き、その後に最近降伏してきた諸侯の軍が続いた。
最後が私の千名だ。
ヴィルマル様らの魔術部隊は今回はクリスティーン様と同行していた。
行軍が街をではじめてから本隊が出るまでに5時間位かかった。
私が出る頃にはクリスティーン様がムホスの街についていた。
ムホスの街は城壁で囲まれた町だった。なんでも昔の要塞都市だそうで、その造りは頑丈だった。
町の中には5000の兵がいて、ここから広大な摂政ブルーノの領地になっていたのだ。ブルーノは新スカンディーナ王国を攻撃していたはずだが、今は王都に帰って来ていて王都から出撃したという情報が入ってきていた。出来ればブルーノの大軍と遭遇する前に、ムホスの街を落としたかった。
私は壇上に立った。そして、ヴィルマル様が作り出した拡大したスクリーンに私の姿が投影される。めちゃくちゃ恥ずかしかったのだが、ここ最近イェルド様とルンド先生によって、徹底的に訓練されたのだった。本当に二人とも鬼だった。
「私はスカンディーナ王国の王女、アンネローゼ。わが父オスヴァルドとわが母アンネの仇を討つために兵を起こしました。親愛なる我が民であるムホスの民よ。直ちに降伏してください。繰り返します。直ちに降伏してください」
私は祈りのポーズ、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだが両手を握りしめて祈るポーズで固まった。民に対する自愛に満ちたポーズだそうだ。これ本当に大変なんだけど・・・・
「なんかご飯を恵んでくれって祈っている乞食女だな」
練習の時に18王子に言われて本当にショックだったんだけど。そう言った18王子はイェルド様とフィル様に叩かれていたけれど・・・・私はしばらく恥ずかしさで練習できなくなっていた。
一応エルダとイングリッドからも「本当に王女らしくなったわよ」と褒められたポーズなんだけど・・・・。本当なんだろうか? こんなことして意味があるのかと思ってしまうんだけど。本当の王女になった時の練習なんだそうだ。
今でも一応本当の王女なんだけど・・・・。誰もそう見ていないみたいだ。現に敵がそう言ってきた。
「そこの偽王女。俺は摂政ブルーノ様からこの要塞を預かっているアグレグだ。お前が前王の娘だろうが誰だろうが、知ったことではない。今は偉大なる摂政ブルーノ様がいらっしゃるのだ。お前らこそ、ブルーノ様に殺されたくなかったら素直に降伏しろ」
拡大音声で城壁に立った男が叫んでいた。
「やむを得ません。攻撃します。出でよ、火の玉」
私はそう言うとファイアーボールを5個放っていた。
私は格好つけて言ったつもりだった・・・・
でも、
ポヨンポヨンポヨンポヨン
火の玉はいつもの如くゆっくりだ。本当にムカつくことに。
こんなので良いのか?
私はクリスティーン様とかにもっと他の方法はないのかと散々聞いたのだが、私のファイアーボールが意表をついていて一番打撃が大きいそうだ。
しかしだ、その前だ。その前!
とことん馬鹿にされるんだけど・・・・私が・・・・
最初はアグレグも私が何をしたのか理解していないみたいだった。
キョトンとしている。
「おい、まさか、何か攻撃してきたのか。全然効いていないぞ」
大声で馬鹿にしてきたのだ。だから言わんことじゃないのに!
「偉大なる魔術師アンネの娘の王女様のファイヤーボールだからどんな巨大なものが来るかと思ったら、ポヨンポヨンって小さな火の玉が飛んでくるんだけど、どんだけ小さいんだよ。こんなんだったらおもちゃのお城でも傷つかないんじゃないか」
腹を抱えてゲラゲラ笑っている。こいつこれでも貴族か。いや、ちゃんとした平民でももう少し礼儀がなっているはずだ。ならず者を貴族にして民を虐げていると言うのは本当みたいだ。私はむかーーーーっとした。
「おい、野郎どもそろそろ行くぞ」
クリスティーン様がそれを無視して号令を出す。全軍騎乗した。
クリスティーン様の配下には私の火の玉の威力を知っているから誰も笑っていないが、新たに加わった兵士たちは馬鹿にしたように私を見ていた。
「おいおい、消えずにやっとここまで飛んできたぜ。こんなんじゃ、触っただけで消えるんじゃ・・・・」
馬鹿な男は触ったみたいだった。
ピカっ
ズドーーーーーーン
そこに巨大な火球が広がった。
ズドーーーーン
ズドーーーーン
次々に巨大な火球とともに大爆発が起こる。
粉塵が晴れたあとに城壁は木端微塵に吹き飛んでおり、唖然としていた敵兵は突撃したクリスティーン様の前にあっという間に制圧されたのだった。




