金満王国の国王が飛んできて土下座することになってその道中の伯爵領が我が方に付くことになりました
私はどよーーーーんと落ち込んでいた。
「ちょっと、アン、何ショック受けているのよ」
「そうよ。あんな馬鹿、放っておきなさいよ」
エルダとイングリッドが言ってくれるんだけど。
「でも」
私はどよーーーんと見返した。
「ああいう馬鹿はどこにもいるから。たまたま変なのが来たと思っておけばいいのよ」
「そもそも、お兄様があんな馬鹿謁見させるからじゃない」
エルダの怒りが兄に向いた。
「いや、俺はドクラスの国王も知っているからな。てっきり援助の話を持ってきたと思ったんだよ。王子だって言うから、国王の意向を持ってきたと」
エルダに詰め寄られてイェルド様も必至に言い訳していた。
「ドクラスの奴ら。俺にここまで恥をかかせてただで済むと思うなよ」
何かイェルド様から凄まじい怒りのオーラが漏れているんだけど。
「アン、すまなかった。今度からあんな無礼なやつは即座に斬り捨てるから」
フィル様が必死に言ってくれるんだけど。
「私の価値って、金満王国の側女の価値もないんですね」
「えっ」
「いやあ、そうなれば2400億くらい援助してもらえるかなって思ったんですけど」
「アン、何を言っている」
私はフィル様をよく見ていなかった。
「それがたかだか18王子の側女って・・・・18王子って男爵くらいですよね。男爵じゃあ1億も無理ですよね、ああああ、私って・・・・えっ?」
私は横からメリーに突かれてはっと我に返った。
私の目の前には憤怒の形相のフィル様がいた。
えっ? 私、フィル様に何か酷いこと言った?
「アン!」
いきなり、フィル様が私の両手を握って来たのだ。
「君は俺の婚約者なんだよ」
ギロリとフィル様が睨んできた。
「は、はい」
いつまでその位置にいられるか判りませんが・・・・。でも、そんな事は一言も言えなかった。フィル様の怒りようにそんな言葉は言える状況では無かったのだ。
「それが何故、他国の側女になるなんて話になるんだ。絶対に君は離さない」
今度は思いっきり私を抱きしめてきたんだけど。
「フィ、フィル様」
ええええ! こんな皆の前で抱きしめるの。私はフィル様を押し返そうとしたが、フィル様はびくともしなかった。
ちょっと駄目だって・・・・
「ちょっとフィル、何しているのよ」
「公衆の面前で」
「いくら、アンがあなたの色の衣装を纏ってくれたのが嬉しかったからって、やって良いことと悪いことがあるでしょ」
エルダとイングリッド等によってやっとフィル様が離れてくれたけど、そう言えばこの衣装、ドレスの色はフィル様の瞳の色で金糸はフィル様の髪の色だったの・・・・。私は今頃気付いた。そして、真っ赤になった。
「ええい、うるさい。こうなったのも全てはあの18王子だ。今から処刑しに行こう」
「フィル、流石にそれは国際問題になる」
「18王子なんて殺してもどうってことないだろう」
フィル様はそう言うんだけど、私に側女になれって言っただけで殺されるっていうのも、可哀想だ。
そう言ったら、
「一国の王女殿下にそんな事を言いに来たんだから。殺されても仕方ないわよ」
「それも、いつ廃嫡されるかわからないけれど、一応今は大国オースティンの王太子殿下の婚約者なんだから」
エルダとイングリッドか言ってくれたんだけど、王女と言っても所詮、伯爵クラスの国だし、流石に男爵になれるかどうかの18王子の側女は嫌だけど、国王の側女くらいは仕方がないかも・・・・なんて怒り狂っているフィル様の前で言えるわけはなかったのだが。
その3日後だ。泡食ったドクラス王国の国王が飛んできたのは。
「此度は、愚息が王女殿下に失礼な行いをいたしまして申し訳ありません」
いきなり頭を下げてきたのだ。太ったお腹で頭を下げるのはけっこう大変みたいだ。
私は謁見の間でなくて、応接で国王とお会いしたかったのだが、怒っているフィル様とイェルド様が許してくれなかったのだ。でも、私の国ってまだ伯爵領が3っつくらいくっついただけだし、大したことはないのに。絶対にドクラス王国のほうが規模も特に金はたくさん持っているはずだ。なのに、こんな所に通して良かったの?
「アン、君はこのスカンディーナ王国の正統な後継者なんだよ。小国の国王など、謁見の間で十分だ」
フィル様はそう言うけれど、現実に今は侯爵領ほどの大きさもないんだけど。
謁見の間には周りの、この国の子爵や男爵も勢ぞろいしていた。彼らは一国の国王が頭を私に下げているのを見て、目を丸くしていた。所詮私なんて、前王妃の娘くらいにしか思ってもいなかったのだ。それがいつもは威張っているはずの近くの金満国家の国王が頭を下げているのだ。目を瞠るのも無理はなかった。
「これはドクラス国王、久しいな」
フィル様の氷のような声が響く。
「これはこれはフィリップ王太子殿下。此度は愚息が殿下の婚約者様に大変失礼な態度を取ったこと、誠に申し訳ありません」
もう、平身低頭だ。
えっ、オースティンの王太子ってドクラスの国王より完全に立場が上なんだ。まあ、オースティンは大国だけど。
「そうだな。あれほど、屈辱を感じたのは久しぶりだった」
「も、申し訳ありません」
「いや、俺など大したことはないが、イェルドとクリストフの母が激怒していると聞いたが」
「イェルド様とクリストフ様・・・・」
国王はフィル様が指した二人を見て少し考えたが、驚いた顔をした。
「オールソン公爵夫人とバーマン侯爵夫人がですか」
国王は真っ青になっている。
「そうです。恐れ多くも母は今は亡きアンネ王妃殿下とは親しいおつきあいをさせていただいておりました。その娘でいらっしゃる王女殿下のこともとても心配いたしておりまして、此度の貴国の王子殿下の狼藉に激怒、二度とドクラスの宝飾品は身に付けぬと申しておるそうです」
ダンっ
その言葉を聞いた途端に、国王は床に頭を打ち付けたのだ。
私は何が起こったか判らなかった。国王が土下座して頭を地面についたのだ。
ええええ! そこまでする?
「ま、誠に申し訳ありません。そのようなことになったら我が国は立ち行かなくなります。何卒、お許し頂けるように平に平にお願い申し上げます」
もう国王は真っ青だ。
後で聞いたんだけど、何しろ相争っているスカンディーナとエスカールと違って、平和そのもののオースティン王国はドクラス王国の宝飾品の8割を輸入しているそうだ。その貴族社交界の花と言われているエルダとイングリッドの母がドクラスの宝飾品を見たくないと言っているのに、それを付けていたら顰蹙ものだ。ドクラスの宝飾品の価値はがた減り、輸入も激減するのは必至だった。
「そうは言っても、あれだけの激怒した母を宥めるのはなかなか難しいのではないかと」
イェルド様は首を傾けた。何か後ろに黒い空気を纏わり付かせているんだけど。
「そこを何とかお願いいたします」
もう、国王はプライドもへったくれもなかった。
結局国王は許しを得るために、千人の兵士を派遣する事を約束させられたのだ。そして、その道中にある、6つの伯爵領が、脅し、躱し、金に糸目をつけずに、強制的に我が国に編入させられたのだった。




