勇者召喚編 たまごとハートビートパーティーだよ
「オーイエー! お兄ちゃんがんばれ! オーイエー! カーボンさんがんばれ!」
先端を硬くしたたまごアームを2本使って、わたしは光る結晶を叩いてクールなビートを刻む。たまごの全身も激しく動かし、これはまさに魂の叫びと言っていい、ソウルフルパフォーマンスだ。
「『レインボーニードルグリッター』!」
気持ちが高ぶり、キメ技名を適当に叫ぶ。
すこここかこけここんこんこかすか、と石を叩くと、そこから飛び出したキラキラ輝く光の欠片がアンデッドな魔物に突き刺さる。
「『プリズムサウンドレボリューション』!」
こかんこかんこかんこかんけこかこ、と叩くと、今度は光の渦がうねってアンデッドたちの身体に巻きつき、苦しむ魔物を締め上げる。
ほとんどのアンデッドが光の奔流に巻き込まれて、アップアップ状態になり動けない状態だ。そこを、見事な剣さばきのライルお兄ちゃんとカーボンさんが、一振りで数体ずつ、調子よく首をはねていく。
ふたりともフットワークが軽く、リズムにノって、まるで剣の舞いを舞っているように見えるほどダイナミックでかっこいい動きだけど、いくらなんでもスーパーパフォーマンス過ぎる。これも『リズムマスター』が発動しているせいなのだろうか?
倒された魔物たちはあっという間に身体が崩れて消え去り、そこには魔石しか残らない。
あ、そうそう、戦いの途中で石を踏んで転んだりしたらいけないからね。
魔石はたまごが拾っておくよ。
別に儲けを独り占めしようっていうわけじゃないよ、うひひ。
あとからあとから湧いてくる、この洞窟を住処にしているらしいアンデッドたちだが、次々に倒されていき、たまごの魔石コレクションになってしまう。
生きてる(死んでる?)時にはでろでろのグチャグチャで気持ちが悪い魔物なのに、魔石になるとよほど強い魔力の魔物だったのか、鮮やかな緑色のエメラルドみたいな石だったり、真っ赤なルビーみたいだったり、陽の光を集めたような黄色だったりしてみんな綺麗で、拾うのが楽しくなってくる。
波打ち際に落ちている、綺麗な貝や丸く削られたガラスの欠片を拾うような感じかな?
中には、ちょっとしたボス的魔物の魔石だったのか、ダイヤモンドみたいにきらっきらの石まであり、それを見つけたときの『当たり感』もまた楽しい。金目のもの……ではなくて、美しいものが大好きなたまごはご機嫌である。
「たまご!」
「あ、ごめんごめん」
石拾いに夢中になり、『リズムマスター』のお仕事がおろそかになると、カーボンさんから突っ込みが入る。
「オーイエー! ノってるかい、ユー!」
かんかんかこすかけんかんかここん
「クールでシュールなブームのビート!」
かきんここかんこけんこんこかきん
「イエーーーーーーーーーーーーーーーー!」
『GUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!』
たまごアームのスティックが奏でるイケてるリズムで、お兄ちゃんとカーボンさんは元気百倍になって剣を振り回し、ゾンビっぽいものたちは絶叫しながらさくさく片づけられていく。
うん、わたしたちは、心がひとつになった、サイコーにゴキゲンなパフォーマンスユニットだね!
「お疲れさま! クールでパッショナブルなパフォーマンスができて、たまご、感激だよ」
「おう、お疲れ!」
「いい演奏でした!」
ハイタッチの仕方を教えると、まだ興奮さめやらぬふたりは、たまごアームにバシッと決めた。イエー!
