嬉恥ずかし絵本の効果からか大軍が集まっきました
その後が大変だった。
「やっぱり、赤髪の山姥の噂は本当だったのか」
「いやいや、アンネローゼ様は実は魔王の生まれ代わりだという噂が」
「本当ですか」
「クイバニ伯爵はアンネローゼ様のご不興を買って一瞬で爆死させられたそうです」
「そんな、アンネローゼ様に逆らうなどケミン伯爵は愚かですな」
「しかし、ケミン伯爵は弾き飛ばされただけで幸運でしたな」
「いやいや、後で爆死させられるのではないですか」
「地下牢で鞭打たれるのでは」
なんか後ろで伯爵たちが小声で話しているんだけど、私、耳だけはいいんだけど。
ぎろりとそちらを睨むと慌てて伯爵たちは話をするのをやめたんだけど、もう、私の二つ名は赤髪の魔王なわけ?
後で散々エルダに文句を言ったら、
「まあ、施政者が恐れられるのは良いことじゃない」
って他人事だった。
「あなたの日頃の行いが悪いからじゃない」
イングリッドなんて、本当に容赦がなかった。
「でも、領土が建国当時の20倍になったってすごいよね」
私は単純に感動していた。
「このまま行ったら統一もあと少しじゃない」
私は少し浮かれていたのだ。
「何言っているのですか。こちら側についた大半の貴族は、まだ、心服していると言える状態ではありませんよ」
「本当よ。いつ寝返るか判らないわよね」
「本当にアンは能天気よね」
イェルド様始めみんなに注意されて私はたじたじになった。
「そんなの判っているわよ。少し言ってみたかっただけじゃない」
そう言ったらイェルド様に白い目で見られてしまったんだけど。
「殿下。大半の貴族がいつ寝返るかわからない状況で、それをどうやってつなぎ留めるか、日々苦しんでいる私達の苦労もお判りいただきたいですな」
「はい。それは重々承知しております」
私はそう言われるとこう答えるしかないではないか。
「という事でこちらの承認を」
そう言ってイェルド様が絵本を一冊出してくれたんだけど、その表紙を見て、私は固まってしまった。
「な、何なんですか、『赤毛のアンの逆臣ブルーノ鬼退治物語』って」
私の大声が響いた。
そこにはブルーノに素手で殴りかかる私の絵が描かれていたのだ。
「その名のとおりです。国を逆臣ブルーノに追われた聖女アンがヒールや使えない火の玉で、サルとドラゴンと豚を家来にして鬼のブルーノを退治して女王になるお話なのです」
「ちょっと待て、イェルド。このサルってどう見ても俺何だが」
私が文句を言う前にフィル様が注文を付けたんだけど。
「えっ殿下、お嫌でしたか。ならばメルケルに変えればよかったですかね。そうか勇者に。その方がカッコいいかも知れませんな」
「いや、ちょっと待て、それは良くないが、この『キキーーー』ってのは何だ」
「まあ、サルですからな。仕方がないですよね。サルがブーブー言ったら可笑しいでしょう」
「本当よね」
エルダが能天気に笑って言った。完全に他人事だ。
「何笑っているんだエルダ。この豚どう見てもお前だぞ」
フィル様が絵をフィルダに見せた。
「えっ?」
エルダが固まった。
そして、つぎの瞬間、瞬間湯沸かし器みたいに真っ赤になった。
そして、その顔がどす黒く変わる
「お兄様」
地獄の閻魔もどうかという声を出したのだ。
さすがのイェルド様もぎくりとする。
「お兄様。この豚ってどう見ても私じゃない。妹捕まえて豚ってどういう事よ」
エルダが叫んだ。
「いつも文句をブーブー言っているではないか」
「そんなわけないでしょ、却下。嫁入り前の私を豚にするなんて信じられない!」
「いやあ、やっぱり身内も出さないといけないかなと」
何故かイェルド様が立ち上がっているんだけど
「それで妹を豚にするの? イングリッドにしたらよかったじゃない」
「何言っているのよ。他人に振らないで」
イングリッドが慌てて言った。
「いやあ、結構可愛く書かせたつもりだが」
イェルド様はそう言い残すと慌てて部屋から飛び出した。
「それで良い訳ないでしょ。ちょっと待ちなさいよ」
それをエルダが追いかけて行った。
「まあ、これで、この話は没だな」
安心した様にフィル様が言った。
まあ、妹が激怒しているんだからそうなるだろう。私がそう思った時だ。
「それは無理だな」
ぼそりとクリスティーン様が言った。
「何でですか」
私は驚いてクリスティーン様を見た。
「だって、私は本屋で見たぞ」
「ええええ!」
私は悲鳴をあげた。
「いやあ、本屋に山積みにされていて、みんな結構買っていたぞ」
ドラゴンになっていたクリスティーン様が言われて私は固まってしまった。
こ、こんなのが本屋で売られているの?
「それはクリスティーンはドラゴンだからいいですけれど、俺はサルですよ。サル」
「いや、結構可愛かったぞ」
「そういう問題じゃないんです」
フィル様は怒っているけれど、クリスティーン様が言われるようにサルになってもフィル様は可愛い。イケメンは違う。それよりもアンがめちゃくちゃ美化して書かれているんだけど、これはまずいんじゃない。
そう言ったらイングリッドに物語だから良いんじゃない、とあっさり言われてしまった。
少しは否定しろよ。否定。実物の方がかわいいとか・・・・
思わずそう思ってしまった私は最近自意識過剰かもしれない。
そんなこんなで、イェルド様の悪辣な企みがうまくいったからか、クリスティーン様の武勇が広まったからか、私の噂に恐怖したからか知らないが、軍勢は三万をはるか超えて集まってきたのだ。




