大軍になって一路王都に向かって出撃しました。
ついに4万人超えの人数になって、我がアンネローゼ軍はハウキプダスを出て一路王都に向かった。
今日は我が領、のキーモンキー伯爵領までだ。王都はそこから馬で2日の距離にある。
「な、なんで俺が山姥の馬車の護衛をしなければいけないんた」
「それを言うならば、何故王族の俺様がこんな潰れかけの王国の王女の馬車の御者をしけなければならないんだ」
私の馬車の御者台の二人は煩かった。
イェルド様は何をトチ狂ったのか私が一撃でノックダウンさせた自称勇者を私の馬車の護衛にしてきたのだ。
「これくらいの反骨心のある奴の手綱くらい軽く取っていただかなければなりません」
とか言われたけれど、こいつ、最初に私の侍女のイリヤを殺そうとしたのだ。私は未だに許していなかった。
ドクラスの18王子はいい加減に諦めたら良いのに。未だにブツブツ煩い。
「ちょっと前の二人、私の火の玉の練習台になりたいの?」
私がブスッとして言うと、
「ふんっ、そんな事したら周り一面焼け野原だぞ。そんな事は出来まい」
悠然と18王子が言ってくれるんだけど。
「ふんっ、そんなの調整したら終わりでしょ。あなた1人くらいが吹き飛ぶくらいに調整できるわよ」
「嘘をつけ、嘘を」
「ならやってみましょうか」
「おい、止めろ、こいつは考えなしなんだから、出来なくても攻撃しかねん」
勇者が18王子を止めた。
なんで自称勇者のほうが慎重派なのよ。
「いざとなったら戦場でおさらばすれば良いのさ」
ボソリと自称勇者が18王子にささやくのが聞こえた。
「それもそうだな」
18王子まで頷いていやがる。
私は石を自称勇者に投げつけた。
「痛て!」
頭を勇者が抑える。
「あんたらね。私は地獄耳なの。いい加減に覚えなさいよ」
私がムッとして言った。
「18王子、あなたは逃げたらあなたの所の国王の派遣した殺し屋が死ぬまで追いかけてくるわよ。逃げられるの?」
「いや、それはだめだ。やめてくれ」
「ふんっ、俺は関係ないからな」
「私の火の玉、ホーミングついているんだけど」
私は今度は勇者に言う。
「ホーミングとは何だ」
「逃げたら追跡して行くのよ」
「まさか」
「この前はブルーノをそれでやっつけたのよ」
私の火の玉は遅い。それがホーミング付きで放ったら、忘れた頃にブルーノに激突してくれてブルーノをやっつけたのだ。
「まさか」
勇者が首を振る。
「どのみちあなたはブルーノを裏切っているじゃない。ブルーノに見つからったら、命がないんじゃないの?」
「だから見つからないように逃げる・・・・、というか、ブルーノの目標ってお前じゃないか。ブルーノが来たら絶対に逃げられない。お前らそれを知って俺をここに配属したのか」
「おい、山賊勇者」
馬を寄せてフィル様が抜き身の剣を勇者の首筋に押し付けていた。
「これ以上、殿下に無礼を働くと首から上が無くなるぞ」
「くっそう、貴様ら卑怯だぞ。四方八方から、一対一なら絶対に負けないのに」
勇者が悔しがってフィル様を見た。
「何言っているのよ。一対一で私にやられたじゃない」
「あれは油断していてだな、まさか、素手で剣に殴りかかってくるやつが居るなんて思ってもいなかつたから、驚いてやられたんだよ」
「私に殴り倒されたのは事実でしょ」
「くっそう、いつまでもいいやがって」
ブツブツ偽勇者が言う。
「ふんっ、ちゃんと働いたらリーナちゃんに紹介してあげるから」
「元々知っとるわ」
ブスッとして勇者が言うが、
「へええええ、じゃあ、リーナちゃんとの仲取り持たなくて良いんだ」
「ううううう、すいません。殿下、何とか、許してもらえるように、言ってください」
勇者は私に頭を下げてきたのだ。
そう、聖女のリーナちゃんは小さい女の子のイリヤを殺しそうになったミカエルを未だに許していなかったのだ。
そして、自称勇者ミカエルは聖女に首ったけなんだとか。
「姉御、よければ私もメリーさんに紹介してください」
誰が姉御だと思わないでもなかったが、18王子が珍しくしおらしく言ってきたんだけど。
「ええええ、あなた、メリーが良いの?」
「あの、優しい性格が良くて」
「優しい?」
メリーに優しいなんて当てはまったっけ? 計算高い商人の娘のメリーのことだ。この18王子は使い道があるとでも思っているんだと思う。それに、エルダとかイングリッドら女性陣がこの俺様18王子に優しくするわけもないし。そんな中で、メリーが少しだけ下心満載で、優しくしたんじゃないかと思うんだけど。
「そうね。ちゃんと働いたら考えておいてあげるわ」
私はそう言っておいた。
これで少しはまともに働くだろう。
今回、どこかでブルーノが出てくるはずだ。それを絶対に叩かないといけない。不安要素はできる限り無くしておきたいのだ。
何しろブルーノは無敵だ。その力はおそらく世界最強。それになんとかして勝たなくてはならない。
まあ、出たとこ勝負でやるしか無いんだが。
唯一の安心材料は過去2回、ブルーノの襲撃を撃退している点だ。
でも、待てよ、その時は私の分身と言うか使い魔のミニアンちゃんがいたのだ。
でも、彼女はどうやらあの世に帰ってしまったみたいだし、今回は私一人だ。
いや違う。私には、周りのみんながいる。ガーブリエル様もヴィルマル様もフィル様や自称勇者達が。
皆でやればなんとかなるだろう。
私は少し甘い考えでいたのだ。ブルーノの力はそんな柔なものであるはずがなかったのだ。