「さあさあ、これを飲みなよ」
わたしは『すごいミルクセーキ』を調合して渡した。3人でごくごく飲み干し(あ、もちろんわたしはたまごの中ね)同時にぷはーっと息をつく。
「ああ、ひと仕事した後のミルクセーキは美味しいや。どうやら洞窟内のアンデッドは全滅したようだね」
「ええっ、全滅だと? そんな……いや、たまごだからな。それにしても、信じられん戦いだった。まるで身体が自分のものではないみたいに動き……美味いな、これは」
『リズムマスター』に踊らされて、くたくたになったカーボンさんに、お代わりのミルクセーキを渡す。
「たまご策敵の画面を見ると、もうこの洞窟には水龍らしき魔物しかいないんだよね。あと、気になるんだけど……」
わたしは言った。
「たまご策敵は、敵は赤、味方は青のたまごで表示されるんだけどね。この水龍らしいたまごは赤と青がまだらに混ざった変な色なの」
「つまり、そのたまごの主は、敵にも味方にもなりうる、と言うわけですね」
ライルお兄ちゃんが言った。
「わかりました。それでは闇雲に攻撃しないように、向こうの出方を観察しながらいきましょう……リカさん、わかりましたか」
「わかりました。いきなり体当たりはしません」
「たとえ水龍が、高く売れそうな魔物だったとしても、欲に駆られて攻撃してはいけません」
「はい、大儲けのチャンスでも、金貨の塊に見えても、攻撃しません」
わたしは真剣な声で言った。
「このたまご、かなりヤバい生き物なんじゃ……いやいや、ライルがなんとかするはずだ、なにしろ『たまご取り扱い主任者』で、凄腕の『たまご使い』だからな」とカーボンさんがひとりごとを言った。
わたしはアームで適当に天井の石を打ち鳴らし、かーん、こーん、と言わせながら灯りをつけて、地図に従って進んだ。すると、半透明の鉱物の壁のようなものが現れた。どうやらこの奥に水龍ウォルタガンダがいるらしい。青くて大きな塊がぼんやり見えるから、あれが水龍なのだろう。
コンコン、とアームで壁を叩いたが、開かなかった。
「ねえ、開かない……あれ? ふたりともどうしたの?」
振り返ると、ライルお兄ちゃんもカーボンさんも顔をひきつらせてわたしを見ていた。
「どうしたの? じゃありませんよ。この向こうにいるのでしょう、伝説の水龍が」
「そうだ! なのに、なんでそんなに緊張感がないんだ!?」
青ざめた顔で、剣の柄に手をかけているカーボンさんが言った。
「だって、緊張したって仕方がないじゃん。あれをどうにかするためにここに来たんでしょ。どうにかしようよ」
「どうにかしたいのはやまやまだがな、いきなり突っ込んでいってどうするつもりだ!? 相手は巨大な水龍だぞ? 伝説になるくらいに強い生き物なんだぞ? たまごには作戦というものはないのか!」
カーボンさんに詰め寄られたわたしは、しばらくたまごをひねって考えてから「……ない」と答えた。
「たまご……お前ってやつは……」
がっくりと肩を落とすカーボンさんに「たまごですから」と声をかけ、ライルお兄ちゃんは壁を調べた。
「水龍と我々を隔てるこれは、ものすごく強靭な壁ですね。厚みはそれほどないのですが、ほら」
お兄ちゃんはミスリルの剣の先を壁に突き刺そうとしたが、ほんのちょっぴり粉が削れただけだった。
「先端に魔力を集めて刺しても、この程度しかダメージを与えられません」
「わあ、お兄ちゃんのミスリルの剣でもダメなの? そりゃあすごく堅いね」
「僕の魔力を全部使っても、穴のひとつも開きそうにないです」
「この、すぐ向こうにいるのになあ……」
わたしはたまごアームでばんばん壁を叩いた。カーボンさんは剣の柄から手を離し、ほっと息を吐いた。
「となると、逆にここは安全だというわけか。水龍のところに行くルートはここしかないのか?」
「うん。ここだけなんだよね。この壁は体当たりしても壊れそうにないなあ……」
せっかくここまで来たのにね。
ちょっぴり虚しい気持ちになったので、わたしは『たまごホーン』を出して壁にごんと頭をぶつけてみた。が。
ごんと言わなかった。
さくっと刺さっちゃった。
「刺さった」
「…………リカさん…………」
「…………たまご…………」
3人の動きが止まる。
「お兄ちゃん、穴をあけてもいいですか?」
よい子のたまごは、額のたまごホーンを壁に貫通させたまま、ライルお兄ちゃんに尋ねた。
「……はい、いいです。開けちゃってください」
「らじゃ!」
たまごアームでびしっと敬礼をすると、わたしはホーンを引っこ抜き、そこにたまごアームを差し込んで真ん中の支点にした。
そして、頭突きを繰り返してコンパスの要領でぐるっと穴を開けていく。
すこここここここここここここここここここここここここここここここ
結構簡単に刺さるね。
ここここここここここここここここここここここここここここここここ
キツツキみたいだね。
ここここここここここここここここここここここここここここここここ。
よし、一周したよ。
わたしは円の中心に刺したたまごアームを、壁に引っかけるようにして引いた。
がこっ。
半透明の堅い壁が丸く取れた。はい、貫通。
この壁は堅いし結構綺麗なので、高く売れるかもしれない、うひひ。
わたしはいそいそと壁の一部をたまごボックスにしまった。
「じゃ、行こうか!」
「たまご……お前は……」
「まあ、その、たまごですから」
さあさあ、みんなで水龍にご対面だよ!




