伯爵軍の大軍に一人で対峙して、王女の印籠を振りかざしてみましたが、全く効果はありませんでした
隣のパパランダ伯爵軍が攻めてきたという報に私たちは司令部に向かった。
その部屋では10人くらいの兵士が各地からの砦との報告を、大魔術ガーブリエル様が私との連絡のために開発した連絡魔道具、魔道無線を使って受けていた。私は各地からの報告を迅速に行うように、その魔道具をガーブリエル様に頼み込んで量産してもらったのだ。まだ数は20も無いが、取り合えず、各村と領都の連絡用に配備したのだ。この魔道具は、魔力がいるので一般人は持っても使えないが、領内の狭い範囲ならばそんなに大きな魔力量はいらない。魔力の少しでもある者なら使えるので、とても便利になったのだ。
各村にも魔力のあるものは最低でも二桁はいたので、その点はとても便利になった。
「ムオニオの村の砦に1000名近い軍を率いて現れたそうです」
兵士の一人が叫んでいる。
「わが方の騎士団の集合状況は?」
「半分くらいです」
クリスティーン様の声に兵士の一人が答える。
『あっ、村長が飛び出しました』
ムオニオ村からの魔道無線から声が響いた。
「なんだと、我々が行くまで防戦に努めろと元々言い含めているだろうが」
クリスティーン様が言うが、あんなちゃちな砦、軍が行く前には落とされているだろう。
でも、村長は元々そんな無茶をするタイプではなかったのに。なぜ飛び出したんだろう?
『なんか伯爵らしい指揮官と言い合っているみたいです』
「やむを得ん。集まっている軍だけ率いて行くぞ」
クリスティーン様が駆けていこうとした。でも、到底間に合いそうもない。
『あっ、村長の前に騎士が剣を振りかぶりました』
「な、なんだと」
やられる! あの温厚な村長が。
私は何も考えなかったのだ。
心の中で現地を探ると今まさに村長は斬られようとしていた。
「村長!」
私は叫ぶと同時に転移しいた。
『アン!』
みんな、私を止めようとしたがもうその時には転移していた。
そして、転移終えると騎士が振り下ろしてきた剣諸共
「私の民を傷つけるな!」
思いっきり殴り倒していたのだ。
王女が殴るってどういうことなの?
そもそも素手で剣と対峙して勝てるのか?
いろいろ思うところはあるが、この時も騎士の剣を叩き折って、その勢いのまま、騎士を殴り倒していた。
騎士はあろうことか、私の鉄拳で吹っ飛んで馬上の司令官と思しき男に激突、司令官を落馬させていた。
「な、なに奴だ」
周りの兵士たちが思わず抜刀した。
えっ? 興奮が冷めると私はいきなり敵陣の真ん前に一人で躍り出たことに気づいてしまった。
やってしまった。これっていきなり詰んでしまったのでは・・・・
私は青くなった。
「で、殿下」
村長は私に助けられて思わず私を見つめていた。
後ろの砦では驚いた兵士たちがこちらを見ている。
ここはカッコ悪いことはできない。
でも、一人で千人の敵兵と対峙するのは初めての事だった。足は震えているし、もう、膝もガクガクだ。
「おのれ、貴様が暴虐令嬢か」
いきなり馬から叩き落された司令官らしき男が激怒して立ち上がった。よく見ると立派な鎧を身に着けている。これは伯爵本人が出てきたようだ。
私に弾き飛ばされた騎士らしきものは立ち上がれないみたいだ。よし、1000人の内1人は倒した。それがどうしたと思わないでもないが、気持ちは大切だ。でも、1000人が999人になった所で何も変わらない。
「たった一人でわが軍の前に出てくるとはいい度胸だ。誉めてやろう」
そういいながら伯爵は剣を抜き放った。
「閣下、暴虐令嬢は黒髪のはずです。赤毛は山姥王女では」
横の騎士が伯爵に声をかけた。
「山姥って、こいつ私のことを山姥って言った」
私はどうでもいいことをつぶやいていた。
「殿下!」
砦から20人くらいの兵士が槍を持って駆けつけてきた。
でも、みんな私の前でなくて、後ろに槍を持って横一列になってくれるんだけど、おいおい、私は突撃隊長ではないんだ! 王女なのだ。普通は王女を守れよ。と言いたくなった。
まあ、元々農民のみんなだから仕方がないといえば仕方がないんだけど。
皆期待して私を見ているんだけど、私はクリスティーン様ではない。1人で千人は相手に出来ないのだ。
「な、なんと、赤毛の王女自ら出てきたというのか」
嬉々として伯爵は私を見た。そのクイバニ伯爵みたいに私を舐めるように見るのは止めて欲しい。こいつ、これでも由緒正しき伯爵か?
私は切れた。もうこうなったらやるしか無い。私のいなくなった使い魔ミニあんちゃんを真似ることにしたのだ。
「わっはっはっはっはっ」
私は手を越しに当てて正義の味方、後で皆に言わせると暴虐の魔王の高笑いをしたのだ。
後でエルダとイングリッドに散々馬鹿にされた。
「いかにも、私はこの王国の正統な王位継承者。アンネローゼ・スカンディーナである。一同頭が高い。控えおろう!」
私は水戸黄門の印籠よろしく、赤髪を振り払って伯爵軍を睥睨して言ってやったのだ。
普通は印籠を振りかざして助さん格さんがいうが、ここには判っている者もいない。印籠もないけれどおんなじだろう。そう言えば聖女が転生者だったから聖女を連れてくれば良かった。私は下らないことを考えていた。当然、皆この一言で頭を下げてくれると思ったのだ。
そして、当然のごとく皆を見回したが・・・・
あれっ、誰も頭を下げていない。
と言うかポカンとして私を皆見ていた。いや、馬鹿が何かやってやがるといかにも馬鹿にした目で見てくるんだけど。
後ろの兵士たちも一緒の視線なんだけど・・・・
お前らが当てにならないから、一世一代の勇気を振り絞ってやってやったんじゃない。何よ。その態度は。せめてお前らだでも、頭を下げろ!
私は更に最悪の状況に陥ったことを理解してしまった。
千の軍の前にか弱い女一人 どうなるアン。続きは今夜。
ブックマークまだの方は是非ともお願いします!




