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シシ―の推測

「……シシー、学園は残ってるかねぇ?」


 そう尋ねるカトレアの声には覇気が無い。それというのもカトレアが、シシー達兄弟の絆の固さを知っているからだった。レイオールとルカイアス、この2人がシシーの行方不明を知って大人しくしているはずが無い。

 怒りのあまり学園に殴り込み、犯人は血祭り、これくらいは普通にやってそうなのだ。「売られた喧嘩を買うのは当然、3倍返しは基本でしょ」と、朗らかな笑顔でのたまう性格であるだけに。

 結構本気で学園が心配になるカトレアだった。


「あー、うん、大丈夫、だと思う」

「そんな、気もそぞろな声で言われても……」


 逆に心配になります! と、全員の心の声が一致した。


「いや、うん、大丈夫です。潰すよりも、馬車馬の如くこき使って情報集めさせてるだろうから。ただ、威嚇してそうなんだよなぁ……先生たちの胃が崩壊しかかってるか、過労死の憂き目に遭ってるかもしれない……」


 だいたい、一瞬で楽にさせてやるほど優しくないよ、あの2人、と続く言葉に一同の顔が引き攣る。学園の方角に向けて合掌すべきか本気で悩む者多数。


「……そ、それはそれで心配ですが、ご兄弟はシシー先輩の生存を疑わず、再会できると信じているからこその、行動ですよね?」

「うん。学園でも時空の魔法が使われたのは特定してるだろうし、帰ってきたレイとルカにフリージア先生辺りが説明に行ってると思うんだよね。……学園って、時空の魔法についてどれくらい知ってる?」


 突然水を向けられたレウスとブランが驚きつつも応える。


「え、あー、大した事は知らんな」

「え、ええ。先程お話した事くらいですよ。存在は知られていますが、使い手はスキルについて隠す傾向にあるんです。過去や未来に飛べると知れたなら厄介な事になりますので、賢い選択ではありますが、それも理由となって研究が進んでいないんです」

「だよねぇ。飛ばされた時間が分からない、一生のうちに再会出来るか分からない=レイとルカが暴れる、原因作った自分の命差し出すから学園は見逃してくれって、フリージア先生ならやるだろうなぁ」

「……笑えないよ、シシー」

「うん、私もそう思う。……レイとルカが時空の魔法について何も知らなかったら、冗談抜きで血の雨が降ったかもしれない。けど、幸いにも師匠から聞いて知ってるから、そうはならないよ」


 一同がじっとシシーを見つめ、その話を聞き洩らさないように耳を傾ける。


「師匠曰く、時空の魔法は使い勝手がかなり悪い。自由自在に過去や未来に飛べたら、ぽんぽん歴史が変えられる危険性があるからね。どんなに魔力が有ろうとも、半年以内の未来に飛ぶのが精一杯。それを知っているから、レイとルカは暴走しないよ。…………怒り狂ってはいるだろうけど……」


 最後にぼそりと付け加えられた呟きが、どんな状態を指すのか分からず、他人事なのに冷や汗をかいてしまう面々。


「つ、つまり、それをレイから教えられたフリージア先生は、2人の感情が爆発しないうちに事態を収拾すべく奔走すると……」

「……影の支配者であるフリージア教官がその状態ならば、必然的に学園全体がそうなる訳で……」

「学園は必死になって俺たちの行方を捜している、という事か……」

「……それ故に、忍び寄る過労死の恐怖と先生方は戦っていらっしゃると……」


 行き着いた結論に、全員が学園の方角に向かって合掌する。「頑張って下さい!」「死んだらダメっす!」「無事にシシー先輩と帰ってみせますから!」などの声が聞こえるのはご愛嬌。声に出さない者も、心の内では似たり寄ったりな事を思っているのだから。


 一通り祈ったところで話しに戻る一同。


「早いとこ学園に戻るべきだねぇ、これは」


 もともと早く学園に戻るつもりではあったが、推測した学園の状況を知った今では、さらに早く帰らなくては! という気になる。レイとルカの脅威に戦々恐々としている教師陣を解放するのはもとより、あまり長くシシーと旅をしていては、兄弟の牙がこちらにも向けられるのでは? との考えが脳裏をよぎったからだ。

 早く怒れる双翼の元に翠玉の翼を還してやらねば……。


「と言っても~」

「公国は頼れませんよね~」


 犯人やその目的が不明である以上、下手な所には頼れない。事故の線が消えた今ではより慎重に行動すべきだろう。犯人が大規模な組織に属している場合を想定して、社会的地位が高く、戦力が充分で、なお且つ学園と学園が在る王国との関係が良好な国を頼るのが良策であるのだ。

 跡目争いにごたついている公国では条件に当て嵌まらない。例え跡目争いに終止符が打たれていても、国内は安定していないだろう。そんな国を頼るのは危険であった。


「ミカの提案通り、帝国へ行くべきだねぇ」


 ルフテ帝国ならば条件に合致する。国力は充分であるし、学園の大口支援者にして現在帝国を統治している女帝の元へ、レクソトーラ王の王弟が婿入りしており、両国の関係は非常に良好である。帝国を頼るのが最善であろう。

 全員がその意見に異論がないのを確かめたシシーは立ち上がる。


「じゃあ、早くここを出ますか」

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