清廉潔白の伯爵領で伯爵と礼儀作法の先生が旧知の間柄なのが判りました
そして、伯爵領に出発する時が来た。隣の領なので距離的には大したことはない。
「ええええ! なんで俺様がそんな危険な所に行かなければならないんだ」
御者として連れてこられたドクラスの第18王子はブツブツ、いや、大声で文句を言っていた。
「グチグチ煩いな! なんだったらお前の父親をここにまた呼んでやろうか」
フィル様が凄んで言うと
「や、やめてくれ。それだけは」
18王子は必至の形相で頼んでいたんだけど。最初から素直に受けていたら良いのに! そう思ったら、その王子が私を睨んでいた。
「貴様、誰を睨んでいるか、理解しているのか!」
その王子をフィル様が思いっきり叩いてくれたんだけど。
「殿下。心の声が漏れておりました」
「すみません」
ルンド先生に注意されて私は謝るしか無かった。
心の声が漏れたら王女失格だ。
そう後でエルダに言ったら
「あなたのは心の声と言うより、声に出ているんだからから、それ以前の問題でしょ」
と完全にバカにされたんだけど・・・・そこは注意しようと再度思ったのだ。
馬車には私とルンド先生が、馬にはフィル様と三人の側近、それに私の騎士のメルケル、後は御者の18王子だ。
はるか見えないところに完全武装のクリスティーン様の1000名が。魔道部隊もガーブリエル様とヴィルマル様中心に20名が転移の準備をしていて、戦力も完璧だ。
まあいざとなればルンド先生くらいは守れると思うが、18王子は見捨てて良いって皆に言われているんだけど。まあ、あの図々しさだから自分の身くらい自分で守れるよね?って見たら、「守れるか!」って叫んでるんだけど。本当にこの王子って口だけなのね。
「あれだけ性格が歪んでいるんだから、アンの火の玉も避けるかも知れないぞ! だからいざとなったら、王子目掛けて放てばいいんじゃないか?」
アルフなんてそう言うんだけど、それで良いのか?
その方が楽だけど・・・・
「そんなわけ無いだろう! お前らに常識は無いのか?」
「お前が言うな!」とフィル様らに一括されていた。
隣の伯爵領まではそんなに離れていないんだけど、館に近付くに連れて、ルンド先生の顔が強ばっていくんだけど何でなんだろう? なんか物思いに耽っているんだけど。私が話しかけても気もそぞろだし、こんなの普通の先生ならあり得ない事だ。
やっぱり、伯爵と先生の間には何かあるんだろうか? 不審に思う私を乗せて馬車は、伯爵邸に着いたのだった。
馬車が着くと、フィル様がルンド先生と私が降りるのを手伝ってくれた。
迎えに来た家令によって私達は応接に案内された。
応接には私とフィル様が座る。ルンド先生は侍女という役回りで私達の後ろに立ってくれた。
そこへ少し待つと、精悍な体つきの伯爵が入って来た。
「いきなり、敵国の王女殿下がいらっしゃっても困りますな。私はこのスカンディーナ王国に忠誠を誓う伯爵なのです。周りの目もあるのです」
いかにも迷惑そうに、伯爵はのっけから喧嘩腰だった。
「信義に厚いロヴァミエ伯爵がどのような方かお会いしたかっただけですわ。母、アンネが親しくさせて頂いていたと聞いたもので」
私は笑って言った。そうこの笑顔が大切だと皆には言われているのだ。
「そのような事実はなかったと思いますが、そのような虚言を誰から聞かれたのか?」
氷の伯爵は表情も変えなかった。
ルンド先生からはそう聞いたのに!
私が先生を見ようと思うと、
「私ですわ。閣下」
伯爵にルンド先生が答えていた。
「ノーラ!」
伯爵はルンド先生を見て慌てて立ち上がった。
「オスカー!」
ルンド先生も思わず名前を呼んでいた。
二人の視線が絡まりあうのがはっきり判った。
二人の様子を見る限り昔、絶対何かあったんだ!
私達はその二人を、呆気にとられて凝視したのだ。




