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脱出への道のり 2

「やはり、魔物の数が増えてますね」

「普通なら避けて進もうとすれば1度も戦わずに済むのにな」

「きっちり跡目争いの影響が出てますね」

「表では国家イベントとして上手く取り繕っていますけど、裏じゃ暗殺者の送り合いに毒殺未遂のオンパレードだという噂は真実だったんですね」


 ミカとレウス、ブランの感想の最後に、サラッと公国の裏事情を暴露するアラン。


「跡目争いなんてどこもそんなモノでしょ。それより、みんな身体の方は大丈夫?」


 ミカとアランのマップを頼りにシシーが射抜いた天井の穴を利用しながら移動しつつ、回避不能な魔物との戦闘を3度終えた所でシシーが確認を取る。まだ中層部を抜けていないのだが、ここも下層部ほどではないが空気が薄く、地上と同じ動きをしていれば体力の消耗が普段よりも早くなる。これがAランク相当の実力を持つミカが苦戦した本当の理由だろうとシシーは読んでいた。


「今の所は大丈夫です。シシー先輩の忠告通りに抑えて動いてますので」

「それにレウス先輩達が魔法で上手く魔物を抑え込んでくれるので、とてもやりやすいですし」


 ミカとアランの言葉に騎士学科、戦士学科の面々が頷いて同意する。ちなみにアランがオルフェレウスをレウスと呼ぶのはシシーへの配慮であり、暗黙の了解と化している。1度「オルフェレウス先輩」と呼んだ際にシシーが、誰それ? と、雰囲気で語っているのを目撃してしまったからだ。


「攻撃は通らずとも、行動の阻害としては魔法の有効性があるからな。いい訓練になる」

「そうですね。前衛がしっかりしているのでボクたちは焦らず狙いをつけられますし、安心して支援が出来ます」


 事前に話し合っていたのと、それぞれが優秀であったおかげで始めての連携でも上手く機能していた。

 20人で移動すれば道幅も狭くなるのでシシーとカトレアは戦闘には参加せず、スキル上げのために戦闘職系学科の面々に魔物の相手を任せて小人族2人の護衛に徹している。


「ハニーとメープルは?」

「大丈夫です~」

「わたし達は~、標高の高い所に住んでましたから~」

「自然と鍛えられてます~」


 それに生産作業は体力勝負な所があるので、戦闘職系学科の面々に勝らずとも劣らないだけの体力が具わって(そなわって)いたりする。次いでシシーはカトレアを窺い見る。


「アタシも平気さ」

「なら、このまま進もうか。ただし、変調感じたら遠慮なく言ってね」


 全員が了承して歩みを再開し、穴から上階へ跳び上がるさいには、ハニーとメープルはシシーとカトレアに補助してもらって上にあがり、アランを筆頭にした重鎧を装備している者は魔法学科の生徒に風の魔法で支援してもいながら、それからしばらくは問題なく進んだ。


「はぁ、こんな近くに鉱石があるのに掘り出せないなんて、アタシには拷問だね」

「分かります~」

「その気持ち~」

「今は時期が悪かったと思うしかないよ、姐さん」


 解ってはいても、未練いっぱいに壁を見つめてしまうのは鍛冶師としての性ゆえに、どうしようもない。鉱石が豊富なここは鍛冶師にとっては宝の山なのだ。少し掘っただけでゴロゴロと出てきそうな場所を素通りしなくてはいけないのは、カトレアにとって口惜しくてならない。


「公国のバカヤロー、って叫んでも罰は当たらないよねぇ」

「むしろ、多くの人がそう叫ぶと思います。あれを知ったら」


 合いの手は先頭を歩くミカから返ってきた。彼は立ち止ってある一点を手で指しており、その先を確認した者から露骨に表情を歪めていく。シシー達も近寄って先を見やる。


「……あれって~」

「もしかしなくとも~」

「……トラップだねぇ……」


 等間隔で取り付けられた燭台付きの魔導光球石で照らされた道は一見なんの変哲も無いようだが、ミカが指し示す場所には罠の気配があるのを慣れた者なら感じ取れる。


「人が設置した物ではありませんね」

「……予想はしてたけど、実際に確認するとへこむわぁ」


 人工の罠には魔法陣があるのだ。それを隠すために土や落葉をかぶせたりするのだが、発動しないよう慎重に調べていたブランが、それが無い事を確認していた。


「これで蜂殺迷宮の適正ランクが変わるか……」

「ええ。迷宮が安定する頃には罠の数も増えてるでしょうし……鍛冶師ギルドが絶望するでしょうね」


 魔物は強いが迷宮自体は変動せず罠も無いことから、ケチらずに腕のいい護衛をつければ良質な鉱石類を掘り出せると、鍛冶師ギルドでは人気がある迷宮だったらしい。

 罠があると知ったならば、以前のようには来れなくなるだろう。


「これ、ギルドに報告すべきなんでしょうが……国の上層部との癒着が噂されてますし、危険かもしれません」


 ギルドから告げ口されかねないとアランは言う。


「公国って、そんなに腐ってるのかい? 跡目争いが起きるくらいだから期待してなかったけど」

「確かな事は言えませんが、『斜陽の国』と陰で呼ばれているんです」

「亡くなった前大公は3男で、兄2人が次々と病に倒れた事でその座に就かれたんですが、国政に興味がなく豪奢な暮らしを好み、その結果として国が傾いてそう呼ばれてるんですが……」


 忠臣たちの努力で奸臣が蔓延る事はなかったが、前大公の贅沢三昧の生活は国庫を直撃したそうだ。

 世継ぎの公子は凡庸だが誠実な人柄であるため忠臣たちが支持しており、公女姉妹は我が強くて利己的、権力の拡大を目論む輩がそれぞれについて支持し、泥沼の様相を呈しているそうだ。


「アハハハ……絶対に関わりたくない!」


 力強く断言するシシーに誰もが頷いた。


「帝国へ報告して伝えてもらいましょう。不安定になった迷宮が安定するのには時間がかかりますし、遅くはないはずです」

「異議なし!」

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